お笑い界の「〇〇グランプリ」と言えば何を思い浮かべるだろうか?
テレビで放送される大きな大会から、ライブ単位で行われる小さなものまであるので、みなさんの頭の中にはたくさんの「〇〇グランプリ」が浮かんでしまうだろう。では1番最近テレビで放送された「〇〇グランプリ」はなんだろうか?
それは間違いなく、13日放送の『水曜日のダウンタウン』(TBS)内で開催された「30-1グランプリ」だ。
ネタのジャンルは問わず、30秒という短い時間内でどれだけ笑わせらるかを競い合うコンテスト的企画。総勢658組がエントリーし、厳しい選考を勝ち抜いた40組が放送中に審査されることになる。A~Eブロックに8名ずつに分けられ、それぞれのブロックで勝ち残った5名で決勝が争われるという形式。
昨年の3月にも行われていて、今回で2回目となるこの企画。審査員はダウンタウンの松本さん、ケンドーコバヤシさん、バカリズムさん、バイきんぐの小峠さん、麒麟の川島さんとかなり豪華なメンバー。
30秒という短い出番ではあるが、上記の審査員に「面白い」と言われれば、一躍知名度が上がるのは間違いないということで「30-1ドリーム」もあながちないとは言い切れない。
僕はこのコラムで「グランプリ」とつくものは大概「全ネタレビュー」をさせてもらっている。なのでもちろん今回も、需要があるかないかは別として「30-1グランプリ」とうたった30秒間に命を懸け、放送された芸人たちのネタを、元芸人として分析しレビューしていく。
ただし、30秒というネタの短さプラス40組もいるので、こちらも負けじと短めのレビューにしようと思っている。ちなみにネタの詳細を書いたり書かなかったりあるので、ネタバレがイヤな方や、詳細が知りたい方は「Tver」や「GYAO!」の見逃し配信を見てから、もしくは見ながらこのレビューを見てもらえるとありがたい。
でははじめよう。(※次ページから、ネタバレあります)
1組目「天才ピアニスト」
THE Wのファイナリストにもなっている彼女たちだが、30秒というネタの短さだと笑いが起きるまでが少々遅く、もう少し早めに笑いが起きていたら良かったかもしれない。
2組目「SAKURAI」
「23,0」という数字にまつわることをギターの弾き語りでボケていくというネタ。これが長尺のネタだと面白かったかもしれないが、30秒という時間だと「へ~そうなんだ」という感想になってしまう。もっとバカらしい内容だと良かったかも。
3組目「フタリシズカ」
内容はシュールで面白かったが、印象としてはネタのフリが丁寧過ぎて、視聴者がいろいろ考えてしまうのが笑いが起きづらい原因のひとつ。さらにボケの女性が最後に何かコメントした方が笑いで終われたはず。
4組目「スタミナパン」
30秒中25秒間何かしてくれるんじゃないかとワクワクして最後の5秒で笑わせるスタイル。実際最後の5秒で笑いが起きたが、やはり笑いのポイントがひとつしかないのが決勝に行けなかった理由ではないだろうか。
5組目「にたりひょん吉」
ひったくりの心境を俳句で表すというなんとも斬新で、しかもそれを修正しさらに良いものにするというネタだったので僕としては面白かったのだが、大きな笑いが起きづらいものだった。もっと長い尺のものが見てみたい。
6組目「ラブレターズ」
スピード感があり、大喜利要素で笑いを起こしていくネタのスタイルでわかりやすく笑いやすいネタだったが、ボケの要素が多いネタの為、30秒ではそれを咀嚼する前に次のボケに進んでしまうので、もう少し笑う間が欲しかった。
7組目「そいつどいつ」
ひとつの大ボケだけで進んでいくネタだったので、見やすく早い段階で笑いも起きていたので30秒でも十分笑えた。ひとつ勿体なかったのは、小ボケの部分が「すまん」ではなく「あっすみません」と低姿勢で、つっこみも無い方が笑えたかも。
8組目「ぶったま」(決勝進出)
ネタがスタートしてすぐに笑いが起きるようなネタで、しかもネタの内容がシュールではなくきちんとボケてしまう理由も説明しており、とてもわかりやすいネタだった。彼らが決勝へ進出したのは30秒の中で繰り広げられるそのハチャメチャ感が良かったのではないだろうか。
ちなみに決勝のネタは予選同様、設定はわかりやすく面白かったのだが、予選と比較してみるとハチャメチャ感が少なく、ボケ自体は普通に見えてしまった。
