お笑い界の一大イベント!日本で最も有名な賞レース!それこそがその年の日本一の若手漫才師を決める大会「M-1グランプリ」だ。
今大会には大きく取り上げられたニュースがあった。
そしてお2人に代わって新たに審査員に加わったのは、バラエティ全盛期にはレギュラー番組を週14本抱え、NHKの「好きなタレント調査」では8年連続で女性部門の1位に輝いた伝説のタレント「山田邦子」さん。そしてもう御一方は、漫才師としての腕は折り紙付き、さらに漫才の分析がかなり的確で審査評も納得できるものが多い、博多華丸の博多大吉さんだ。大吉さんは2016年と2017年のM-1グランプリにおいて審査員をなさっていたので、新たに加わったというより戻ってきたという感覚に近い。
やはり注目は山田邦子さんがどのような審査をするのか。すごく楽しみである。
さて早速、今大会のネタレビューへと進行していこう。
今年決勝へ勝ち進んだ芸人を見てみると、かなりの実力者揃い。9組中5組が初の決勝進出ということなのだが、ほとんどが前年度の大会で準決勝へ駒を進めており、漫才師としてのスキルの高さは証明されている。2021年の『ぐるナイおもしろ荘』(日本テレビ)で優勝したダイヤモンドのみ、準決勝敗退を経験しておらず、準々決勝で負けていた彼らが準決勝を飛び越え、決勝進出を果たしたその成長ぶりは期待大だ。
1組目 カベポスター「大声大会の思い出」
決勝戦初出場のコンビ。今年関西で行われている賞レース「第43回ABCお笑いグランプリ」「第11回ytv漫才新人賞決定戦」と立て続けに制覇。乗りに乗っているコンビの追い風というのは決して侮れない。この今持っている勢いとトップバッターという不利な条件が戦ってどちらが勝つのか。勢いが勝れば大会優勝もありえる。漫才のシステムは比較的ゆるやかで、たぶん声を張るような形ではない。しかし賞レースで行う漫才は、声量もかなり大事なのでネタ自体が大声コンテストという声を張るような設定にしており、賞レースを意識してこのネタを選んだのだろう。
ネタ自体はフレーズネタで、そのフレーズにストーリーもついていたので流れが進むにつれて笑いも大きくなり、伏線を回収するような展開もあったので面白かった。
しかしトップバッターであるが故に、ネタの初速が遅く、盛り上がるまでに時間がかかってしまったのが勿体ない。これが順番が変わっていて、もう少し後の順番だったらさらに笑いが起きていたと思う。今回はネタのシステムと順番の相性が悪かったので、運が味方しなかったといったところだろうか。
ちなみに掴みのボケが本当に掴み程度だったので、そこももっと大きな笑いがとれるようなものであれば、ゆるやかな漫才でも初速が上がる気がする。さらに本ネタに入るまでの笑いがない部分が長すぎた気もする。前半部分の改善が今後の鍵。
2組目 真空ジェシカ「シルバー人材センターでの出会い」
2年連続2度目の決勝進出。前回ファイナリストになったことにより、知名度が爆発的にあがった彼らは、この1年でかなりの数番組に出演した。数々の修羅場を潜り抜けた経験値は漫才にも影響が出る。相当パワーアップしているだろう。
ネタはいつも通りボケに対して説明と広がりを持たせるツッコミを入れて笑いを取るスタイル。前年度と比べてそこまでネタに変化があったわけではないが、落ち着きや、自信などが要所要所に垣間見えて、安心して楽しむことが出来た。
一点、勿体ないと思ったところは、ネタのオチ前に聞かせるセリフを入れてしまい、そこだけ笑いのテンションが下がってしまったところだ。ボケ的には面白いのだが、連続していた笑いがストップすると、お客さんに一息つくタイミングを与えてしまい、どうしても若干盛り下がってしまう。せっかくなら笑いを連続させたまま終わった方が印象的には良かったのではないだろうか。
だとしても笑いの量と、ボケのクオリティ、ツッコミのセリフ選びは高水準で、大いに笑わせてもらった。さすが真空ジェシカといったところだ。
3組目 オズワルド「明晰夢を好きなときに見れるようになった」
敗者復活戦を制し決勝戦へ勝ち上がってきたオズワルド。今や東京漫才を代表する若手漫才師といっても過言ではない。M-1の決勝戦常連で、2019年から4年連続で決勝へ進出している。そんな実力者のオズワルドはいつものスタイルの漫才で相変わらずのオズワルドらしい高クオリティの漫才を見せてくれた。
