大園桃子Instagram(@o.momoko_official)より

 2021年に結成10周年を迎えた乃木坂46。その1年を振り返ると、草創期からグループを支えてきた1、2期生の卒業が相次ぎ、世代交代を強く感じさせる年でもあった。

 乃木坂46を去っていったメンバーたちは、グループや私たちファンに何を遺してくれただろう。このシリーズでは、2021年に卒業した8人のメンバーを順番に取り上げ、その軌跡を改めて振り返りたい。

 第5回目は、大園桃子。

アイドルに葛藤した日々

 2021年7月、3期生の大園桃子が卒業を発表した。ブログでは「優しさに触れ、幸せで、嬉しくて、乃木坂に入っていなければこんな素敵な瞬間を味わうことはできなかっただろうなということも沢山」「毎日泣いて、光が見えなくて乃木坂に入っていなければこんなに辛くて怖い思いをしないですんだのになということも沢山」と、5年間の思い出を綴っていた。大園が歩んできた5年を振り返ると、常に涙と葛藤の日々で苦しんでいた彼女の姿が真っ先に思い浮かぶ。

 大園は思いも寄らない形で暫定センターというポジションに立ってから、「自分は本当にアイドルでいいのか」と葛藤する日々を続けてきた。アイドルという仕事をそのまま自然に受け入れられる人もいれば、もちろんとまどう人もいる。大園がアイドル時代に流してきた涙の数々を見ると、おそらく大園は後者だったのではないかと思う。ただ、大園はそれでも優しい笑顔を届け続けてくれていたし、その笑顔に救われたファンも多かったのではないだろうか。

 大園のキャリアを振り返ってみると、初の3期生楽曲「三番目の風」をはじめ、18thシングル『逃げ水』では同期の与田祐希とともにWセンターに抜擢されるなど、その功績だけを見ると輝かしいものがある。鹿児島県出身の大園は、NHK鹿児島放送局の高校野球中継応援マネージャーや鹿児島県曽於市特別PR大使、『NHK WALL aquarium ~sea of AMAMI~』(NHK鹿児島放送局)のスペシャルサポーターなど、地元に貢献した活動も積極的に行ってきた。

「功績だけを見ると輝かしい」とあえて書いたのには理由がある。大園は自分がセンターに立つことに疑問を感じ、そしてメンバーやファンからの評価に苦しみもがいていた。『BRODY2021年2月号』(白夜書房)で大園は、『逃げ水』でセンターに選ばれた時のことを「私は全部が怖かったです。同期の目、先輩方の目、そしてファンの方の目も」と振り返っている。

 そんな大園を支えたのが、白石麻衣齋藤飛鳥といった1期生だった。白石は大園が落ち込んでいると声をかけてくれることが多かったそうで、特に気にかけていたメンバーだった。

大園も白石について「白石さんは私にとって一番大きな存在」(参考:『日経エンタテインメント! 乃木坂46 Special 2020』)と話しており、そんな白石の卒業(2020年10月)は、大園にとってもターニングポイントとなったに違いない。

 2019年に公開されたドキュメンタリー映画『いつのまにか、ここにいる Documentary of 乃木坂46』では、乃木坂46が2018年に「シンクロニシティ」で2度目の日本レコード大賞を受賞した後、大園が齋藤に対して「乃木坂46も悪くないなって思った」と語るシーンも印象的だった。乃木坂46にひとさじの居心地の良さを感じ、ようやくアイドルという世界に一歩足を踏み入れることができた大園の姿だったのだ。だからこそ、大園がラストステージとなった「真夏の全国ツアー2021」福岡公演2日目のスピーチで、「乃木坂46になることができました」と胸を張ってくれたことは、これまでの彼女の葛藤を目撃してきたからこそ、感慨深いものがあった。

 誰よりも仲間思いで、純粋な心を持っていたからこそ、アイドルという職業に疑問を感じることが多かったのかもしれない。それだけに、5年間もアイドルであり続けてくれた大園には感謝の気持ちでいっぱいだ。

この5年間で大園のまっすぐでひたむきな姿は、ファンの胸にしっかりと刻まれている。