2月5日放送『チコちゃんに叱られる!』(NHK)のゲストは、今回で5回目の登場となる若槻千夏と、初登場の関根勤。娘の関根麻里はすでに2回出演しているので、関根家としては通算3回目の登場だ。
火星人=タコ説が広まったきっかけは今ならBPO案件?
この日2つ目のテーマに入る前に、チコちゃんは回答者3人に火星人のイメージを描かせた。すると、見事に全員の絵がタコに似ているのだ。というわけで、チコちゃんが発表したテーマは「なんで火星人はタコなの?」である。そして、正解は「ウッカリしてウッカリしてドッキリしたから」であった。なんだ、それは……。
詳しく教えてくれるのは、英米文学に詳しい慶応義塾大学の巽孝之先生だ。曰く、発端はヨーロッパで火星が注目されたことだそう。ここで始まったのは、NHチコ教養講座「火星人はなぜタコなのか?」なるコーナーだ。ホワイトボードを挟んで登場したのは巽先生とNHKの中山果奈アナウンサー。……というかこれ、完全に『植物に学ぶ生存戦略 話す人・山田孝之』(Eテレ)のパロディじゃない! また、絶妙な番組をパロってきたな……。しかし、どうしてアシスタントは『生存戦略』の林田理沙アナではなく、中山アナなのか?
巽先生の解説が始まった。
その後、誤訳された論文はアメリカ大陸へ渡る。この論文を読んだのはアメリカ人の天文学者、パーシバル・ローウェルだ。
そのローウェルが書いた火星の本を読んだのが、イギリスのSF作家であるH.G.ウェルズ。1898年、彼はローウェルの本をヒントに後に大ヒットとなるSF小説『宇宙戦争(The War of the Worlds)』を出版した。そしてそのとき、火星人はこういう姿と思い込ませるようなイラストが本に描かれていた。これがまた、タコそっくりなのだ。確かに、外国人はタコを見てグロテスクと思うらしいしな……。
この小説は意外な方法で全米に広まった。それは、ドッキリ。1938年10月30日のハロウィン前夜、アメリカで小説『宇宙戦争』がラジオ番組として放送されたのだ。音楽が放送される中、緊急のニュース速報が飛び込んだ。
「音楽の途中ですが、ここで臨時ニュースをお伝えします。午後8時50分、正体不明の巨大な光る物体がニュージャージー州の農場に落下しました。
ラジオを聴いていた人々は「本当に火星人が攻めてきた!」と信じ込み、大きなパニックが巻き起こってしまう。何しろ、ニュースを信じ込んだ人は全米で100万人。避難しようと家を飛び出した人々の車が大渋滞になったり、給水塔を火星人のロボットだと思って発砲した人もいた程だ。こうして、『宇宙戦争』のラジオドラマは全米を揺るがすほどの大事件へ発展する。今なら絶対にできない放送だし、BPO案件になってしまうだろう。かつて、『とんねるずのみなさんのおかげです』(フジテレビ系)で放送された木梨憲武追悼特番ドッキリを思い出した。あれも苦情が殺到したっていうしな……。
ところで、火星人=タコというイメージは日本にはどのように広まったのか? 実は、SF小説『宇宙戦争』は日本にも輸入され、昭和に入ってからは火星人が襲来するSF小説が少年誌に多数連載されたのだ。こうして、子どもたちはタコの姿をした火星人に心奪われた。何しろ、手塚治虫のマンガに登場した火星人もタコの姿だったのだ。結果、日本人にも火星人=タコのイメージが浸透していく。
要するに、こういうことだ。
この日最後のテーマは「冠婚葬祭の『冠』ってなに?」という疑問であった。これは、筆者も気になっていた。そして、この問題になんと関根がチコってしまう。「冠」が表すのは成人式のことだと、見事に正解したのだ。チコちゃんは「冠婚葬祭(カンコンソウサイ)」→カンコンキンで関根勤をイジらないのか?
このテーマについて詳しく教えてくれるのは、國學院大学の新谷尚紀教授。曰く、冠婚葬祭は1つのセットとして考えるものとのこと。人が生まれてから亡くなった後までの人生のイベントを順番に並べた四字熟語だそうだ。「冠」が成人式だとすると「婚」は結婚、「葬」は葬式、「祭」はお祭りである。「祭」は祖先を祀る祭を指している。四十九日や三回忌など、亡くなった人を祀る祖先祭祀(そせんさいし)のことだ。
ところで、成人式を指す「冠」とは一体何のことなのか? 昔は一人前になるときに冠を、あるいは、烏帽子(えぼし)をかぶった。頭に被り物をかぶることが一人前の印だったのだ。奈良時代以降、数え年で12~16歳の男子が大人になる際に行われた元服の儀式では、冠をかぶることで大人と認められた。この儀式が時代を経て、現在の成人式へと変わっていく。
ちなみに、成人の年齢が二十歳になったのは1876年。平均寿命が延びたことなどが理由と言われている。国が成人の日を定めたので、大人になる儀式も成人式になった。実は、成人式は地方自治体が始めて全国に広がっていったものだそう。その自治体はどこなのか? 番組が調べてみると、埼玉県蕨市と宮崎県諸塚村の2つの自治体が「我こそが成人式発祥!」と名乗っていると判明。一体、発祥はどちらなのか……?
蕨市教育委員会の職員に聞いてみると、「蕨市の第1回成年式は終戦翌年の昭和21年、次代を担う青年たちに希望をもたせて励ましてやりたいと開催されました」と言っている。一方、諸塚村の教育長に聞いてみると「最初に始まったのは昭和22年4月3日です」。あれ、諸塚村は蕨市より1年遅い!? この事実を同村の教育長に伝えると「ふーん」とクールなリアクションだが……。諸塚村史によると「諸塚村の成人式を見た県の役人が国に報告し、成人の日が生まれた」としているようだ。さて、どちらを“成人式発祥の地”とすべきなのか。
「諸説ありますけども白黒つけない、これも大人ですよね」(新谷先生)
「じゃあ、(成人式発祥の地は)ニッポンですよ!」(関根)
余談だが、1月4日放送『ネプリーグSP』(フジテレビ系)で林修先生も「冠婚葬祭」の文字がそれぞれ何を指しているかを解説している。曰く、「『祭』は『祖先の祭礼』を表しており、先祖を祀るために一族が集まって行う儀式」「『冠』とは、元々『元服』のこと。冠を戴く=一人前として認められるという意味では、現代では成人式が近い儀式」だそう。『チコちゃん』が取り上げるたった1カ月前の話だ。ツイていないというか、何というか……。