『27時間テレビ』(フジテレビ系)公式サイトより

 テレビウォッチャーの飲用てれびさんが、先週(7月16~22日)に見たテレビの気になる発言をピックアップします。

ダイアン・津田「ゴイゴイスーやー!」

 今年の『27時間テレビ』(フジテレビ系)が面白かった。テレビ好きとして、そう言えることがうれしい。

 23日と24日に放送された『27時間テレビ』。同番組の放送は、2019年以来となる4年ぶりだ。また、2017年から2019年までは教養を軸としたプログラムだったため、お笑いをストレートに打ち出した『27時間テレビ』は久しぶりである。もともとは『24時間テレビ』(日本テレビ系)のパロディとしてはじまり、チャリティではなくお笑いを全面に打ち出して始まった番組であることをふまえると、今回は原点に立ち戻ったとも言える。

 オープニングから最高だった。まず画面に登場したのは秋山竜次(ロバート)扮する総合プロデューサーの唐沢佐吉。彼により総合司会の千鳥(大悟、ノブ)、かまいたち(濱家隆一、山内健司)、ダイアン(津田篤宏、ユースケ)が呼び込まれると、トークもそこそこにフジテレビ系列局を結んだ各地の中継へと移る。一芸に秀でた素人たちのスゴ技を連続で成功させるチャレンジがお届けされた。

 最初に登場した少女が初っ端でミスするアクシデントは最高の失敗。その後は、手を使わずにバク宙でズボンを履く人、動くSUPの上で三点倒立をする人、頭につけた吸盤でシャンパンタワーを完成させるおじいさん、缶を手で握りつぶす人、大人をドリブルで抜いてゴールする4歳児、寝グセをダンシングカットで直す人、じゃんけんで勝ったほうの手にタッチするアシカなどが登場した。

 これらが短い時間で映画『ミッション:インポシブル』のテーマ曲にのせて披露されていく。なかには怪しい“スゴ技”もあったりしたが、何が成功なのか失敗なのか、そもそもこれはスゴい技なのか、そんな疑念は「デデーン!」という効果音とともに次々と切り替わる中継の勢いと、ワイプの千鳥らのツッコミが面白に変えていく。

むしろちょっと怪しいぐらいがちょうどいい。成功も失敗も全部笑いの燃料だ。そして最後のダイアン・津田のけん玉成功で最高のカタルシスを迎える。

「ゴイゴイスーやー!」

 津田の咆哮とともに、最高のオープニングが決まった。何かを連続(レンチャン)でつなげていくというコンセプトと、画面上で起こったことを千鳥らがワイプでツッコんでいくというスタイル。この番組の面白がり方を復習する意味でも最高の開幕だった。

 続けてはじまったのは『千鳥の鬼レンチャン』の名物企画「サビだけカラオケ」。ここで言及すべきは、まずはやはり華原朋美だろう。丘みどりとタッグを組んで登場した彼女の、レギュラー放送時と変わらない奇天烈な言動、朋ちゃんダンス、そしてかまいたちへの煽りなどは笑わずにはいられない。

 さらに、TRF、篠原涼子、globeなどの曲にチャレンジしていた華原は9曲目で持ち歌『I’m proud』を歌い上げ見事成功、床に倒れ込み「小室さん大好きだよぉー」と叫んだ。その姿には「人生……!」と思わずにはいられない。

 そして、ほいけんたである。

明石家さんまのモノマネ芸人として活動してきた彼は、レギュラー放送時から高音を外さないための歌詞の改編などルールの裏をかくようなチャレンジを繰り返し、番組内ではダーティーなキャラクターになっていた。

 そんなほいは今回、練習のしすぎで喉が絶不調。だが、ダーティー面は絶好調。尾崎豊『I LOVE YOU』の「悲しい歌に」の部分を「かぅーしぃー うとぅーにぃー」と歌ったり、布施明『君は薔薇より美しい』の「変わったー」の高音&超ロングトーンのところを「くるっくぅー」と歌うなどし、千鳥らからの猛ツッコミと大笑いを生んでいた。ほいけんた、カラオケで事前に練習しながら「よし、くるっくぅでいこう」とか考えていたのだろうか。それで喉を枯らしたりしてるのだろうか。

「クリアすることが正義や」

 さんまのモノマネで引き笑いをしながらそう語るほい。まさに裏さんまという感じ。その後もほいは、27時間の随所で活躍していく。

大悟「ワシらの良さゼロやん」

 その後もさまざまなコーナーが放送された『27時間テレビ』。見どころも多くあった。NHKの番組との生コラボ、「政治の話ばっかりもうええねん!」とツッコまれたほんこん(130R)によるとてもダサい発言「政治家に怒られんど!」、トークのなかに「建築関係トントントン」を笑いとともにねじ込む明石家さんま、松尾駿チョコレートプラネット)によるケータリングスタッフのキャラクター、津田から母親の「長生きしてな」のひと言。

