『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系)

 4月20日放送『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系)は、題して「困難に負けない! 無敵の女たちSP」であった。

病気を抱えた息子と…スーパーに行けて号泣した母

 埼玉県越谷市の激安スーパーでスタッフが声を掛けたのは、34歳の女性。

夫と7歳の息子さんとの3人暮らしで、徳島から移住したばかりだという。「家、ついて行ってイイですか?」と尋ねると、彼女は快諾。しかし、ちょっと時間を空けてほしいそうだ。

「息子がちょうど寝てるので、昼寝から起きてから。2時間くらい寝るかなと思うんで、2時間後に」
――結構、がっつり寝るんですね。
「かなり寝ないとダメなんですよ」

 7歳で2時間の昼寝というのも、かなり本格的だ。

でも、学校はどうしているのだろう? 「かなり寝ないとダメ」という彼女の口ぶりも気になった。

 というわけで2時間後、女性の自宅へ到着。ご主人は44歳のアメリカ出身のハーフで、大学の教員をされているそうだ。そして、元気に出迎えてくれたのは7歳の男の子だ。「一緒にパズルやるよー! ボウリングもやるよー!」と初対面のスタッフに迫るあたり、遊ぶのが相当好きなのだろう。

 家賃9万円の2LDKの部屋には、遊ぶための用具がたくさんある。

息子さんの遊び部屋には子ども用のバスケットゴールがあるし、なぜか『笑点』(日本テレビ系)の座布団も敷いてあった。ママが「もう暑いから脱いどこうか?」とトレーナーを脱がすと、着ていたのは『笑点』メンバーのTシャツだった。一人ひとりを指し、「円楽、好楽、小遊三、昇太、歌丸さん!」と、ちゃんと落語家の名前も暗記しているらしい。

 続けて、彼が遊んだのはボウリングのゲーム。ボウリング玉に模したボールを持って投げ(たふりをす)ると、ボールが転がってテレビの中のピンが倒れるという仕組みだ。

パパ 「2~3フレームでね(終わりにしよう)」
ママ 「そうだね、最後までやらんでいいな。

興奮しちゃうから」

 そしてパパは息子の額に手で触れ、体温をチェックした。

「ここにじわっときたら、ちょっと危ないサイン。生え際見て、じわっと汗が出てたら『ちょっと休憩させよう』って強制終了して」(ママ)

 息子さんは「ドラベ症候群」という病気を抱えているらしい。1歳までに発症することが多く、全身あるいは半身のけいれんを繰り返す指定難病の一つである。

「どこ行っても15分以上は遊べない。必ず休憩をしないといけない。

特に、夏は30度以上だったら遊べないですね。“暑い”と“興奮”は発作のトリガーになりやすいです」(パパ)

 つまり、この子にとっては遊びもスポーツも制限ありきのものなのだ。2時間の昼寝も、病気を考えてのことだった。

「疲れが溜まってくると、どうしてもてんかん発作が起こりやすいので。疲れを溜めないように1日1回昼寝して、区切ってリセットしてからじゃないと夕方から活動的に遊べない」(ママ)

 発作が起き、救急車で病院に行っても発作が止まらないことがある。それどころか、多臓器不全で亡くなる可能性もある。

現に、ドラベ症候群だった知人のお子さんは数年前に亡くなってしまったそうだ。小さい頃は、この息子さんも頻繁に発作を起こし、週1回のペースで救急車を呼んでいたという。

 徳島から埼玉に引っ越してきたのはなぜなのか? はっきり言って、埼玉は暑い。夏は特に大変だ。でも、理由があるのだ。関東にはこの子の病気の専門家が何人もいた。

「初めて診てもらった名医と言われる先生のお薬の調整が、ちょうどこの子にピタッと合って」(ママ)

 出会う先生によって、そんなに違うものなのか。埼玉に移住してから家族の生活は激変した。救急車は2年以上呼んでいないし、発作の頻度は2週に1回程度になった。

「スーパーに(息子と)2人で行ったことがあって、そのときに泣きました、私。『えっ、スーパーに行けた!? やばっ』と思って。写メめっちゃ撮りました、記念に。(それまでは)絶対にできなかった」

「近くに大きいショッピングモールがあるんですけど、そこで3人で行ったときも嬉しすぎて写真めっちゃくちゃ撮って、徳島の家族に『スゴい! 私たち、今どこにいるでしょう!』みたいな写メ送って(笑)。皆、『もしかしてディズニーランド?』って言ってくるけど、私たちにとってショッピングモールは子どもを連れてディズニーランドに行くより嬉しいことだったから」(ママ)

 まさに、なんでもないようなことが幸せ……だったのだ。

――今後の夢はありますか?
ママ 「奇跡が起こらないと(完治は)無理だと思うけど、本当に思う存分遊ばせてあげたい。何か奇跡的な治療法が見つかって、興奮しても発作が起こらないようになってくれたら、中にプールや遊園地みたいな場所があるホテルがあるじゃないですか? そういうところに本当は行きたい、子どもが絶対楽しいから。そういう風になれば、めっちゃ楽しいです」

 一生病気と付き合っていくとすれば、彼の将来にはさまざまな困難が待ち受けている。興奮がトリガーだとすれば、初恋さえ難しくなるかもしれない。今、特に海外で「ドラベ症候群」の研究は盛んに行われているそうだ。

