NHK

 旧ジャニーズ事務所の創業者・故ジャニー喜多川氏の性加害が何故、長年にわたって繰り返されてきたのかを検証するNHKスペシャル『ジャニー喜多川 “アイドル帝国”の実像』が10月20日にNHK総合で放送されて大きな反響を呼んでいる。

 故ジャニー氏やその姉の藤島メリー泰子氏のルーツや人となり、業界での歩みを深く知る人たちに1年以上かけて取材を敢行。

性加害を隠蔽するためのメリー氏による“メディア操作”の実態をマスコミ関係者、元テレビ局社員、旧ジャニーズ事務所の元社員などのコメントを通じて浮き彫りにし、性加害の被害者やその家族へのインタビューなども放送した。

 民放キー局の報道部記者は語る。

「ジャニー氏、メリー氏の出生地である米・ロサンゼルスで2人の友人に取材するなど、世界規模の取材ネットワークを持つNHKの力作だった。しかし、業界内で注目されていたのは、NHKが旧ジャニーズ事務所との過去の関わりについてどこまで報道するかだったので、正直、その点に関してはガッカリでした」

 NHKといえば、長年にわたって『NHK紅白歌合戦』や大河ドラマなどで旧ジャニーズタレントを重用。25年近くにわたりジャニーズJr.(当時)をメインに据えた『ザ少年倶楽部』を放送するなど蜜月関係を続けて来た。

 だが、今回の『ジャニー喜多川 “アイドル帝国”の実像』で、自局と旧ジャニーズ事務所との関係に触れ出したのは、放送時間も残り15分ほどに迫ったあたりからだった。

 番組では1999年に「週刊文春」(文藝春秋)でジャニー氏の性加害問題を追及するキャンペーンがスタートしたものの、NHKも他のメディア同様にスルーしたことを報告。

 2000年から『ザ少年倶楽部』がスタートし、大河ドラマは04年放送の『新選組!』に当時SMAPのメンバー・香取慎吾、05年放送の『義経』に当時、タッキー&翼の滝沢秀明氏を主演で起用したことを回顧した。また、紅白では1997年から2008年までジャニーズ勢が2組だったが、15年には過去最高の7組が出演するなど、旧ジャニーズ勢を重用してきたことを説明した後、こうナレーションが入った。

《こうした背景には何があったのか? NHKの職員やOBたち40人を取材。問題意識の低さや、タレントの起用についての証言はあったが、背景を明確に語れる人はいなかった》

 もっともその一方で、番組内ではある一人の人物に焦点が当てられた。

 それは、元NHKの職員の若泉久朗氏だ。

 若泉氏は15年から17年にNHKの制作局長、20年から22年に理事を歴任。その後、旧ジャニーズ、現在は旧ジャニーズからマネジメント業務を引き継いだSTARTO ENTERTAINMENTで顧問を務めている。

 番組では、かつてNHKの経営の中枢にいて、旧ジャニーズ事務所との関係が深い人物としてNHKの職員やOBたちから若泉氏の名前が挙がったことを報告し、1年前から若泉氏に取材を申し込むも直接話を聞くことができなかったと説明した上で、9月上旬に番組スタッフが若泉氏を直撃するVTRを放送。

 若泉氏は直撃取材に対し、「なんで僕なんですか? しかも仲間じゃないですか」と困惑し、番組スタッフが「だったら、おわかりいただけるんじゃないかなと。当然、検証する義務がある。そこに所属していた、その時のことをご存じの方に(話を)していただかないと」と食い下がるも話は聞けず…。

 結局若泉氏は、STARTO社を通じて、《幅広い世代層を獲得するために、旧ジャニーズ事務所は重要なパートナーの一つで、NHKが支持される重要な役割を担ってもらいました》などとコメントした。

「確かに、旧ジャニーズ事務所に“天下り”した若泉氏なら、当時のNHKと同事務所との深い繋がりを熟知しているのは間違いないでしょう。若泉氏が口にした『仲間じゃないですか』という発言に違和感を抱いた視聴者も多かったのではないでしょうか。とはいえ、今回の番組を見ていると、NHKが関わった旧ジャニーズ事務所の“闇”の部分については若泉氏一人に泥を被せようとしていると見る向きもあり、きちんとした検証ができているかというとはなはだ疑問ですよね」(前出の民放キー局の報道部記者)

 実際、番組放送後、インターネット上でもさまざまな意見が飛び交っているが、芸能ジャーナリストの竹下光氏もこう話す。

「NHKに関してはメディアとしての責任を果たせなかったことに加えて、『ザ少年倶楽部』の楽屋だった西館7階のリハーサル室などがジャニー氏による性加害の現場になっていたことなど、根深い問題も抱えているわけですからね。難しい部分もあるとは思いますが、それでも一人の元職員だけでなく、現役、OBも含めてより多くの関係者の証言を集めてほしかった」

 また、同番組が放送されたタイミングも気になるところという。

「NHKは大みそかに紅白を控えた今月16日、STARTO社の所属タレントの番組起用の再開を発表したばかりですからね。番組の最後には“NNKのコメント”として、そのことに言及したうえで、『この問題はこれで終わったと考えていません。NHKも当時の認識や対応が十分ではなくメディアの責任を果たせなかったと自省しています』や『新しい事実が出て来た場合の検証は報道・番組を通じて行い公共放送としての役割を果たしていきたい』と表明していました。一部では、番組の制作、放送に漕ぎ着けた報道部の気概を称賛する声がある一方、『この番組の放送を持ってひと段落とし、後はうやむやにするのではないか』といった厳しい見方があるのも事実です」(竹下氏)

 果たして、NHKが再びジャニー氏、旧ジャニーズ事務所の暗部に焦点を当てた番組を放送する日は来るのだろうか。

 同番組の平均世帯視聴率は7.6%(ビデオリサーチ、関東地区、以下同)で、放送された日曜午後9時のNHKスペシャルの枠では高い数字を記録。

 くしくも元SMAPのメンバーでジャニーズを退所した中居正広がMCの裏番組、フジテレビ系『だれかtoなかい』の5.1%を大きく上回ることになってしまった。

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