ユースケのおなじみキャラ、岸大介の中継も面白かった。

 大きな笑いのうねりが生まれたのは「FNS鬼レンチャン歌謡祭」の時間だろう。『千鳥の鬼レンチャン』の「サビだけカラオケ」で常連となっているメンバーを中心にした歌謡祭である。演歌歌手の徳永ゆうきが『限界突破×サバイバー』を歌ったり、フリーアナウンサー高橋真麻がロボの扮装で『残酷な天使のテーゼ』を歌ったり。もちろんワイプで見ている千鳥らが画面にツッコミを入れ笑いに変えていくわけだけれど、そんななかに森高千里だったりT-BOLANだったり本物が混ざってくる。そのごった煮の振れ幅が生む面白さ。いや、徳永ゆうきも本物の歌手ではあるのだけれど。あと、酒井法子保田圭が『碧いうさぎ』を歌っていたが、27時間の放送のなかでこの時間が一番どう見ていいかわからない時間だったと思う。

 さて、ほいけんたである。当然、この歌謡祭にはほいも登場する。ほいの代名詞といえば今や「からだぐぅ」になっていて、これはT.M.Revolution『HIGH PRESSURE』の歌詞をほいが“改編”して歌ったことによるものなのだけれど、今回の歌謡祭ではそんなほいがご本人と共演。T.M.Revolutionの西川貴教とともに「からだぐぅ」と歌い上げるのだった。

歌った後にほいは言う。

「西川さんが歌ってるのは『HIGH PRESSURE』、俺が歌ってるのは『ほいプレッシャー』や」

 さらに、ほいはモーニング娘。’23、AKB48、ももいろクローバーZとコラボレーション。アイドルたちのセンターで、各組の代表曲を歌い踊るのだった。ハートマークを作るほい、エビ反りジャンプするほい、我が世の春とばかりのほい。「そこお前かい!」(ノブ)、「売れすぎて自分でもびっくりしてるでしょ」(濱家)、「1年前、何してました?」(大悟)などワイプのツッコミもボルテージを上げた。

 なぜか交錯してしまった、近年のメジャーアイドルシーンと明石家さんまのモノマネを再現VTRなどでしてきた男。世界線の混線。いや、数多の偶然の積み重ねで奇跡的にいまこの瞬間、画面上に焦点が結ばれたという意味では、あのアイドルもこのアイドルも、そしてほいも同様なのだ。世界線を捻じ曲げ本来つながらないものをひとつの文脈につなげるテレビの力をまざまざと感じた。

 歌謡祭の間には『27時間テレビ』の通し企画として放送されていた100kmサバイバルマラソンの中継もあった。そこでのハリー杉山井上咲楽らの走りにはグッときた。

さらに、1着の賞金を逃したもののチャレンジャーのなかでリーダー的な存在だったとされる団長安田安田大サーカス)による「お金ほしー!」という叫びも良かった。一方、画面上では井上咲楽がゴールに倒れ込んでくるといった27時間中でも屈指の名場面が起こっているにもかかわらず、中継先の倉田大誠アナウンサーが事前に用意されたコメントを読み上げるような“実況”を延々としていたところはいただけなかった。

「有吉ダマせたら10万円」の時間も面白かった。足つぼマットの上で『マツケンサンバⅡ』を踊っているのはノブと津田のどっち? といった問題を有吉が見破るわけだが、相変わらず有吉の眼光、追い込む力、見抜く力は鋭い。論拠を示す際のロジックの組み立ても剛腕だ。

 そのなかで大悟が150km/hの速球をキャッチできるかの挑戦があり、チャレンジ自体は成功したのだが、有吉はこれに「思ったより速くないんだよなぁ」「誰でもできそう」とコメント。自身も速球キャッチに挑戦し(1球目はミスしたものの)見事成功させた。

「ワシらの良さゼロやん」

 有吉のコーナーの最後で大悟がそうつぶやいていたけれど、ほかのコーナーでは状況に合わせてゲームのルールを調整するなど場を回す側に立つことも多かった大悟が、この時間は完全に有吉に回される側になっていた。ガヤをするノブに有吉が斬りつけたり、濱家やユースケが作ったポエムを徹底的にこき下ろしたりする場面もあった。

