パリ五輪のボクシング女子で、昨年の女子世界選手権の性別適格性検査で不合格となった2人の選手の出場をめぐり、国際的な議論が巻き起こっている。
議論の的となっているのは、アルジェリアのイマネ・ケリフと台湾のリン・ユーティンの2選手。
イマネ選手は8月1日の66キロ級2回戦、リン選手は2日の57キロ級2回戦でそれぞれ初戦を迎えるが、彼女たちの出場に賛否が巻き起こっているのだ。
2021年には2人とも東京五輪に出場しており、今回のパリ五輪出場はなんの問題もないように思えるが、両選手は昨年インドで開かれた女子世界選手権の性別適格性検査で不合格となり、リン選手はメダルを取り消され、イマネ選手は決勝への出場権が剝奪された。
世界選手権を主催する国際ボクシング協会(IBA)は、両選手の失格理由について「2人はXY染色体を持っていることが証明されたため、除外された」と説明。ただ、過去の検査では問題がなかったこともあり、選手側からはこの結果に不満の声が出ている。
この判定がパリ五輪にも影響する可能性があったが、国際オリンピック委員会(IOC)は「2024年パリ五輪ボクシング大会に出場するすべての選手は出場資格および参加規定、適用可能なすべての『医療規定』を順守している」との声明を出しており、両選手の出場が医学的な観点からも認められたようだ。
しかし両選手の出場には疑問の声もあり、7月末に英紙デイリー・メールの電子版が出場をめぐる問題を報じたことで騒動が拡大。同紙は「ケリフが対戦相手に強烈すぎるパンチを繰り出す映像がネット上で拡散」と伝え、2022年にケリフ選手がメキシコのブリアンダ・タマラ選手と対戦した試合の動画などを交えて報道した。
当該の動画では、ケリフ選手が段違いのパワーでタマラ選手を一方的に圧倒している様子が確認できる。この試合を振り返って、タマラ選手は「ボクサーとしての13年間のキャリアの中で、あんな力を感じたことはなかった。あの日、私は無事にリングから降りられたことを神に感謝した」と告白。さらに「だから、IBAが問題に気付いてくれてよかった」と語り、IBAの性別テストでの判定を支持すると共に、イマネ選手との試合で公平性に疑問を抱いたことを示唆した。
この動画は世界的に拡散され、元WBC世界ライト級暫定王者ライアン・ガルシアが「オリンピックを今すぐボイコットしよう」と声を上げるなど国際的な問題に。日本でもこの動画は大きな話題になり、SNS上で「パワーが違いすぎる」「こんな試合がオリンピックで許されるんだろうか」といった驚きと戸惑いの声が続出している。
騒動は日本国内の著名人にも波及し、歌手の世良公則は1日付のSNSで「女子ボクシングではトランスジェンダー選手が出場」と言及。「その人物の主張する心の性別がどうであれ身体、体力的に優位な生来男性と女性を闘わせる行為は極めて危険」「女性だけに負担を負わせる事に違和感はないのか。これでは女子スポーツが崩壊する」などと訴えた。また、エジプト人タレントのフィフィは「SNSでは否定的な意見ばかりです。負けた女性の選手ボコボコにしてましたよね、身体の性に合わせて下さい」などと投稿している。
ただ、これらの意見については「話題の2選手は生まれついての女性で、性分化疾患などの問題だろうから、トランスジェンダー問題と混同するのはおかしい」との指摘もある。
IOCはパリ五輪において「寛容性」を強調しているが、さまざまな観点から両選手の試合は大きな注目を集めそうだ。