しかし例年に比べるとオズワルドの漫才に対する会場のテンションが、そこまで上がっていない感じがした。やはり漫才というのは賞味期限があり、鮮度が大事になってくる。オズワルドの漫才が賞味期限切れというのでは、もちろんないのだが、あまりにも知名度があがり、露出が増えたことにより、視聴者側がこのオズワルドの独特な漫才への耐性がついてしまい、新鮮味を感じられなくなってしまったのではないだろうか。
ある程度予測が出来る漫才と、未知なる漫才とでは、同じくらいのクオリティだとしても未知なる漫才の方が笑いが起こりやすく、新鮮味もあるので面白く感じてしまう。逆にその形に慣れてしまうと、どれだけ面白くても100で笑えなくなってしまうのだ。
漫才師というのは死に物狂いで自分たちのオリジナル漫才を探し出す。
4組目 ロングコートダディ ファーストステージ「マラソンランナーってかっこいい」
キングオブコントの決勝戦常連でもあり、コントにも定評があるロングコートダディ。漫才もコントも高水準でこなすその姿は、まさに現代の芸人の象徴的な存在なのではないだろうか。さらに今回ファイナルステージへ進んだ彼らは、両方をこなす芸人のトップであることは間違いない。
今までのロングコートダディが披露する漫才は「漫才風コント」という印象だったのだが、今回ファーストステージで見せた漫才はまさに「漫才コント」で、きちんと技術が上がっていることを証明していた。
ファイナルステージ「タイムスリップの練習」
こちらもロングコートダディさんらしいネタで、ボケの流れや種類はわかり切っているが、そのワードセンスやタイミングなどで思わず笑ってしまう。ただ思わず笑ってしまうでは優勝できないのが、日本最高峰の漫才の大会「M-1グランプリ」。どうなるか予測がつくボケの爆発力には限界があり、予測不能なボケの爆発力には勝てないのだ。主軸となるボケ以外の枝葉的なボケで笑いを起こしてはいたが、やはり主軸に威力がなければトータル的な印象は爆発力に欠けたネタとなってしまうのだ。
ロングコートダディの得意な手法として、客観的にツッコミをいれるというものがあるが、今回のネタは客観視しているときの説明が長く、オチがわかり切っているが故に、その説明が不必要に感じてしまい、「笑う」という態勢を無意識で崩してしまうのだ。人を笑わせるうえで説明というのは大事な要素だが、説明を入れる場所や秒数を間違えると笑いづらくなってしまうもの。
5組目 さや香 ファーストステージ「免許返納」
2017年の決勝戦以来、ネタに改良を重ねて5年ぶりの決勝進出となった。さらに今回はファイナルステージにも勝ち進み、前回の決勝7位と比べてもその実力が上がったことも目に見えてわかる。さや香さんは勢いのあるベタなしゃべくり大阪漫才で、ネタの勢いは今大会随一だった。とくにファーストステージのネタは冒頭からエンジン全開で、その勢いのままネタの最後まで走りぬいたので、漫才の見せ方としては完璧に近かったのではないだろうか。
ファイナルステージ「男女の友情は成立する」
出だしで少し噛んでしまい、緊張感なのか、疲労感なのか、お客さんが何かしらの違和感を感じてしまい空気が悪い意味で変わってしまった。さらにネタの内容が万人受けするものではなく、嫌悪感を抱く人もいるようなもので、ファイナルステージのネタは出来れば、万人受けするものの方が良かった気がする。
ファイナルステージのネタも十分面白かったのだが、ファーストステージの漫才が完璧に近かったので「もっと笑わせてくれるんじゃないか」というハードルが上がり切ってしまった気がする。
さらにボケの質がファーストステージに比べるとボケボケしていないので、笑える人と笑えない人が出てしまうものだったのも惜しい点だ。やはり漫才はボケとツッコミが明瞭な方が見ていて爽快であり、本能で笑う事が出来る。もしファーストステージのネタをファイナルステージでやっていたら果たしてどうなっていたのか。もしもなんて無いのだが、ついそう考えてしまうほど勿体ないという気持ちになってしまった。
6組目 男性ブランコ「音符運びをやってみたい」