1組目「チョコレートプラネット」
ネタはサザエさんのパロディでとてもしっかりして麒麟の川島さんがボソっと「キレイやな」といったようにとてもまとまった綺麗なネタだった。だが30秒ネタとしては爆発力が弱く、思わず吹き出してしまうような笑いが欲しかった。
2組目「ドンココ」
自分たちの見た目を活かしたネタで分かりやすく、面白かった。ただボケとしてはあまり強いものではないので、やや受けといった感じ。もうひと展開あれば良かったかも。
3組目「みなみかわ」
「数十年前のディレクター」というタイトルで、今ではコンプライアンスに引っかかるような事ばかりするというネタ。ボケの数も、盛り上がり方も、言葉のチョイスも良かった。30秒間に良い形で笑いを詰め込んだネタ。あと少しだけ演技力があればさらに良かった。
4組目「わらふぢなるお」
ネタの内容は不動産屋さんというオーソドックスなもの。内容はまるで長い尺のコントの入りの掴みの部分を見ているようだった。ただ掴みというと軽いボケのように感じてしまうかもしれないが、かなり上質で笑いがしっかり起きるものだったので、続きが見てみたくなった。30秒で完結しきれていないのがちょっと残念。
5組目「レインボー」
「なんで稼いでるかわからない、六本木にいる薄着の金持ち」というネタ。タイトル通りのネタで期待通り面白かったが、想像を上回るものでは無かった。オチのセリフは印象的だったが、もう少しオリジナルのフレーズがあると良かったかも。
6組目「金の国」
自転車に乗る人の恰好がインナーパンツなのかスパッツなのか的なネタだったのだが、オチがインナーパンツというもので弱く感じてしまった。視聴者を裏切るなら逆でも良かったのではないだろうか。見え過ぎるスパッツの方がリアクションしやすい気がする。
7組目「もう中学生」
面白いとか面白くないとかそういう次元にいないネタだったのでとてもレビューしづらいが、感想としては30秒という時間を有意義に使った、もう中学生さんらしいなんとも言えないネタだった。
8組目「ななまがり」(決勝進出)
設定は重い荷物を持った老人を助けるというとてもベタなものだった。
ちなみに決勝戦は「パラレルワールドから来た〇〇」というネタで、予選のようにインパクトのあるボケだったが内容の突飛さは予選ほどではなかったので、少し弱く感じてしまった。
1組目「大自然」
30秒という時間を考えたときに確実に笑いがとれるネタ。しかも大ボケだけで終わらせるのではなく最後に「体験で来ただけなのにぃ」「あっ体験の方でしたかぁ」と叩いた方の弱い姿を見せるところで、笑いが起きるのもとても良かった。ただ芸人なら一度は考えそうな設定なのが惜しい所。
2組目「キンタロー。」
「北京オリンピックで見た天才子供トランペッター」というネタ。スタート時の爆発力はハンパなく、40組中1番だったのではないだろうか。その分後半に展開が無かったので、笑いが落ち着いてしまい勿体なかった。
3組目「オダウエダ」
借り物競争であり得ないお題がでて、それが実際にいるというわかりやすいネタ。お題が「女体盛」と出た時点で「女体盛」をした女性が出てくるのが想像出来てしまった。30秒という短いネタなので贅沢は言えないが、少し裏切りが欲しかった。
4組目「ジェラードン」(優勝)
リモート会議というネタで、テレビ番組でやるにはとても良い設定。誰もが経験したことや見たことのある「会議をしている後ろに映ってしまっている何か」という情景を上手く使い、あかちゃんのような動きで笑わせ、オチでそれを裏切るというお笑いの教科書のようなネタだった。
決勝戦は四コママンガのようなネタで、シュールだけどわかりやすいネタだった。2人とも一言も喋らないというところも、ほかとの差別化を図っていてとても良かった。
5組目「戦慄のピーカブー」
唯一の漫才。30秒の漫才はかなり難しい。何故なら設定を伝える時間が異なるからだ。
6組目「牧野ステテコ」
こちらももう中学生さんと同じように、牧野ステテコワールド全開の何とも言えないネタだった。餅つきでお餅がスカートにくっついてしまいスカートがめくれ上がるなどどうやったら思いつくのだろう。ちなみに最後の牧野さんらしいボケの部分でお腹いっぱいになってしまったので、その前で十分だった気がする。
