『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)Tverより

 12月19日の『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)にて、人気企画「売れっ子音楽Pが選ぶ年間ベスト10曲!」過去5年分(2016~2020年)の1位曲を大放出するスペシャル企画が放送された。

“マーケティングの鬼”西野カナの作詞術

 まずは、2016年から。この年の選者は作詞家のいしわたり淳治、音楽プロデューサーの蔦谷好位置、音楽プロデューサーのtofubeatsの3人であった。

というか、同企画にはいしわたりと蔦谷が毎年必ずいるな……。確かに慧眼の2人だけど、多くの人の嗜好や見方も知りたいだけに、いつも同じ人選というのはいかがなものだろうか……。

 それはともかく、この年のいしわたりのチョイスが意外だった。彼が1位に選んだのは、西野カナ「Have a nice day」である。

「あるときから、ミュージシャンは自分の気持ちを歌う、表現するところがゴールになっていて、その曲が世の中でどう機能するか、誰の生活のBGMになるか、そこまで考えが及んでいない曲が増えたと思っているんですね。西野カナの特別なところはその視点が絶対的にあることで、常に誰かの暮らしのBGMにどうやったらなるかということを考えている」(いしわたり)

「Have a nice day」の歌詞を見ると、生活の中でBGMになり得るフックのようなワードが散りばめられている。例えば、「ドンマイ ドンマイ」「これも運命」「いい感じ!」などだ。まあ、この曲は『めざましテレビ』(フジテレビ系)のテーマソングとして作られたため、番組OPにふさわしく「がんばれ私!」「がんばれ今日も」「行ってきます」「行ってらっしゃい」等のメッセージが散りばめられた……という事情のほうが大きいような気もするが。

 何にせよ、曲制作の際は周囲にアンケート調査を行い、綿密なマーケティングの上で作詞に臨む“マーケティングの鬼”西野カナの面目躍如だ。

菅田将暉をはじめとした“俳優シンガー特集”を組んでほしい

 2017年にいしわたりが1位に挙げたのは、菅田将暉「呼吸」だった。

「いつからか、日本の音楽はアーティストと呼ばれる人たちの自己表現の場になってしまいましたが、かつては“役を演じるプロ”である俳優ならではの歌というのがたくさんありました。菅田将暉の歌を聴いていると、忘れかけていたその感覚が帰ってくる感じがします」

「昔は例えば、西田敏行さんとか舘ひろしさんとか、役を与えられて歌うってことができる人たちがたくさんいらっしゃったと思うんですけど、今ってシンガーとして役をもらって歌う人がドンドン減ってきているから、俳優でここまで力があってすごくいい歌が歌える人が出てきてくれると、いろんな音楽が生まれていく可能性があるなと思います」(いしわたり)

 いしわたりのこの提唱は我が意を得たりだった。

この手の歌い手でパッと思い浮かぶのは、石原裕次郎小林旭水谷豊中村雅俊など。世代を下げれば、織田裕二三上博史反町隆史らがいる。さらに若い世代だと、桐谷健太北村匠海たちもそうだ。

 筆者は個人的に役者・菅田将暉のファンだが、一方で彼の歌手活動に関して長く腑に落ちない気持ちを抱えていた。でも、改めて系譜の中で捉え直すと俄然意義が掴めてきた。いつか“俳優シンガー特集”を『関ジャム』が組んだら、絶対面白いことになる気がする。

 2017年にいしわたりが1位に挙げたのは、ヤバイTシャツ屋さん「かわE」であった。2018年公開の映画『ニセコイ』の主題歌になった曲だ。いしわたりが注目したのは超キャッチーなサビの歌詞である。

「君はかわE越してかわFやんけ! 魅力、溢れてこぼれるやんけ!
 恥ずかC越えて恥ずかDやんけ! 気持ちE越えて気持ちFやんけ!
 かわE越してかわFやんけ! 魅力、溢れてこぼれるやんけ!
 たのC越えてたのDやんけ! うれC越えてうれDやんかいな!!!!!」

 流行語が歌から生まれなくなったことを、いしわたりはずっと気にしているようだ。

「『○○E越えて○○Fやんけ』『○○C越えて○○Dやんけ』という言葉は日常生活で使えるシーンも多く、これが世間に広まれば音楽が流行語を取り戻す可能性を秘めた1曲だと思いました」(いしわたり)

 RCサクセション「キモちE」のエッセンスを受け取ったヤバTが「ぴえん越えてぱおん」的な構造で、現代的に新語を発明しようとした1曲。確かに、「恥ずかD」は言葉としては面白い。

あと、いしわたりは作詞家として世の流れに敏感で、若い世代の新しいボキャブラリーを見ると応援したくなるところがあるように見える。

「もう1個言うと、昔はこういうふざけたとは言わないけど色物のバンドって誰かが『面白いんだよ、聴いてみて!』と言っても、自分で買うかって言ったら買わないし、レンタルしに行くかって言うとワンアクション多い感じがするんですけど、今って0円で聴けるので、むしろこういうもののほうがその場で聴いて盛り上がったりする。そう考えると、音楽の聴き方が変わったからこそ出てきたアーティストとも言えると思うんですよ」(いしわたり)

 褒めているようで、ハッキリと「買うほどじゃない」と言われるヤバT……。ただ、この志向性に可能性を感じるのはわかる。「こういうジャンルをヤバTが続けていって、いつか流行語大賞を獲ったら面白い」と、いしわたりは期待を寄せているようだ。

 2019年に蔦谷が1位に挙げたのは、Official髭男dism「Pretender」であった。これは文句の付けようがない。蔦谷はこの曲を「J-POPの金字塔」と表現した。

「メロディーの階段、反復、跳躍というJ-POPのヒット要素がこれでもかと詰まっている」と同曲を評した蔦谷は、「Pretender」にどんなテクニックが隠されているかを番組内で解説。端的に言えば、メロディーと押韻についてである。そういえば、清水ミチコが昨年辺りからヒゲダンの作曲法を解説する新ネタをレパートリーに入れていたし、「Pretender」を初めて聴いたときの印象はどこか懐かしかった。昔ながらのヒット要素をふんだんに盛り込んだ1曲でもあるということだ。

 韻でいえば、「Pretender」の歌詞には以下のような押韻がある。

「君の運命のヒトは僕じゃない
 辛いけど否めない でも離れ難いのさ」

「僕じゃない」「否めない」「離れ難い」とaiで踏んでいるのがわかる。その観点で、ヒゲダンの楽曲「ノーダウト」の歌詞も見てみたい。

「まるで魔法のように 簡単に
 広まっていく噂話
 偏見を前に ピュアも正義もあったもんじゃない
 仕方ない どうしようもない
 そう言ってわがまま放題 大人たち
 どうぞご自由に 嫌ってくれて別にかまわない」

 AメロからBメロまで、すべてiで脚韻を踏んでいるのだ。さらに、サビの箇所も。

「Let me show 神様も ハマるほどの 大嘘を oh 誰も ハリボテと」

 やはり、ooとeoで脚韻を踏んでいる。こうすることで曲にグルーブが生まれるというわけだ。上記のテクニックを、彼らは無意識的でなく明らかに意識的に盛り込んでいるはず。それが爆発したのが、2019年の「Pretender」だった。王道のJ-POPが復活した象徴とも言える曲で、文句なしの傑作である。

 というわけで、2021年の年間ベスト10曲は2022年の一発目となる来年1月9日放送回で紹介されるようだ。はて、今年のヒット曲って何があったっけ? 思いつくような、つかないような……。

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