「ちょっとごめんね、生のラジオだからっていうところがあるんですが……」
12日夜、ラジオ『#むかいの喋り方』(CBCラジオ)のMCであるパンサー・向井慧の声色が変わった。この日は向井の盟友であるチョコレートプラネット・長田庄平、ジャングルポケット・太田博久、サルゴリラ・児玉智洋をゲストに迎え、ワチャワチャとトークに花を咲かせていた最中だった。
「……和牛さんが、来年3月末で解散」
「ほらぁ」という太田の声が耳に残る。長田は「びっくりしたぁ!」と叫ぶ。なんとなく察していた者、まったく考えてもいなかった者、生放送のラジオは、その心情を露骨にリスナーに届ける。
そんなことより、和牛、解散? ちょっとそれは、寝耳に水どころの話ではなかった。突然、寝床に火を放たれた。もう飛び起きるしかなかった。和牛が、解散するのか? 本当に?
近い将来、NGKの看板になる漫才師だと思っていた。上方漫才大賞だって、予定された未来だと思っていた。もう特に、注目もしていなかった。当たり前に漫才の舞台に立ち続け、当たり前に大御所になっていく。そういう漫才師だと思っていた。何より本人たちが、そんな展望を明かしていたじゃないか。
水田信二が、3年ほど前から劇場舞台に遅刻するようになったという。「徐々に彼を信頼できなくなり」と川西が記している。「彼」という他称が胸に刺さる。川西が水田を「彼」と呼んでいる。ここに書いてあることがすべてではないだろう。すべてを明らかにする必要などない。40歳を前後する大人たちが決めたことだ。とやかく言えない。とやかく言うことではない。それでも、現実感がないのである。和牛が、解散するのか?
2016、17、18年、和牛は『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)で3年連続準優勝している。ファイナルステージで、審査員の松本人志は3回とも和牛の優勝に投票した。
19年、和牛は『M-1』準決勝で蹴られ、敗者復活を勝ち抜いて暫定3位に滑り込むも、10番手出番のぺこぱにまくられて敗退した。あのとき私は「痛快だ」と感じたんだ。ニュースターぺこぱ、ようこそ。和牛を叩いたんだ、自信を持っていけ。和牛はあのとき、現役の『M-1』戦士でありながら、すでに新参たちの壁として立ちはだかる存在になっていた。
ラストイヤーまで2年残して、和牛は『M-1』を去った。その初年度の年末である、3年前といえば。マヂカルラブリーが漫才論争を巻き起こしていたころから、水田は劇場出番に遅刻し始めていたというのだ、あの水田が。
『情熱大陸』(TBS系)みんな見たよね。『ヒルナンデス!』(日本テレビ系)のオードリー春日カバー漫才、あんなに楽しそうだったじゃない。
今年11月、アキナ、アインシュタインとの番組ユニット『アキナ牛シュタイン』全国ツアーの中止が発表された。
「当たり前じゃねえからな!」
10年の空白を経て、解散しなかった極楽とんぼ・加藤浩次のダミ声が耳の奥に響く。当たり前じゃなかった。当たり前のことなどない、そう思い知った夜だった。
(文=新越谷ノリヲ)