10月19日「ザ・ドリフターズ」のメンバー・仲本工事さんが急性硬膜下血腫のためお亡くなりになった。
前日の18日に交差点を横断中の仲本さんがワゴン車にはねられて重傷を負ったと報じられており、交通事故が原因で帰らぬ人となってしまった。享年81歳。
何とも悲しい最後なのだろうか。同じ「ザ・ドリフターズ」のメンバーの志村けんさんがコロナで亡くなった時も何で、こんな最後を迎えなければならないのかと、悔やんでも悔やみきれない気持ちになったが交通事故となるとさらに悔しい気持ちになる。しかも仲本さんに関してはご自身の誕生日前に奥さんが出ていき、家に動物たちと置き去りにされて、住まいはゴミ屋敷のようになっていると、同月12日に週刊誌で報じられたばかりだった。
実際のところどういう経緯があり、どういう理由でそうなってしまったのか、本当にそうなっているのかはわからないところだが、報じられた内容が真実であったとするなら、とても幸せに生活を送っていたとは思えない。仲本さんは自分の人生の最後がこのような形で終わるなんて、想像していたのだろうか。
僕と同じ世代の人たちに「ザ・ドリフターズ」で好きなメンバーはと聞くと、ほとんどの人間が「志村けん」と答えるだろう。そして同じくらい「加藤茶」を好きだという人がいて、さらに僕のように「いかりや長介」に憧れを抱く変わった子供もいる。
そうなると残りのメンバーである「高木ブー」と「仲本工事」は子供たちにとってどのような存在だったのか。
高木ブーはその名前と見た目からわかりやすいキャラクターが設定されていて「よく食べる」「すぐに寝てしまう」など、お客さんにとって頭を使わなくてもわかる面白さを持っているので、どのコントでも基本的にボケの先陣を切るのは高木ブーさんだった。小さなボケを担当するので爆発的な人気を得ることは難しいが、コントにとってなくてはならない存在だ。
では仲本さんはなくても良い存在だったのかというと、勿論そうではない。
仲本工事さんの立ち位置はお笑いに携わっている人間ならわかる、最重要ポジションである。基本的にコントをする際、そのコントがどういう設定で、どういう流れで笑いを生みだしていくのか説明が必要になる。お笑い用語でいうところの「フリ」だ。2人で行う漫才やコントならば、ツッコミがその役割を果たすのだが、複数人のコントとなるとただ「フリ」だけの役がどうしても必要になる。ボケで笑いを取ることもツッコミで目立つこともない、いうなれば「死に役」という役割だ。
皆が率先してやりたがることはないが、この役がいなければ成立しない「フリ役」。それを見事にこなしていたのが、仲本工事さんだったのだ。
この複数人コントの「フリ」というのは、誰にでも出来るわけではない。その後に出てくるボケほど個性を持っていてはいけないし、ツッコミや回しほどの説得力を持っていてもいけない。ほどよく無個性で、ほどよくキャラクターが立っていて、ほどよく笑いが取れて、そして他のボケ役を引き立たすことに徹せるかどうか。
お笑いを職業にしている人間はどうしても、自身で笑いを起こしたくなるもの。しかし「フリ」の段階でそれをしてしまうとコントが成立せずに、コント1本丸ごと潰してしまうことになる。本来ならその「死に役」という名の通り、自分の感情を押し殺して役に徹しなければならないのだが、仲本さんに関してはそうでは無かったようだ。
仲本工事さんを調べてみると、どうやら彼は笑いに対して他のメンバーほどストイックではなく、自身でこういうお笑いがしたいとか、こういう風に笑わせたいと発言することはほどんど無かったようだ。
その半面、与えられた役割をそつなく器用にこなすタイプで、相手が志村さんだろうが高木さんだろうが、その個性をうまく引き出し笑いに繋げられるという万能型だった。元芸人として分析すると、仲本工事というバランサーがいなければ強烈な個性がぶつかり合う「ザ・ドリフターズ」は成立していなかっただろう。
これだけ人を笑わせ、これだけ人を目立たせてきた人が、最終的に笑えない生活を送り、悪い意味で目だってしまうとは、なんと数奇な人生だったのだろうか。
ツイッターに投稿された仲本工事さん最後のツイートは
10月14日『今日は、高崎タカシマヤ「志村けんの大爆笑展」にブーたんと行ってきました。笑顔も二倍です。楽しかったなァ。志村も喜んでくれたかな。』
という、何とも切なく何とも悲しくなるものだった。
今日は、高崎タカシマヤ「志村けんの大爆笑展」にブーたんと行ってきました。笑顔も二倍です。楽しかったなァ。志村も喜んでくれたかな。 pic.twitter.com/f1mQlwLXD3
— 仲本工事@nakamoto_koji1) October 14, 2022
しかし志村さんが喜んだかどうか直接、天国で聞けるという意味ではもしかしたら良かったのかもしれない。
天性の「フリ師」であり、偉大なるコメディアンだった仲本工事の遺伝子は間違いなく今のお笑い界に引き継がれている。
心からご冥福をお祈りします。
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