ビートたけしが襲撃された!というニュースを聞いて「えっ?たけしは襲撃する方じゃない?」と思った、“RIDAY事件”を覚えている筆者は、ファミコン『たけしの挑戦状』を発売日に買った世代。
何をしていいのかわからない不親切な内容のため、誰もクリアできず後にクソゲー呼ばわりされたゲームだが、うちの小学校には「たけしをクリアしたやつがいる!」とウワサになり、そいつから「宝の地図は水につければ5分でいける」(本来は、日干しにして2時間待たないといけない)という裏技が伝わり、無事クリア。
それはさておき今回、容疑者の動機が「土下座して弟子入りを志願したのに無視されたので、ナイフとつるはしで襲った」というもので、にわかには信じがたい。
元暴力団関係者だともされ、「暴力団員が芸人の弟子入り?」ますます怪しいではないか。とはいえたけし軍団にはリアル・アウトレイジの人もいるので(TBSのオールスター感謝祭でクイズ問題にもなった)、本当に弟子にしてもらえると思ったのかも?
襲撃時の様子を「アクション映画みたい」と表現したたけし、すでに頭の中には次回作の構想が浮かんだのでは?
舞台、テレビ、ラジオそのほかの、あらゆるメディアでスターであるビートたけしは映画の世界でもスターだった。銀幕で活躍するたけしの作品たちを観て行こう。
若松孝二の『餌食』(1979)をリメイクした『魚からダイオキシン!!』は内田裕也が自分自身を演じており、91年の東京都知事選に出馬する様子が描かれる。内田は出馬を予定していたアントニオ猪木が、出馬を断念したことへの失望から挑戦したと言われた。
猪木が都知事選に出ようとしたのは、自民と公明、民社が相乗りした元NHKの磯村尚徳が、アナウンサー時代に猪木対モハメド・アリ異種格闘技戦を酷評したことから「真剣勝負を誰も理解してくれなかった」ことへの反発であり、内田裕也は無所属候補トップの5万票越えを果たしながら結果落選。
「猪木と同じ、世の中を変えたいという俺の気持ちを、誰も理解してくれない!」という怒りに満ち溢れた映画である。
この中でビートたけしは、友情出演というポジションで景山民夫に「FRIDAY被害者の会に入らないか?」と誘われる。当時「FRIDAY」(講談社)は幸福の科学を批判する記事を書いており、教団側はタレントや有名人の信者を使って被害者の会を設立する行動を起こしていた。
「俺は加害者だ!」
と景山を銃撃する!
暴力事件を自らギャグにしてしまうたけし、ほとんど演技じゃない、素だよこれ!
大島渚の最大のヒット作とされる『戦場のメリークリスマス』でたけしは、日本軍俘虜収容所のハラ軍曹を演じたが、これもほとんど演技なんかしてなくて棒で英国軍の俘虜、ロレンス(トム・コンティ)や部下を「このヤロ!バカヤロ!」とボコボコにしていた(そんなセリフじゃなかったかもしれないが、そう聴こえた)。
軍曹の上官で所長のヨノイ大尉(坂本龍一)は、俘虜となった英国軍のセリアズ少佐(デヴィット・ボウイ)を預かり、俘虜長のヒックスリー(ジャック・トンプソン)らから「武器に詳しい俘虜」の情報をよこせと迫る、だが反抗的なセリアズやプライドが高いヒックスリーは、知らないと言い張る。
無線機を隠し持っていたと言いがかりをつけ、ヨノイはセリアズとロレンスを独房へ放り込む。クリスマスの日、ハラ軍曹は二人を解放し酔っ払いながら「俺はサンタクロースだ」と笑う。
粗暴ながらロレンスらに奇妙な優しさを見せるハラ軍曹。だが終戦後に戦勝国からの一方的な裁判でハラには死刑判決が下る。戦勝国の兵士として処刑前日に再開を果たすロレンスには恨みも憎しみもなく、以前のクリスマスのことを思い出す。ハラはあの日のクリスマスのように「メリークリスマス、ミスター・ロレンス」と笑いかける。
ここでも演技なんて全然していないんだけど、不思議に胸が熱くなる場面だ。
つるはしで襲撃した人も『戦メリ』のたけしを観ていて、この人は粗暴に見えるけど優しい人だから襲撃しても許してくれるよね? と思ってたりして!
降籏康男監督、高倉健主演という黄金コンビによる『夜叉』でたけしは健さんと共演。
若狭湾の港町に大阪・ミナミからやってきた螢子(田中裕子)が、小料理屋を始める。やがて螢子の男、矢島(たけし)がやってきて店の客に栄養剤といって覚せい剤を売り始める。
健さんはかつて「人斬り夜叉」と恐れられた伝説のヤクザだったが妹が覚せい剤中毒で死んでしまったことから足を洗い、つきあっていた女(いしだあゆみ)とともに港町に流れ、過去を隠して漁師の生活を続けていたのだった。
たけし演じる矢島は、どうしようもないヒモで螢子を苦しめては泣きつく。覚せい剤がらみで借金をつくって追い詰められた矢島を、助けてほしいと螢子に縋られた健さん。奥さんがいながらうっかり螢子の魅力にハマって抱いてしまった弱み(情けない)から、健さんは大阪で矢島を助けるべく、ヤクザと交渉する。
降籏、高倉コンビの傑作のひとつと謳われている一本だが、中盤以降のストーリーは不可解極まりなく、ラストでどう考えてもそこは、ヤクザの親分のところにカチコミに行くところでしょ! という場面になるのになぜか健さん、カチコミに行かない! そのまま港町に帰ってきちゃう!
カタルシスゼロでわけのわからないオチになり、たけしも思わず「このヤロ!そこはカチコミだろ!」と突っ込みたくなるところ。
今回つるはしで襲われちゃったたけしも「バカヤロこのヤロ!」と反撃しようとしたけど、『夜叉』のラストを思い出してカチコミしない道を選択したのかも。
今回の記事を書いていて気づいたのだが、北野武監督映画ってまったくVODになく、サブスク展開していない。北野映画へ長年出資、製作していたバンダイ(現バンダイナムコアーツ)相手にたけしは、訴訟を起こしていてその影響か?
封印されているというわけではないから、ソフトを買うかレンタルすれば見られるわけですが、勿体ない気が……。
ちなみに出演のみの映画は見られるので、今回ご紹介した3本ともU-NEXTで見られますよ!君もFRIDAY被害者の会、じゃなかったU-NEXTに入会だ!