ポケモン・ピカチュウ(写真/Getty Imagesより)

 かわいいピカチュウは、実はおっさんだった? 人間の言葉もしゃべっちゃう? そんな意外な設定で、ハリウッドで実写映画化されたのが『名探偵ピカチュウ』(2019年)です。予告編を見た段階ではビミョーな気配を感じたのですが、劇場公開されてみると世界興収4億3600万ドルの大ヒットに。

日本でも30.1億円のヒット作になっています。

 10月4日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)は『名探偵ピカチュウ』を放送します。自宅でお気楽に楽しむには、ぴったりな作品でしょう。

 原作となったのは、株式会社ポケモン・任天堂より2016年に発売されたゲームソフト『名探偵ピカチュウ』です。舞台となるのは、人間とポケモンたちが共存して暮らす未来都市ライムシティ。主人公の青年・ティム(ジャスティス・スミス)が、父親のハリーが行方不明になった事件の真相を探るというミステリードラマです。探偵だった父の相棒のピカチュウが、ティムと新コンビを組むことになります。

しれっと『オリバーな犬』に流用された設定

 人気ゲーム『ポケットモンスター』の世界が、CGキャラとうまく合成されて実写映画化されています。しかも、あのピカチュウが人間の言葉をべらべらしゃべることに、アニメ『ポケットモンスター』(テレビ東京系)しか観ていなかった人はびっくりです。

 このピカチュウのボイスキャストを演じているのは、マーベル映画『デッドプール』(16年)に主演したライアン・レイノルズです。以前はスカーレット・ヨハンソンの最初の旦那というイメージしかなかったレイノルズですが、『デッドプール』が人気シリーズになって何よりです。ま、余計なお世話ですが。

 ライアン・レイノルズは1976年生まれ。

年齢的には充分おっさんです。毒舌キャラのデッドプールと同様に、ピカチュウも超おしゃべりキャラになっています。放送禁止用語を連発するデッドプールほど過激ではないものの、下ネタ系の言葉まで口から出てきます。ピカチュウ=かわいいのイメージしかなかった人は、軽くショックを受けるかもしれません。

 ピカチュウの言葉が通じるのは、新しい相棒のティムだけで、他の人には「ピカピカ~」としか聞こえません。かわいいピカチュウのままです。この愛され系のペットキャラが、実は下世話なおっさんだったというアイデアは、オダギリジョーが脚本・監督・出演した人気コメディドラマ『オリバーな犬、(Gosh!)このヤロウ』(NHK総合)にしれっと流用されています。

西島秀俊がアフレコした「ピカピカ~」

 日本語版の吹き替えを担当しているのは、ティムが声優初挑戦の竹内涼真で、ピカチュウが西島秀俊です。西島秀俊は1971年生まれなのでどっぷりおじさん世代ですが、ここまでおしゃべりなキャラを演じるのは珍しいでしょう。過去の声優としての出演は、宮崎駿監督の『風立ちぬ』(13年)とディズニーアニメの実写化映画『ダンボ』(19年)など数作です。

 西島自身は「人形浄瑠璃の人形みたいな役者になるのが理想」とかつて語っていたので、今回のようなおしゃべりなピカチュウを演じるのもありなんだと思います。普段の役づくりと同じように、全力でピカチュウを演じたそうです。

 前回の放送(2022年5月)では、西島秀俊の「やめろ僕かわいいのに……ピカピカ~」という台詞がSNS上で大いに盛り上がりました。

西島ファンの方は、ぜひ悶絶してください。

 軽い気持ちで見始めた『名探偵ピカチュウ』ですが、ハリウッドらしく3Dアニメの技術はけっこう進んでいます。また、主人公は失われたものを探し求め、その過程で別の大切なものを回復するというミステリー仕立ての作劇が米国映画は伝統的に息づいている感があります。

 一見すると人間とポケットモンスターたちが仲良く共存する理想社会のように思えるライムシティですが、ティムの父親はヤバい事件に巻き込まれたらしく、事件の裏には巨大組織の陰謀が隠されていることが分かります。最初はおっさんピカチュウのことを煙たく思っていたティムですが、謎を追っていくうちにピカチュウとの間にバディ(相棒)感が生まれます。さらに、一連の事件の元凶は、親子間の葛藤であることも浮かび上がります。

 最終的にティムが知ることになる、父・ハリーの行方も含め、日本発のゲームキャラクターたちを使って、うまく米国ならではの探偵映画になっているんじゃないでしょうか。原作のよさをまるで活かせなかったハリウッド実写版『DRAGONBALL EVOLUTION』(09年)に比べると、10年の間に日本と米国、双方の文化理解もそれなりに進んだことを感じさせます。

『ポケモン』にまつわる都市伝説

 それにしても、米国人は本当にポケモンが大好きです。TVアニメ『ポケットモンスター』の初めての劇場版『ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』(1998年)は4カ月遅れで米国でも公開され、全米興収8574万ドルの大ヒットを記録しています。アカデミー賞長編アニメ賞を受賞した宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』(2023年)や山崎貴監督の特撮映画『ゴジラ-1.0』(2023年)を大きく上回る興収結果を全米で残しています。

 世界中で大人気の『ポケットモンスター』だけに、いろんな都市伝説も生まれています。

そのひとつは、人気ゲームアプリ『ポケモン GO』に関するもの。米国のスタートアップ企業・ナイアンティック社が、株式会社ポケモンと共同開発した位置情報ゲームアプリとして大ブームとなりましたが、実は米国の諜報機関であるCIAに利用されているという噂です。

 米国のグーグル社の傘下にあるナイアンティック社を創業したのは、IT業界で伝説的存在となっているジョン・ハンケCEO。米国務省の出身で、のちにグーグル社に買収されるキーホール社の共同設立者でもあり、このキーホール社がCIAと繋がりの深い投資会社から資金提供を受けていたため、そんな噂が流れたようです。

 グーグルアースを使えば、地球上のさまざまな情報を簡単に入手することが可能です。『ポケモン GO』のおかげで引きこもり生活から脱出することができたなどの称賛の声が上がる一方、『ポケモン GO』を楽しむユーザーたちの位置情報やスマホカメラのデータが、別の目的に利用される危険性もあるわけです。

 2019年に出版された新書『週刊誌記者が追いかけた「本当かもしれない都市伝説」』(双葉社)では、「ポケモンGOではロシア大使館周辺をモンスター出現ポイントに設定するなどして、ユーザーに“スパイ活動”の一端を担わせている」という安全保障の専門家のコメントを紹介しています。

 同書は「ナチスの秘密基地が南極にある」「吸血UMAのチュパカブラは生物兵器として開発された」などの定番の都市伝説がほとんどですが、ナイアンティック社ネタと1985年に墜落した日航機には「ウインドウズ」を上回る高性能の日本版OSを開発中だったスタッフ17人が含まれていたというIT系のネタは、妙なリアリティーを感じさせます。

 信じるか信じないかは、あなた次第です。

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