つい先日、お笑いコンビ「ピスタチオ」が5月末で解散するというコラムを書いたばかりなのだが、その翌日にこれまたお笑いコンビ「うしろシティ」が4月末をもって解散するというニュースが流れた。ボケの金子さんはそのまま松竹芸能で芸人を続け、ツッコミの阿諏訪さんは松竹芸能を離れ、個人事務所を作って芸能活動をしていくという旨を発表した。
「うしろシティ」といえば僕がまだ芸人だった頃、MCをやらせてもらっていたライブで初めて2人に会った。その頃はまだ「うしろシティ」ではなく、それぞれが別のコンビで活動していた。ボケの金子さんは比較的前に出るタイプの芸人で、ツッコミの阿諏訪さんは冷静にツッコミを入れるタイプだった。そんな2人が元々のコンビを解散し「うしろシティ」として僕の前に現れたとき、なんだか妙にしっくりきていたのを今でも覚えている。
そのしっくり感は間違っておらず、2009年のコンビ結成からたった3年でキングオブコントのファイナリストになる。
今回は昨今の芸人解散の多さを通して、どうして「売れていた芸人」でさえも解散してしまうのかを元芸人として考えてみたいと思う。
いま皆さんの中で「売れていた」ということは「今は売れていないんだから解散するのは当たり前じゃないか?」と思った方がいるかもしれないが、それは間違っている。
「今売れていない芸人」と「今稼げていない芸人」は必ずしもイコールではない。テレビで見ないだけで稼げている可能性は大いにあるのだ。
例を挙げると「なんでだろう」で一世を風靡した「テツandトモ」。テレビで見ることはめっきり減ってしまったがコロナ前は営業で相当稼いでおり、テレビに出ていたとき以上に稼いでいたと言われていた。
ちなみにこれは営業に特化したテツandトモならではの話。昔は芸人がテレビ以外で稼ぐといったらもっぱら営業だったが、今は営業以外に稼ぐ手段はいくらでもある。わかりやすい所でいうと「YouTube」や「オンラインサロン」だ。
今や芸人がYouTubeのチャンネルを持つなんて当たり前になってきているし、お笑いに限らず「投資」や「ワイン」「クイズ」など、自分の強みを活かしてオンラインサロンを運営している芸人も数多くいる。
このように芸人が稼げるポイントがテレビや営業だけではなくなったのだ。つまり今は「芸人が好きなことをして、芸事以外でも食べていける時代」になった。まさにこれこそが解散する芸人が増えたひとつの要因なのではないだろうか。
「うしろシティ」や「ピスタチオ」クラスの芸人にとってテレビに出演するというのは、とてつもないプレッシャーとの戦いだ。何か振られたら必ず笑いを取らなければならない。空気を読んで良い返答をしなければいけない。
営業に関してもテレビとは違うプレッシャーが襲ってくる。現在人気がある芸人と営業が一緒になった場合、自分たちの出番になったらあからさまに人が減る。それでも30分間ネタやトークを続け、笑いを起こさなければならない。もし芸人が自分たちだけだったとする。この場合ももちろんプレッシャーはある。
テレビや営業しか無い時代ならまだしも、芸人自身が自分の出演する場所を選べる時代に、誰が好きこのんでテレビや営業をしたいと思うのか。ましてやYouTubeやオンラインサロンである程度稼げるとしたらなおさらだ。
もし芸人がテレビや営業を捨てたとしよう。そうなってくると次に不必要なものは何か?
それは芸能事務所である。
ほとんどの芸人がなぜ、芸能事務所に所属しているのか。例えば若手芸人であればテレビのオーディション情報を知る為のツールとして、ある程度知名度があればテレビや営業のオファーを貰う窓口として。さらにテレビ業界にいるのなら、後ろ盾があった方が舐められないからなどの理由である。
つまりテレビ業界にいる為に必要なものであって、それ以外で必要になることはほとんど無いのだ。その証拠にテレビ業界に見切りをつけた芸人たちがこぞって所属事務所を離れフリーになっている。
この数年で芸能界が急速に進化し、僕らが子供の頃に見ていた芸能人だけではなく、新たな形の芸能人が少しずつ登場する。これにたがわず芸人も2種類に分別される。それは昔と変わらず、子供のころから憧れてきたテレビという場所を目指す芸人、もうひとつはテレビ界に囚われず、新しい自分に合った場所を目指す芸人の2種類。
「うしろシティ」は結果としてその2種類の芸人が混在したコンビだったのかもしれない。
変化真っ只中のテレビ業界だが、進化するのは業界にとって決して悪い事ではない。テレビだろうがサブスクだろうが、視聴者を楽しませたいという気持ちは同じなはずだ。まだまだ交わるには時間がかかるだろうが、お互いが切磋琢磨し、いつか交わったときにさらなる進化を見せてくれることを願っている。業界も「元うしろシティ」も。