フジテレビ

 毎年フレッシュな才能が民放各局の新人アナウンサーとしてデビューするなか、2024年度入社組でひと際異彩を放つのが、フジテレビの上垣皓太朗アナ(23)だ。新人に似つかわしくないほど抜群の落ち着きを感じさせる風格に、視聴者からは〈懐かしい安定感〉といった声も上がる。

柔和な顔立ちでベテラン感が漂う上垣アナは、“地形図を見ながらの街歩き”や“俳句”が趣味で昭和歌謡が好きだという渋いキャラクターでも注目を集め、7月からは『めざましどようび』のお天気キャスターに就任。さらに10月から始まった新番組『キャラビズジャーナル』では単独MCに抜擢されるなど、すでに新人としては異例の大活躍を見せている。

 そんな上垣アナはネット上でも〈人柄が良さそうなのが滲み出ているし、知的なところも素敵〉〈落ち着いて話す声色も安定していて聞いてて気持ちがいい〉などと絶賛。『めざまし』の名物男性アナウンサーといえば軽部真一アナ(62)や三宅正治アナ(61)がおり、安心感と安定感で支持を得てきたが、上垣アナは世代を超え、一気に彼らの系譜を継ぎそうな雰囲気だ。

TBS『ジョンソン』の失敗で見えたもの

 近年の地上派は、世帯視聴率以上に、年齢や性別ごとに算出した個人視聴率にこだわってきた。特に購買意欲が高い13歳から49歳までを「コア視聴率」とし、なかでも10代~20代の若年層をターゲットとした番組づくりに躍起になるなかで、視聴者に“懐かしさ”を感じさせる上垣アナの登用には、民放が中高年の視聴者をもう一度振り向かせようとする意図が見え隠れする――と指摘するのは、ある制作会社スタッフだ。

「コア視聴率獲得を狙った番組が成功しているかといえば、微妙です。フジ『新しいカギ』のように中高生から支持される番組もありますが、いまなお地上波のメイン視聴者層は50代以上。若者向けを意識しすぎるあまりに50代以上の層を蔑ろにしていると、地上波の終えんを早めてしまう可能性すらある。それに気づいた局側では、中高年以上の視聴者を意識した番組が目立ち始めているのは事実です」

 たとえば今年1月期のTBSドラマ『不適切にもほどがある!』は、昭和の時代から令和の時代にタイムスリップした男性が主人公のドラマ。昭和を懐かしむ中高年以上の視聴者の心を掴んだことがヒットの一因になった。

 TBSでは、ダウンタウンらが出演していた伝説的バラエティー番組『リンカーン』の後継番組として、2023年10月に『ジョンソン』をスタート。かまいたち見取り図、ニューヨーク、モグライダーという脂の乗ったアラフォー芸人たちをレギュラーに揃えたものの、視聴率はふるわず1年で終了に追い込まれた。

後番組として今年10月に始まるのは、中居正広(52)、東野幸治(57)、ヒロミ(59)がレギュラーを務める『THE MC3』だ。令和の人気芸人から50代以上の3人へとバトンが渡されるのは、まさに往年への回帰に見える。

 地上波テレビが中高年以上の視聴者を再認識する背景として、日本テレビで42年間プロデューサーを務めた尼崎昇氏は「広告(CM)収入」の存在を挙げる。

「CMには番組を買ってくれる『スポンサード(タイム)』と、番組と番組の間や提供がつかないゾーンに入れる『スポット』の2種があり、割合は両者半々ぐらいです。『スポンサード(タイム)』は一度売ってしまえば2クール(半年)安心できます。出稿の多いビールなどは季節モノなので『スポット』が多いです」(尼崎氏、以下「 」内同)

若者向け番組に営業が悲鳴「スポンサーがつかない」

 民放が番組制作をするためには、どうしてもCM収入が必要だ。当然その金額は、多ければ多いほどいい。尼崎氏が、民放ゆえの葛藤を明かす。

「日本テレビを例にとると、年始に(49歳までの)コア視聴率が第一だと大号令をかけたのに、年度内にあっさり方針転換。M1・F1(20~34歳男女)、M2・F2(35~49歳男女) に続く50歳以上65歳未満ぐらいの、まだまだ働いて元気な“アクティブ3層”に向けた視聴率も重視せよということになりました。

というのも、結局巨額の広告料を払ってくれるのは、トヨタや日産のような、そこそこの地位や年収がある中高年をメイン購買層とする企業だからです。購買層に合わない番組には広告料を払ってもらえません。

かといってコア視聴率も狙い通りにとれない。そうなるとスポンサー獲得が優先され、中高年回帰になるのは仕方のない流れです」

 そもそも民放が若年層に番組を見てもらおうとアピールし始めたのは、15年ほど前に遡るという。

「それまで視聴率といえば『世帯視聴率』のことでした。ただこれからは個人視聴率重視の時代だということで、2020年3月30日にビデオリサーチ社が『新視聴率調査』をスタート。そうした動きを早くから察知していた局では、スポンサー獲得を目的として、若年層を見据えた番組づくりに発破がかけられました」

 しかし、そうこうするうちにスマホ及び動画配信サービスが普及。若者がテレビ離れをするうえに、番組を見るとしても「CMが鬱陶しいので、リアルタイムでは見ない」という人も増加した。若者向けの番組づくりをした結果、スポンサー獲得どころかスポンサー離れを招く事態に慌てた営業が悲鳴を上げ、テレビの視聴習慣がまだある中高年を大事にしよう――というのが、「今」の民放のリアルなのだ。

編集部おすすめ