ラッパーとラップ好き芸能人がタッグを結成し、二人三脚でバトル優勝を目指す『フリースタイルティーチャー』(テレビ朝日系)。現在、同番組では「芸人最強ラッパー決定トーナメント」が行われており、総勢16名の芸人がトーナメントでしのぎを削っている。
そんな中、12月22日放送分で興味深いマッチメイクが組まれた。準々決勝で顔を合わせたのは、ウエストランド・井口浩之(ティーチャー:SAM)と、霜降り明星・せいや(ティーチャー:ID)の2人だ。
井口は一昨年、ファンと名乗る女性とTwitterでDMのやり取りをする中で自分の局部写真を送付、それがそのままネットに晒されるという騒動に巻き込まれた。せいやは昨年、ファンの女性とZOOMでオンライン飲み会中に自慰行為を行い、その顛末が『文春オンライン』に掲載されるという目に遭った。せいやの件はハニートラップの疑いがあり、吉本興業が週刊文春を提訴して現在裁判中である。
両者の因縁(?)を知るファンを中心に、ネット上では「竜虎相搏つ」「いぐちんVSズムちん」、または“がちんこ対決”と空目するように「井口 VS せいやのちんこ対決」と盛り上がる事態に発展。
もちろん、ラップバトルという観点から見ても井口 VS せいやは白熱の一戦だった。“早口悪口井口”と称されるディスの速射砲と、「一番出たかった番組」と公言するM-1王者・せいやのラップ愛のぶつかり合いだ。あと、密かにSAM VS IDの対決でもある。
1ラウンド目で先行を取った井口は、この第一声からスタートした。
「お待たせ ちんこ対決の出番だ」
前番組『フリースタイルダンジョン』に晋平太が挑んだ際、モンスターのR-指定が放った第一声「お待たせ ラップオタクの出番だ」からのサンプリングである。ちんこを主軸としながら、決して出オチでは終わらなさそうな密度の濃さが俄然期待できる。
「ちんこ対決」と本人が謳うように、ここから井口はちんこに執拗にこだわり続けた。
「ちんこの話 いっぱいして いっぱいテレビ出て 一皮剥けたぜ こっちは」
「ちんこで稼いでんの僕かAV男優だろ オイそこどけ 村西とおる
僕が通る そこ通るから どけお前」
「ちんこ」と「一皮剥けた」と、「村西とおる」と「そこ通る」がかかっているのは言うまでもない。一方のせいやは、「ちんこはもう飽きてる」と言いつつ、律儀にちんこの話に付き合った。
「俺はスキャンダルで2回イッたって書いてた
お前より多いんだよ 精子の量が 生死も懸けてる お前にかけてやる
今 アクリル板にもな
ちょっと待っとけ チャック下ろす」
「精子をかける」と「生死を懸ける」がかかっているのは、これまた言うまでもないだろう。1本目はせいやが先取した。
しかし、この展開はせいや側からすると決して本意ではなかった模様。ティーチャーのIDがせいやに声をかけた。
「ボキャブラリーがちんこに集中しすぎてて……。そろそろせいやさん、(日本刀を抜く構えで)抜きましょうか。必殺技、お願いします」(ID)
「抜きましょう」のアドバイスが「伝家の宝刀」と「ちんこ」の両者にかかっており、ティーチャーの檄にも気が抜けない。さすがIDだ。
IDが言う「必殺技」とは、芸人としてのせいやの引き出しだった。
「お前はほんとに腐ったみかん お前のディス俺に効かん
こいつはもうこの会場にいらん
死ね! 普段こんな事言わないけど これは俺の贈る言葉です」
「死ね!」は、海援隊「母に捧げるバラード」にある語り部分の一節からのサンプリングだ。モノマネしながら押韻しているし、武田鉄矢のままビートに乗れているし、器用である。
「どうも爆笑問題太田です お前に会うたことないよね
お前ちんこちんこ言ってるけどよ 俺の相方田中はよ 金玉取ってんだよ」
「太田」と「会うた」で踏んでいるが、これが井口に火を点けた。直の後輩として看過できなかったか?
「『お前に会うた事ないです』? 太田さん埼玉の人 関西弁使わない
モノマネできてねぇぞ 全然 粗が目立ってる
太田さんに会った事あるに決まってんだろ 直属の先輩
やってるぜ 光を当てるぜ 太田光
太田光代社長にも良い報告をしなきゃいけない」
「うちの大先輩を粗くネタにしてくれるな」と、意地と敬意と嫉妬が入り交じった井口の対応が尊い。さらに、タイタン所属らしいカウンターが火を吹いた。
「お前なんでやってんだラップも 動機がよく分かんねぇ
僕の同期は日本エレキテル連合 お前のラップ ダメよダメダメ
どうしようもねぇ おい とっとと消えちまえ」
「動機」と「同期」で踏んでおいてから、エレキテル連合を持ち出してのディス。展開が多彩だし、技術も高い。これは2本目は井口が取ったのでは……と思ったら、判定は2ラウンド目もせいやの勝利に! 太田モノマネへの対応が最高だった井口を勝ちにし、3ラウンドにもつれ込んでもよかったと思うのだが……。
井口が今回良かったのは、SAMティーチャーの“押韻伝道師”っぽさがちゃんと出ていたところ。ただ、あまりにまとまりすぎでネタ感が滲み出ていたのも事実だ。
井口は、相手のディスに意味のある言葉で返すのがうまい。フリースタイルバトルではなく口喧嘩選手権のほうが本領を発揮できるタイプか? もし次があるのなら、彼はDOTAMAの指導を受けたら面白くなりそうな期待感がある。何にせよ、ワンサイドになるほどの差はなかった。
一方、せいやの勝因は元も子もないが“華”だった。1回戦(VS mckj)の勝ちっぷりで会場はせいやの空気になっていたし、それをひっくり返すにはプラスαが必要だ。会場と審査員を味方にするパワーが凄まじいせいや。あと、かつて鎮座DOPENESSを完コピした彼だけに、戦い方も鎮座をオマージュしていた感があった。ディスの井口と構成のせいや、そんなバトルだった。
あと、今回の井口 VS せいやが出色だった理由は、DOTAMA VS R-指定を思い出させる空気感があったから。ワードの鋭さや対応力等に優劣はほとんどない。強いて言えば、リズム感や抑揚といった天性の音楽力の差が決め手だったか?
バトル終了後、ノーサイドなやり取りが交わされた2人のちんこ対決。最後の最後まで芸人の矜持を見た。
せいや 「2人とも、本当は仲間なんで。絆がありますんで、スキャンダルが出たっていう。やれて良かったですね?」
井口 「やれて良かった! やっと終われたよ、これで」
せいや 「ほんまにお笑いにできたということで。終わりということで、裁判所に向かいます」
まだせいやは全然終われていないというオチ。このバトルが裁判で不利に働かないか不安だ。芸人同士のバトルらしく、ちゃんと面白さが付随していたのが良かった。どうも、これがなかなか難しいらしい。