映画『ゆるキャン△』©あfろ・芳文社/野外活動委員会

 本格的じゃなくても、自分たちに合ったゆるいキャンプをする。それがモットー。

女の子たちの自由気ままなキャンプの様子がほのぼのとしており、キャンプに興味のなかった層にまでキャンプや観光地巡りの魅力を伝えることになった作品が『ゆるキャン△』だ。

 そんな『ゆるキャン△』は、アニメ化もドラマ化もされ、この度映画化されることに。映画『ゆるキャン△』が7月1日から公開される。

 物語は2021年放送のアニメ『ゆるキャン△ SEASON2』の最終回から数年が経ち、社会人となった主人公たちの再会と新たな出発を描いている。大人になって、使えるお金も増えた。経済的な面では学生時代よりも融通が利くようになったかもしれない。しかし、それに比例して時間に追われるようになり、自由気ままにというわけにもいかなくなってしまった。それぞれが仕事を抱え、責任のある立場となったことで、見えてくる世界も違ってくる。

 映画版は完全オリジナル作品でありながらも原作者・あfろが監修しているため、もともとの作品のテイストは維持しつつ、新たな試みが行われている。それは、学生の目線ではなく、社会人としての目線から「ゆるさ」を描くことだ。

【ストーリー】
これは、少し先の冬からはじまる物語。志摩リンは故郷の山梨を離れ、名古屋のちいさな出版社に就職し、一人暮らしをしていた。

とある週末、ツーリングの計画を立てていたところに、高校時代の友人・大垣千明から唐突にメッセージが届く。「今、名古屋にいるんだが」山梨の観光推進機構に勤める千明は、数年前に閉鎖された施設の再開発計画を担当していた。「こんなに広い敷地なら、キャンプ場にでもすればいいじゃん」そんなリンの何気ない一言から、動き出す千明。東京のアウトドア店で働く各務原なでしこ、地元・山梨の小学校教師となった犬山あおい、横浜のトリミングサロンで働く斉藤恵那。かつてのキャンプ仲間が集まり、キャンプ場開発計画が始動する。キャンプでつながった五人が、今だからできることに挑む、アウトドア系ガールズストーリーの幕が上がる。

 

『ゆるキャン△』シリーズの主要キャラクター名には、東海地方の地名が使用されていることもあって、東海地区では漫画やアニメを見たことがない人でも認知されている作品だ。なにより筆者も、このレビュー原稿を書くためにシリーズを全作品を観るまでは、そこまで内容は知らなかったものの、タイトルやビジュアルだけは知っていた。

映画『ゆるキャン△』シリーズから数年後。社会人になったって、ゆるい視点は大切だ
©あfろ・芳文社/野外活動委員会

 山梨をメインの舞台として、その付近のキャンプ場や観光施設を訪れる観光促進PRにもなっており、最近では山梨付近のパーキングエリアや、県内ならコンビニでも『ゆるキャン△』のコラボ商品が多く置かれているほどだ。山梨に住んでいる方は共感できる部分が多いし、山梨を訪れたことがない方も楽しめる。

 なにより、実在する土地の名前を使用していることから、間違いがあってはいけない。徹底的にリサーチを重ねた結果が、ロケーションにリアリティを与えているのだ。

映画『ゆるキャン△』シリーズから数年後。社会人になったって、ゆるい視点は大切だ
©あfろ・芳文社/野外活動委員会
映画『ゆるキャン△』シリーズから数年後。社会人になったって、ゆるい視点は大切だ
©あfろ・芳文社/野外活動委員会

 繊細な人物描写のアニメを見ていながら、自然にアウトドアの知識が身に付くという、一石二鳥な作品でもある。映画版では、放置されていた廃墟のような施設を再開発して、自分たちでキャンプ場を作ろうとするモノ作り要素も加わるのも見所のひとつだ。

『ゆるキャン△』を追ってきた者としては、映画のオリジナル要素に期待する一方で、登場人物たちが社会人になった姿が描かれることには不安もあった。それは、『ゆるキャン△』なのにゆるくなくなってしまうのではないか……というものだ。しかし、そこはうまく描かれている。

映画『ゆるキャン△』シリーズから数年後。社会人になったって、ゆるい視点は大切だ
©あfろ・芳文社/野外活動委員会

 これまでのシリーズで、終わりゆく学生時代の将来への期待と不安などを織り交ぜてきたとすると、映画で描かれたのは、大人になったことを実感する“分岐点”に立ったときに見える未来への期待と不安、といったところだろうか。それぞれが抱えている問題が変化するだけであって、ゆるく解釈していくテイストは同じだ。

映画『ゆるキャン△』シリーズから数年後。社会人になったって、ゆるい視点は大切だ
©あfろ・芳文社/野外活動委員会

 それを説教臭くなく、自然なかたちで描くのが、このシリーズのいいところ。ほのぼのとしたタッチの絵柄のキャラクターが、たまに人生論を語るような深いセリフがあったりと、そのギャップがまた魅力といえるだろう。
 
 しいて言うなら、キャラクターが多いのに、誰一人として恋愛事情が描かれないのは気になるところだった。作品自体がもともとは、どちらかというと女性よりも男性をターゲットとしているため、色恋はふさわしくないというのも理解できる。もちろん、別に無理して描く必要性もないのだが、人間描写も繊細に描かれている作品がゆえに、成長の過程のひとつとして盛り込まれてもよかったかもしれない。

 一方、恋愛要素が排除されていることもあって、これは本作の重要なテーマではないかもしれないが、社会に出たばかりの若い女性たちの連帯(=シスターフッド)が強く描かれているように見え、フェミニズムの要素も感じられた。

映画『ゆるキャン△』シリーズから数年後。社会人になったって、ゆるい視点は大切だ
©あfろ・芳文社/野外活動委員会

 作品としては独立したものとして、「ゆるキャン△」の知識がまったくなくても、ある程度は楽しめるようになっている。アニメ版のシーズン2から数年の間隔を空けることで、シーズン3以降も描ける余地を残していながら、回想シーンなどは極端に控えられており、無理にシリーズとの距離感を詰めようとはしていない。ただ、キャラクターの成長が作品の鍵になっていることから、アニメシリーズもしくはドラマシリーズのどちらかだけでも観ておいた方が、作品の奥行は確実に増すだろう。

映画『ゆるキャン△』
原作:あfろ(芳文社「COMIC FUZ」掲載)
出演:花守ゆみり(各務原なでしこ))、東山奈央(志摩リン)、 原紗友里(大垣千明)、豊崎愛生(犬山あおい)、 高橋李依(⻫藤恵那)
監督:京極義昭
脚本:田中 仁・伊藤睦美
キャラクターデザイン:佐々木睦美
配給:松竹 アニメーション
制作:C-Station ©あfろ・芳文社/野外活動委員会
公式HP:https://yurucamp.jp/ 
公式Twitter:<@yurucamp_anime

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