「いつか、(この子に)ばっちり合う治療法が世の中に出れば、そして日本で承認されたら、いいなって思います」(ママ)

 夜の下北沢駅前。スタッフが「インタビューに答えていただくと…何かイイことあるかも!?」というプラカードを掲げていると、5人組の男女が話しかけてきた。全員20歳で、高校時代の同級生の集まりだそうだ。

 その中の1人の女性は、現役の美大生だった。「家、ついて行ってイイですか?」と尋ねると、彼女は快諾してくれた。

 というわけで、梅ヶ丘にあるという彼女の実家へお邪魔することに。道中、スタッフは彼女にインタビューした。なんと、この人が通っているのは東京藝術大学である。日本で唯一の国立総合芸術大学だ。

女性 「私立の大学、全部落ちちゃったから(苦笑)」
――他はどこ受けたんですか?
女性 「女子美術大学と東京造形大学と多摩美術大学」

 それらに落ちたのに、東京藝大に受かっているのが驚きである。そんなこんなで、彼女の家へ到着。実家が梅ヶ丘という時点で裕福とは思っていたが、想像以上だった。大きな一戸建てなのだ。

 家に入ると、内観も予想外だ。玄関を開けると彼女の描いた絵が飾ってあり、それは“おっぱいを殴る絵”だった。その横には自画像が飾ってあったが、描かれた彼女にはなぜかおっぱいが3つある。不思議な絵だし、夢に出てきそうな怖さだ。画風は、野性爆弾のくっきー! っぽいか?

 リビングに上がると、他にも絵がたくさんあった。殴られた人が他の人を殴り……がぐるぐる連鎖していく“連鎖的に殴ってく絵”。よく見ると全員全裸で、やはりぶらぶら揺れるおっぱいが印象的だ。どの絵にも絶えずおっぱいが入っている。ただ、エロが好きというより芸術脳なのだろう。あと、暴力的なテーマも彼女の好みだ。

「大好きなんで、バイオレンス(笑)」

 東京藝大は2次試験が油絵だった。1,000人受験する中で、受かるのはたった55人である。

「普通の絵じゃ受からないかなあと思ってたので、どっか目立ったり突出したりしないと」

 彼女の部屋にお邪魔すると、やはり独特なのだ。壁じゅうにたくさんの絵が貼ってあるし、寺山修司のポスターも貼ってあった。ちなみに、絵を描き始めたきっかけは「漫画が好きだった」から。漫画の話をする人が欲しくて、中学時代に美術部へ入ったそうだ。

 ふと部屋の一角を、やはりバイオレンスな絵が飾ってあった。人の殴られている絵である。ストレートパンチの拳が人の顔面にめり込んでいる描写だ。PANTERA『Vulgar Display of Power』のジャケットを彷彿とさせる、と言ったらわかりやすいか?

「ブン殴られてる絵ですね。『刃牙』っていうマンガが好きで。結構、影響を受けてて」

 地上最強の父親を倒すため、息子の刃牙が世界中の格闘家と闘って強くなる名作である。主人公・範馬刃牙のモデルは、総合格闘家の平直行。『刃牙』のあるページを開くと、彼女が描いた“ブン殴られてる絵”とそっくりな絵があった。

「こういう感じで、着想を得て自分なりに描くみたいな。私はマンガが大好きなので、すごい参考にしてて」

 モチーフはPANTERAじゃなくて、『刃牙』だったのか! それにしても、『刃牙』を参考にして藝大に入った人は初めて聞いた。それどころじゃない。彼女は、『刃牙』との出会いで人生が変わったらしい。私立の美大を受けるも、連戦連敗。もし浪人したら、予備校の夏期講習だけで20~30万円の費用がかかってしまう。だから、親に負担をかけさせないため、一時は就職も考えていた。そのタイミングで彼女は偶然にも『刃牙』に出会った。

「超面白くて、本当に……! 『刃牙』の殴ってる絵とかを模写してたら、結構楽しくて。で、『刃牙』を参考にさせてもらって」

『刃牙』との出会いで、変わった彼女。そのビフォアアフターは、絵を見れば一目瞭然だ。殴った拳のめり込み方に力強さが出たし、殴られている側の表情は目が歪んだりシワが増えたり、“痛み”が伝わるようになった。『刃牙』の影響を受けた画風で、彼女は東京藝術大学に合格した。

「ビックリして泣いちゃって、まさか受かるとは思ってなかったんで(笑)。『刃牙』はもう、教科書ですね」

 武蔵美や多摩美に落ち、『刃牙』を読んだら東京藝大に受かったのだから、彼女はまさに『刃牙』で人生が変わった。『刃牙』は確かに読者の人生を変えるマンガである。

「受験受かったのは『刃牙』のおかげみたいな感じなので、先生(作者の板垣恵介)に手紙を出したいとずっと思ってて(笑)。『ありがとうございます』って本当に言いたくて。感謝を伝えるしかないですよ」

『刃牙』で藝大に合格できたなんて、板垣先生が聞いたら喜びそうだ。『刃牙』って教科書なのか! 何が自分の教科書となり、何で人生が変わるかはわからないものだ。