今回M-1グランプリ決勝初出場。「キングオブコント」でもファイナリストになっていることから、こちらもロングコートダディと同じように現代を象徴するハイブリット芸人だ。キングオブコントでの印象が強いのか、初登場なのかと驚いてしまった。
今回のネタはお客さんの想像力を使うタイプの漫才で、さらにパントマイムの上手さが鍵となるネタ。どことなくバカリズムさんの都道府県の持ちかたを彷彿とさせてしまう部分があるので、ネタの設定としては少々勿体ない気がしたのだが、持ち方だけで遊ぶわけではなく、運ぶ際に必ずハプニングが起きてしまい、その部分がボケの主軸となっていくので、設定を越えていく面白さがあった。
一番驚いたのは、お2人のパントマイムと表現力だ。多くの漫才師は体の使い方を研究していない。それもそのはずで、漫才というのはセンターマイクを挟んで会話をするという形がスタンダードで、霜降り明星さんのように縦横無尽に暴れまわるスタイルの方が少ない。会話を主体とするので、声の表現力や間の取り方に注視してしまい、体の表現力はおろそかになりがちだ。
しかし男性ブランコのお2人は大学の演劇サークルで出会っており、演劇を勉強していた。演劇では体の表現力も芝居の重要なファクターだと言われている為、ほかの芸人よりも動きを勉強してきたのではないだろうか。それが活きたネタだった。体を使うネタは雑になればなるほど、笑いが起きにくい。ここまで丁寧に表現できるのは大したものだ。ネタの見せ方がオムニバス形式だったので、これがもっと繋がっているようなネタならば、お客さんのテンションにもリセットがかからず、もっと笑いが増幅したはずだ。
7組目 ダイヤモンド「変な言い方すんなよ」
コンビ結成5年目で決勝進出は凄い。準々決勝の壁を越えられなかった2人がいっきに決勝まで来られたということは相当な努力をしたのだろう。
ネタが始まるとやはり結成5年目ならではの緊張感に包まれており、見ている側まで緊張してしまい、笑いが起こりづらい状態になっていた。
さらにはこの漫才の形式は、漫才に見えるのだがツッコミセリフ、ボケのタイミングや動きが固定されており、漫才ならではのアドリブ感が少なく、緊張感に包まれた会場をほぐすようなツッコミや客イジリのようなボケをすることが出来なかった。笑いが起こるまでに若干、苦痛な時間が強いられてしまったのではないだろうか。笑いが起き始めてからは波に乗っていたので、後半盛り上がっていったのだが、やはり前半のツケを回収するまでには至らなかった。
さらにセリフやテンションが固定されているとお客さんとの温度差が生まれてしまうので、どうしても埋まらない溝が出来てしまう。ネタの内容も頭を使って楽しむもので、本能で笑うタイプのボケでは無かったのもいまひとつ盛り上がり辛かった要因かもしれない。
そして最も僕が気になったのは、今回の漫才でボケをしていた野澤さんの喋り方だ。若干くぐもった声で、舌ったらずな喋り方に聞こえ、このような捲し立てるようなネタには合っていなかった。もし野澤さんをボケにするのなら、捲し立て方を変える必要があったかもしれない。もうすこし客観的に自分たちのネタを分析することが必要そうだ。
8組目 ヨネダ2000「イギリスで餅つこうぜ」
「女芸人№1決定戦 THE W」でも好成績をおさめた、実力派女性コンビ。結成2年目、今大会最年少でこの快挙は、才能の塊といって間違いない。「THE W」ではコントを中心に披露していたので漫才を見られるのが楽しみだ。
そしてネタを見た感想は……「凄い!」だった。
好き嫌いが別れるのは間違いないネタなのだが、ボケの数ではなくボケの種類がどのコンビよりも多く、エンターテイメントとしては他のコンビよりも優れていた気がする。
特に前半がボケのジャンルが多く、笑わせ方の豊富さが尋常ではない。たぶん彼女たちはボケの種類を増やそうと意識しているのではなく、面白いものを集めた結果として種類が豊富だったのではないだろうか。これだけ種類が違う笑わせ方をさらっとこなしてしまうのはやはり、彼女たちの才能だ。
もちろん結成2年目のたどたどしさもある。しかしそのたどたどしさですら武器にして違和感がある笑いを生みだしているのも客観視できているからだろう。
今回のネタに関しては後半部分がヨネダ2000らしさが出ており良かったとも言えるのだが、逆にらしすぎて見慣れてしまった感もあり若干、笑いが落ち着いてしまった気もする。
