高橋由美子と武田真治の『南くんの恋人』(テレビ朝日系)から30年、脚本家・岡田惠和先生が、ちっちゃくなる男女を逆転させてセルフリメイクしたドラマ『南くんが恋人!?』(同)も最終話。
自分がすでに死んでいることを悟り、周囲に正体を明かしながら生涯を閉じていく南くん(八木勇征)と、その南くんを見送る恋人・ちよみ(飯沼愛)たちの姿が描かれました。
『HEAVEN CAN WAIT』。もし天国が待ってくれたなら、死にゆく人は残された猶予をどう生きるべきか。なんの理由もなく、身近な人間が急に死んでしまったとき、見送る側はその事実とどう向き合うのか。そんなお話です。ああ。振り返りましょう。
■「幸せな人にする」
生前、というかちっちゃくなる前、南くんは地元の大学バスケスターで、超イケメンのカンペキ人間でした。ちよみにとっては誰もがうらやむスーパー彼氏だったわけですが、そんな南くんに対してちよみはコンプレックスを隠そうとしませんでした。
南くんがトラックにひかれそうになったことがきっかけでちっちゃくなると、南くんはその姿を「誰にも見られたくない」と言います。もうバスケもできないし、街を歩いていて女性ファンに声をかけられることもない。とにかく恥ずかしくてしょうがない。
一方のちよみは、南くんの見たことのない一面を目の当たりにすることになります。情けなくて、プライドだけ高くて、1人じゃなんにもできない南くん。
そのうち大きい南くんに戻ると思っている2人は、この不思議なひと夏を思い切り楽しむことにしました。しかし、南くんの前にちっちゃい女性(国仲涼子)が現れ、どうやらこの人体縮小現象は「もう死んでいる」ことらしいと告げます。「死ぬ前の執行猶予のようなもの。だから、もうすぐ消える」。その言葉通り、ちっちゃい女性が姿を消したことで、南くんは自らの死を悟るのでした。
そして最終回、南くんは自らの姿を周囲にさらしていくことになります。ちよみの親友の女子やバスケ部のチームメイトに直接遺言を伝えると、大好きなちよみの家族とともに最期のときを過ごすことにした南くん。家族たちは、努めて明るく振る舞う南くんとちよみに大切なことを語り出します。
「不幸な亡くなり方をする人は、どうしてもいる。でも、その人の人生をかわいそうだと思うのはやめよう。幸せな人にしなくちゃいけない。
南くんとちよみは約束していたお城(ラブホ)で結ばれ、南くんは姿を消すのでした。というお話。
■30年越しのリベンジ
言いたいことを言い切ったな、と思いました。30年前、『南くんの恋人』では最終回にちっちゃくなったちよみが死んだことで「かわいそうだろ」というクレームが殺到し、別撮りで中途半端な「ちよみ復活劇」が放送されました。
その『南くん』をリメイクした今回、岡田先生は言いたいことを言い切ったと思います。複雑な人物配置、ドラマそのものの思想を司る「大先生(加賀まりこ)」というキャラクターの造形、軽妙な会話。それは30年のキャリアの中で岡田先生が培ってきた技術に裏付けされた、実にスマートな作劇だったと思います。駆け出しの若手2人を主役に据え、きらびやかな大御所で脇を固めるキャスティングも盤石でした。
8話完結のファンタジードラマとして、出来としては非の打ちどころのない作品だったと思います。前にも書いたけど、高橋由美子の『南くんの恋人』は現在でも通じるエポックな存在であって、そのセルフリメイク作品である今作は間違いなく日本のドラマ史の1ページだった。ドラマを見る人にとっては制作されたこと自体が喜ばしい事実だし、そうした期待に存分に応えてくれた作品だったと思います。視聴率のことは知らんけど。
■でもそんなことより
でも、そんなことより。
このドラマが始まったころに一緒に働き出した若い仕事仲間が、先週、事故で亡くなりましてね。まだそんなに深い付き合いじゃなかったけど、気のいい人間だったんです。まだ葬式も終わったばかりで、みんなで「かわいそうだな」「もったいないな」って言い合ってたとこだったんだ。ご家族のことも全然知らないし、なんにもできないよなぁ、なんて思ってたんです。
「かわいそうな人で終わらせちゃいけない。幸せな人にしなくちゃいけない」
そうかー。ドラマみたいに天国は待ってくれなかったけれど、今からでも、あの男を幸せな人にしなくちゃいけないんだな。生きてりゃ、それができるんだな。ああー、泣いちゃう泣いちゃう。ありがとね。
(文=どらまっ子AKIちゃん)