7組目「や団」
昔の演芸番組を見ているかのような設定で、良く言えばわかりやすく、悪く言えばありがちなネタに見えてしまった。途中からオチが読めてしまったのも残念。たぶん30秒という括りだとどうしても、そうなってしまったのだろう。3人のキャラクターが良さそうなので今度はキャラを活かしたネタを見てみたい。
8組目「永野」
タイトルが「性病の検査を受けてない女が向こうから歩いてくるところ」というもので、確実に今のご時世にはあっていない。正直、芸人受けを狙ったネタで、印象には残るのだが一般の方(とくに女性)を笑わせるのはとても難しいのではないだろうか。それが永野さんの醍醐味でもあるのだが……。
1組目「いぬ」
「妖怪退治」というタイトルで”女金太郎”という妖怪を退治するネタ。女金太郎という妖怪で笑わせようとしていると思いきやそれが振りとなって、女性の妖怪だからこそやられてしまうというのがオチになる。何とも微笑ましいというかくだらないネタで面白かった。
2組目「ネルソンズ」
居酒屋の会計をひとりでしているのだが、細かい計算が出来ずボケの人が壊れてしまうというとても王道的なネタ。笑わせるポイントは最後の壊れたところなのだが、その壊れ方が少しシュールでわかりづらいものになっている為、好みが分かれるように思えた。30秒だと3人組の良さを出すのは難しいのかもしれない。
3組目「本多スイミングスクール」
プール間違い探しというネタで、プールあるあるを軸にボケていくというスタイル。あるあるの部分が弱かったこともあり、あまり笑いに繋がっているようには思えなかった。もう少し飛躍したボケがあっても良かったのではないだろうか。
4組目「ダブルアート」
魔王をバイクのようにのるという設定のネタ。ボケが直接笑いに繋がるというものが少なく、どちらかといえば「そうくるか」というボケが多かった。魔王がバイクに寄せているボケばかりだったので、逆に魔王が喋ろうとするがエンジンをふかされるなどのボケがあっても良かったかも。
5組目「おたまじゃくし」
反抗期の子供がお母さんを邪険にしてしまい、最後にどんでん返しのボケが待っているというものだったが、このネタも笑いが起こるまでに時間がかかっており、しかもオチが若干よめてしまったので、全体的に笑いが少なく感じてしまった。キャラクターがとても良さそうなのでもっとボケまくるネタが見てみたい。
6組目「マジメニマフィン」
【庭師】というコントなのだが、システムは“あのコンビ”に似ていた。似ていたというかそっくりだった。無意識に似てしまったのか、それとも意識して似せているのか、はたまたオマージュしているのか、それとも二代目を引き継いだのか。とにかくそればかり気になってしまい、ネタが頭に入ってこなかった。既視感とはこのことをいうのであろう。
7組目「サスペンダーズ」(決勝進出)
友達がせっかく紹介してくれた女性に、どうしても苦手なところがあるというネタ。設定もボケの内容もキャラクターも良かった。勿体なかったのはネタの尺が30秒というところ。このボケの切り口を見る限り、このコンビは徐々に笑いを大きくしていく感じがするのでもっと、長い尺の方が確実に面白いはず。十分面白かったが爆発力を求める30秒は少し、不向きだったかもしれない。ちなみに決勝戦のネタはボケの切り口は面白かったが、それに続くものが無かったので、予選の方が僕としては好きだった。
8組目「ゆりやんレトリィバァ」
バスケットボールタップダンサーゆりーというキャラクターで、バスケットシューズ特有の「キュッキュッ」という音でタップダンスをするというもの。実際はただ「キュッキュッ」と鳴っているだけで、タップダンスにもなっておらず特にオチも無かった。ゆりやんさんだけに、期待しハードルが上がってしまった。これが天才特有のダメな瞬間だったのかもしれない。
1組目「ニッポンの社長」(決勝進出)
ニッポンの社長さんらしい、とても発想力のあるネタで、二人の温度差、テンションの緩急がしっかりとしていて面白かった。さらにギミックの作りこみ具合も素晴らしい。決勝戦のネタも設定は面白かったが、瀬戸物を避ける演技の部分があまり凝っておらず、3回とも同じ表現だったので、最後はもっと違う表現が出来たのではないだろうか。設定やキャラクターが良いだけに、その辺りを雑にしてしまうのが勿体ない所である。