自分たちの”らしさ”に自信があると思うが、その”らしさ”から脱却し、今と違う”らしさ”を見せて欲しいと思う。
9組目 キュウ「世の中には全然違うものがたくさんある」
「M-1グランプリ」決勝戦、初出場。その独特な表現の漫才で少し前からメキメキと頭角を現し、とうとう決勝まで登り詰めた。臨場感やリアリティを徹底的に排除したキュウの漫才が、このM-1という舞台でどのように評価されるのか、とても楽しみである。
ただ、出番がトリ前ということもあり、お客さん自体も少し疲労がたまっているようで、キュウ独特の静かな立ち上がりがあまりハマらず盛り上がるまでに時間がかかり、最後まで盛り上がり切らなかったように思えた。
普通の漫才師なら会場の空気を読み、空気を変えるようなツッコミや一体感を生むボケを追加したり出来るのだが、キュウは最初から最後までネタが決まっており、アドリブが入るような漫才では無いので挽回する手立てがなかった。
さらにボケの種類が1種類しかなく、セリフを変えようが、パターンを変えようが、そんなところに気づくのは分析しようとしている人間のみで、ただ笑おうと思っているお客さんにとっては同じようなボケをひたすらしているように思えてしまい、後半は少し飽きられていた気がする。パターン化するお笑いはハマれば強いのだが、ハマらなかったときはどうすることも出来ない状況に陥る。
今回はハマらなかった典型的パターンだった。キャラクターもあり、経験値もあり、技術もあるコンビなだけに、2人の実力が存分に発揮できなかったことはとても残念だ。もしかしたら排除している臨場感やリアリティという元々漫才が持っている面白みを、エッセンスとして加えるときが来たのかもしれない。漫才は結局、基本が一番笑えてしまうから。
10組目 ウエストランド ファーストステージ・ファイナルステージ「あるなしクイズ」
最後に登場したのは2020年のファイナリストで2年ぶり2度目の決勝戦進出を果たし、今回の「M-1グランプリ2022」の頂点に立ったウエストランド。結構若手の頃からテレビなどに出演し、その実力は広く知られていたがなかなか冠を手にすることが出来なかった。結成14年目にしてとうとう「M-1グランプリ王者」という最高の称号を手に入れた。
ファイナルステージへ行った芸人の場合、2ネタの感想を書いているのだが、ウエストランドの場合、どちらも同じ「あるなしクイズ」のネタでさらに順番もファーストステージの最後、ファイナルステージの最初だったので続けて行ったので長尺のネタを1本見たと錯覚してしまうほどだった。
なのでまとめてレビューさせてもらおうと思っているのだが、今回ウエストランドさんが優勝出来た理由はまさに「運」が味方したからだ。
もちろんウエストランドに優勝するだけの実力があるのは知っている。しかし今大会は決勝戦に進出したどの芸人にも、優勝するチャンスがあったほど実力が拮抗していた。その中でウエストランドが飛びぬけたのは、他の芸人より「運」をもっていたからなのだ。
本来なら不利な状況にもなりえる大トリという順番も、今回に関しては最高に良い順番だった。ひとつ前のキュウは比較的静かな漫才で、その後にウエストランドのような声を張り上げるようなネタをした場合、声量だけでも面白く感じてしまうものなのだ。さらにキュウの披露した、台本がきっちり決まっている漫才の後に、アドリブが強く見える漫才を披露したのも臨場感が強く出てお客さんが惹きこまれてしまう。
言い方は悪いが今回に関しては、キュウの後だったことが全て、良い方向へ動いたのだ。
さらに続けてネタをしたのもラッキーだった。続けてネタをするというのは芸人にとってかなりの負担で、これもマイナスに働いてしまうことがあるのだが、今回の場合はウエストランドがテンションそのままに、入りから笑いを起こし、そしてファイナルステージのネタと変わらない高いクオリティの漫才を披露したことにより、笑いにリセットがかからず、長時間笑っているような印象になるのだ。
これを1本のネタと考えたときにファイナルステージへ通過した2組に比べると倍くらい長いネタをしていることになる。少しでも長い時間笑わせ続けた方が有利になるのは間違いなく、全ての順番が有利に働いた、というわけだ。