 フジテレビにも、有吉の壁はそびえ立っていた。

 さて、千鳥やかまいたちやダイアン、そしてほいけんたも声優を務めた『サザエさん』の時間などを挟み、『27時間テレビ』はエンディングへ向けて加速する。

 まずは、鬼レンチャンの名物企画である400m走サバイバル。

相変わらず奇天烈な言動を繰り返しながらスパイク着用などダーティーな立ち回りも見せる森脇健児、走る前に「足がつらないポテサラ」を食べる石橋遼大(四千頭身)、ラストの直線で元プロ野球選手の鳥谷敬をシンプルな走力で振り切り優勝したおばたのお兄さんなど、いろいろな見どころがあった。

 続けて、芸人たちの大縄跳び。こちらも過去の『鬼レンチャン』放送時に、足を痛めた和田まんじゅう(ネルソンズ)をほかの芸人たちが抱えて跳ぶという“奇跡”を生んだ企画だ。今回も当然、挑戦するメンバーのなかには和田まんじゅうがいる。千鳥チームとかまいたちチームの対決形式で進んだこのチャレンジは、幾度もの逆転を挟みつつ盛り上がりを見せていき、最後にはやはり和田が足を痛める。もちろんこの場面、本当に足を痛めているのか、痛めている設定で立ち回っているのかはよくわからないままのほうがいい。

 とにかく“奇跡”は作るもの。今回も足を痛めた和田を抱えて芸人たちが満身創痍で跳ぶ。敵チームからも和田を抱えるための要員を呼んで跳ぶ。最終的にチャレンジは失敗してしまうのだが、芸人たちが“奇跡”を作ろうとするプロセスの面白さはほかに代えがたいものだった。

 そして最後は総合司会の3組による約1時間の耐久リレー漫才。千鳥らが27時間のなかで起こったことを折り込みながら、次々と漫才をしていく。SMAPが総合司会を務めた2014年の『27時間テレビ』でのノンストップライブを思い起こさせる構成だ。漫才をはじめる直前、ノブが27時間をふりかえって「人を笑かすのが嫌いになりました」と耐久漫才の大変さを印象づけるようなコメントをしていたけれど、いやいや、実際の漫才は27時間を経たからこそ帯びる疲労困憊の様子も含めた面白さがあったし、27時間を経た上でもマイク1本でこの場を笑わせることを楽しむ感じがにじみ出ていたように思う。

 さて、津田の母親が歌う中島みゆき『時代』、そして集団「ゴイゴイスー」で終わりを迎えた今回の『27時間テレビ』。もちろん、27時間もあればすべての時間が面白かったわけではない。「ラブメイト10」はもうツラい。いや、さんまが好きな女性についてあれこれ言うのは個人的にはノイズではない。それを周りの後輩芸人たちが「いつまでそんなこと言ってるんですか」みたいにツッコミつつも実際には持ち上げている構図が私はもうキツい。

 そんなところがありつつも、全体としてはとても面白く見た。フジテレビのバラエティ番組のかつての面白さが戻ってきたような、そんな印象も受けた。同時に、これまでの『27時間テレビ』から変化した部分も多々見られたように思う。たとえば、これまでは系列局を中継で結んだ企画が27時間を通じた軸になっていたけれど、今回そのような中継はオープニングに集約、しかも短時間でテンポよく見せる構成だった。

 そんなオープニングに象徴されるように、全体的にテンポの良さを感じた。過去の『27時間テレビ』では出演者が進行を無視して延々と遊び続ける時間があったものだが、そんな時間は今回あまりなかった。次々と出てくるスゴ技素人、次々と出てきて歌う歌手、瞬時に出る生クリーム砲、瞬時に出てくる画面上のテロップ、特に400m走サバイバルの画面は収録での通常放送と見紛えるような映像だった。時代にあわせた演出だったのだろう。

 昔のフジテレビみたいで面白かったという感じと、新しく進化していて面白かったという感じ。そのどちらも感じた。理想的ではないか。

 楽しいを塗りかえろ。そんなフレーズが何度か出てきた今回の『27時間テレビ』。フジテレビの『笑っていいとも!』や『SMAP×SMAP』、『めちゃ×2イケてるッ!』や『とんねるずのみなさんのおかげでした』といった番組が立て続けに終わったときには、同局のバラエティ番組それ自体の終焉といった言説が繰り返された。『いいとも』のグランドフィナーレは「テレビの最終回」とも評された。SMAPが“生前葬”の設定でオープニングを行った2014年の『27時間テレビ』には「テレビの葬式」といった声もあったと記憶する。そんな記憶が、今回まさに塗りかわる感じがあった。過去のあれこれを継承しつつも更新し、次の世代にバトンが受け継がれた感があった。

 今年の『27時間テレビ』が面白かった。そして、これからも面白そうだ。テレビ好きとして、そう言えることが改めてうれしい。

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