2組目「うるとらブギーズ」
文化祭の準備中にふざけたやつが先生に怒られるという、とてもスタンダードなネタ。顔の落書きに耐えられず、怒られている最中に自分で笑ってしまうというところはうるとらブギーズっぽいネタであるが、笑いの要素が落書きと思わず笑ってしまうところなので、2回目はもう少し違う笑わせ方をした方が展開が生まれたかも。
3組目「ワンドール」
初めて見たコンビだったが自分たちのキャラクターを知っていて、とても見やすいネタだった。テクニカル的な修正点があるとすれば女の子の顔を見せた方が良いと思うので、ツッコミは舞台の後ろ側に立たずに少し前、もしくは真横に立った方が女性が顔を上げたとき、お客さんに見せられる。さらにツッコミの男性が俗に「手芝居」と言われる、手でセリフの表現をしてしまいお客さんの気が散ってしまうので、直すべき。
4組目「怪奇!YesどんぐりRPG」
普段はギャグをやっている三人なのでギャグで来るかと思いきや、正統派のコントで挑戦。笑いの初速はかなり良く、ネタの設定も良かったのだが、後半特に笑いになるボケやポイントが無かったので、勿体なく感じた。せっかく子供の心のままお年寄りになったので、もっと子供こどもしたボケをした方がギャップがあって良かった。
5組目「滝音」
漫才をやっている姿は何度か見たことがあるが、初めてコントを見た。漫才に比べるとテンポが悪く、2人のキャラクターがたっていなかった。さらに漫才でやるような芝居をコントでやってしまうと下手に見えてしまうので、コントの時にはもっと役に入り込まないといけない。笑い的にも、もう少しボケを多くしてテンポを上げ漫才に近づけたほうが、違和感が無かったのではないだろうか。
6組目「パンプキンポテトフライ」
30秒ならではのボケで、しかも着眼点も変なところなので面白かった。笑いが起こるのが最後のワンポイントだが、キャラクターの良さで待ってられるのが谷さんの強みだと思う。30秒なので両ボケのように見えてしまったが普段はどんなネタをしているのかとても興味深い。
7組目「ビスケットブラザーズ」
面白い。登場してすぐに面白そうと思わせるシルエットのボケ原田さん。そして多少強引なボケでもそのキャラクターに合っているので、なんの違和感も感じさせてない。こういう30秒のネタだとボケだけが印象を残し終わってしまうパターンが多いのだが、ツッコミのきんさんも自分に合ったツッコミ方がわかっており、きちんとつっこみで笑いを起こしている。素晴らしいバランスだ。
8組目「チャンス大城」
犬の為だけに歌う氷室京介というタイトルで、本当に犬のぬいぐるみの為だけに歌を歌うネタだった。最初は「そのままじゃん」と思って見ているのだが、段々と面白くなっていき、笑いがこみ上げてくる。しかし途中で犬に鼻を噛まれて一度舞台袖にはけて、鼻血を出しながら戻ってくるという演出。先輩に対して失礼な発言かもしれないが、明らかに蛇足である。こんなにちゃんとした蛇足は久しぶりに見た。
以上、40組の全ネタレビューだったが、こうして見てみると30秒という短い時間の中で、人を笑わせるのがいかに、難しいのかが改めてわかった。さらにトーナメントの組み合わせがこれほど、露骨に出る大会も珍しい。そのグループにいなければ決勝へ行けたコンビが、何組かいる。運も実力のうちだ。
今回、決勝に残った5組を分析して言えることは、30秒の最後に笑わせたもの勝ちということだ。もちろん30秒間笑わせ続けたものが1番凄いのだが、それが出来ないなら、最後の5秒にかけるのだ。最初の5秒がどれだけ面白くても最後の5秒が同じくらい面白かったものには勝てないのだ。ネタ直後に審査されるならなおさらだ。
これから「30-1グランプリ」で優勝を目指す若手芸人たちよ、30秒に命を懸けるのではなく、最後の5秒、たった5秒に命を懸けるのだ。どんな芸人にも負けない5秒ボケが完成すれば必ず優勝出来るはず。ただし30秒間面白い芸人が出てしまった場合は諦めてくれ。
君には24時間365日を5秒に捧げる覚悟はあるかな?
もしあるのなら……違うことに時間を使った方が良い。間違いなく。