さらにネタの内容も頭を使わせるようなネタではなく、お客さんも頭の片隅で思っているようなことを羅列していくネタだったので、共感性が高まり仲間意識が強くなる。そうなると笑い声もどんどん大きくなり、会場に一体感が生まれるのだ。
やはり、笑い声というのは審査するうえで最も重要なポイントで、どれだけネタが優れていようがお客さんの笑い声を生みだせないのなら意味はないのだ。今大会で一番大きな笑い声を巻き起こしたウエストランドの優勝は、当然の結果と言える。ボケもツッコミも大声も展開も裏切りも何もかも一人でこなすという漫才の概念からは程遠い邪道漫才が優勝したのは、彼らの努力してきた結果であり、信念を貫き通した芸人の集大成であった。
2年前の決勝戦で9位というウエストランドの結果に不満を持っていた僕としては、大満足の結果である。おめでとう。
今回の大会へ対して視聴者の方達はどのような感想を持っているのか検索したところ、山田邦子さんへの批判続出しているという記事が目に入ってきた。
ほかの審査員に比べ点数が極端な部分があり、ネタへの感想もきちんと審査が出来ていないというところが批判の対象になっているらしいが、もし同じように感じている人がいるのなら、すこし話を聞いてほしい。
僕が芸人をしていた頃、山田邦子さんと共演する機会があった。その際に邦子さんは、自身は芸人ではないテレビ屋だと仰っていたのだ。誰かに芸事を教わったわけでもなく、寄席などでネタをしたこともないので、自分のことを芸人と呼ぶのは芸人さんに対して失礼でおこがましいと言っており、テレビを主戦場としている私はテレビ屋だと。
つまり邦子さんは全芸人に対してリスペクトしているのだ。なので今回「おもしろいです」という感想が多くなってしまったのは、そういった部分が反映されてしまったのかもしれない。
さらに点数が他の審査員とあまりにも違うのは慣れもあると思うし、自分の中での盛り上げ方のひとつという可能性もある。本当のところはわからないが、邦子さんなりに芸人に対して尊敬の念を抱きながら、大会を盛り上げようとした結果だったのではないだろうか。
そこで「良くわかっていないなら審査員なんてしなければ良い」という人もいるかもしれないが、誰でも最初はわからないことが多い。漫才師の成長だけを願うのではなく、同時に審査員の成長も見守ってみるのはいかがだろうか。
話をもどそう。
今大会で、ウエストランドの優勝を願った芸人は多くいたと思うが、一方で本当に優勝すると思った視聴者は少ないのでないだろうか。面白くても優勝できない芸人というのは多く存在していて、ウエストランドもそういった類の芸人だった。しかし今回優勝できたウエストランドを見て、とあるマンガで見たセリフが思い浮かんだ。
「天下人は天が決める!命懸けて信長公を追いかけて、そして信長公が亡くなった。その時周りを見渡せば、俺より力の有る者がいなかった。ただそれだけのことじゃ」
「花の慶次~雲のかなたに~」(集英社)に登場する天下人・豊臣秀吉のセリフだ。
ウエストランドも必死で面白さを追いかけて、何度も傷つき、その度に何度も立ち上がり、自分たちを鍛えて、そして気が付いたら、自分たちが一番になっていたのではないだろうか。
正直、ウエストランドくらいの知名度があれば、大会で優勝しただけでは何も変わらない。必死に漫才を極めようとした14年間だったと思うが、これからは更なる進化をしなければならなくなる。どの職業でも言えるのだが、芸人という職業も例に漏れず永遠に完成しない職業のひとつだと思う。これからまた違う努力が必要となるが、それを必死に追いかけたとき、また一味違うウエストランドの漫才が見れるはずだ。
結成14年目ということもあり今後、「M-1グランプリ」に参加するというのは考えにくい。つまりファイナリスト候補が1組減ったということになる。その穴を埋めるべくまた新たなファイナリスト候補が登場するはず。輪廻転生を繰り返し、進化し続ける漫才は永遠に楽しむことができる最高のエンターテイメントのひとつだ。
これからもこの大会が続き、最高の漫才が見れることを願っている。
※敬称略
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