のことを学ぶ授業が存在するらしい」
「授業中に嵐のPVを見るらしい」

 そんなウワサがネット上を駆け巡ったのは、4月のこと。実際に受講している学生のツイートを発端に、その講義が明治大学・和泉キャンパスで行われている、関修先生が担当する「自由講座」ということが判明した。

毎回講義後には、学生から断片的な講義内容の情報がネット上に拡散され、嵐ファンからは「嵐の授業、受けてみたい!」という声が多数上がっていた。そこでサイゾーウーマンは、ウワサの“嵐の授業”に潜入。今、注目を集める、その授業の内容とは?

 「自由講座」が行われる教室は、に300人は入るであろう大教室。“嵐の授業”だけに、圧倒的に女性が多いかと思いきや、男女比は半々ほど。授業のシラバスには「嵐ブレークの理由などを探る」とあるが、この回では、嵐のアイドルとしての“ターニングポイント”について考察が行われた。

「このPVは、現在の嵐を表している重要なPVで、授業でも今後何度も見ることになります」。

関先生の一声と共に、教室の前面中央に設置された巨大スクリーンに映し出されたのは、2008年「truth」のPV。「嵐は、この年に初のゴールデンの冠番組『ひみつの嵐ちゃん!』(TBS系)をスタートさせ、初の国立競技場公演を果たし、二度目のアジアツアーも成功させた。嵐が一般に広く認知されるようになった年なんです。それが、PVの作りにも表れています。嵐はこの『truth』以前/以降で分けることができると言えるでしょう」と解説が入る。

 関先生は、ジャニーズ事務所所属グループの中でも遅咲きだった嵐が、「truth」で国民的アイドルの地位を固めたということを繰り返し指摘。

また、「truth」以前の「Happiness」(07年)のPVは、まるで少年たちが夏休みを楽しんでいるかのような、いわゆる“ジャニーズっぽい”内容だが、「truth」以降の「Believe」(09年)のPVは、ダンスシーンが中心のスタイリッシュな仕上がりになっていると、解説を加えていく。学生は、このようにPVを見比べながら、嵐というアイドルがいかにブレークしていったのかの変遷をたどっていくのだ。

 さらに授業では、関先生が「私物です!」というVHS録画のドラマ『山田太郎ものがたり』(TBS系、07年)も流れ、最後は「大野(智)くんは、ほかのジャニーズにはない独特なリーダーの在り方なんです。それは、次回説明していきます」と、授業を締めくくった。

 終了後に受講生に講義の感想を聞いてみたところ、「この講義があることは、大学に入ってから知りました。ニノファンです(笑)。

授業でPVを見られることはもちろんテンションが上がりますが、ニノの演技についての考察は聞いていて楽しいし、発見も多いです」「私はHey!Say!JUMPファンです。ジャニーズと文化を絡めた講義が聞けるのは楽しいです。次世代のアイドルはどういうスタイルがくるのかも聞いてみたいです!」と満足度の高い意見が返ってきた。

 学生からの支持も高い“嵐の授業”。講義を終えたばかりの関先生に、あらためて取材を敢行。ネットの反響について、授業の真の狙い、さらには関先生自身が嵐ファンか否かなど、“嵐の授業”の気になるところをお聞きした。

――“嵐の授業”、ネットでものすごい反響ですね。

関修先生(以下、関):まさか講義自体がこんなに話題になるなんて。これまでもSMAPなどのタレントを題材にした授業は行っていましたが、Twitterが普及したせいか、昔では考えられないスピードと範囲で話が広がったようですね。

――想像以上に男子学生が多い印象ですが。

関:この「自由講座」は、法学部の学生限定の授業。明治大学の法学部は、女子より男子が多いため、必然的にこの講義の男子率も高くなります。

昔に比べれば男子諸君も、嵐というか、男性アイドルへのアレルギーも薄いようですし、皆さん真面目に講義を受けてくれていますね。全体では定員300名の講義で、抽選制で選ばれた学生が受講しています。

――“嵐の授業”の内容と狙いを教えてください。

関:嵐が、「時代は嵐」と言われるまでのトップアイドルグループへと成長していく遍歴を、デビュー時からのPVを順番に見ながら追っていくという内容です。講義数の都合上、全てのPVを考察するのは難しいですが……。

 なぜ嵐を題材にしたかについてですが、僕は元から、芸能人に限らず“身近なもの”を学問に取り入れようと考えていました。

あらゆる物事について「なぜだろう?」と考えることが学問の第一歩ですからね。例えば僕の場合、嵐の相葉くんファンなんですが、自分がなぜ相葉くんが好きなのかを説明することになった場合、ただ「好き」というだけでなく順序立てて「なぜ好きなのか」を説明する必要がありますよね。物事の起源について調べて、道筋を立てて考察する。学生の皆さんには、この講義を通して、こうした学問的な考え方を身につけてほしいと思っています。

――関先生は相葉くんファンなんですね! では、なぜ相葉くんが好きなのでしょうか?

関:メンバーの中で一番独特な「語り口」を彼がするからです。大学で講義をしたり、物を書いたりするなど、「言語」に携わる仕事をし、さらに精神分析をやっている僕にとっては、相葉くんの「次に何を語りだすかわからない」という部分に惹かれてしまいます。彼は「予測不可能性」の魅力を持ち合わせているわけです。また、嵐のメンバーは、そんな相葉くんのことを理解しながら、彼に話を振り、それをイジる。お互いの個性を理解し合い、それぞれの役割を果たしているという点は、嵐の大きな魅力ですよね。

――今回の講義では、「truth」以前/以降についての考察がなされていましたが、そのターニングポイントが嵐のブレークにどう関与したのかを、もう少し詳しく教えてください。

関:「truth」より前の嵐というのは、講義中も述べた通り、「ジャニーズっぽい」グループでした。「ジャニーズっぽい」とは、つまりジャニーズ独特の“少年性”を持っているという意味です。「Happiness」のPVなんかは、その少年性スタンスの極みのような作品でした。しかし「truth」のPVでは、そういった要素がなくなってしまい、嵐は終わりを迎えたとも言えますが、この「truth」によって彼らは大ブレークを遂げた。僕はそれが面白いと思うんです。

「少年性」って、つまりは「男性性」であって、その魅力は若い女性を中心にしか伝わらない。けれど「truth」で少年性を排除し、「脱・性化」したことで、老若男女に愛されるグループになったんです。ジャニーズファンには、「もう嵐はジャニーズではない」という判断をする方もいますが、それもよくわかります。ただ、今でも嵐は、デビュー当時の魅力も持ち合わせていると思いますけどね。

――最後に、今後の講義の展望を教えてください。

関:嵐は、ジャニーズ独特の“少年性”でブレークしたわけでなく、各メンバーがそれぞれドラマで主演を張れるようになってから開花したという本当に独特なグループ。この不思議な魅力について、今後もさまざまな角度から考察していきたいと思っています。

 取材中、「昔、TOKIOのファンクラブに入ってました」と明かし、古くからのジャニーズファンとしての一面も見せてくれた関先生は、6月11日に『隣の嵐くん―カリスマなき時代の偶像』(サイゾー)を刊行予定。同書は、講義用のテキストを念頭に置いて書き下ろされたというもので、嵐ファン必携の1冊。「どうしても受講したい!」というアナタは、ぜひ先生の本を手に取ってみては?

関修(せき・おさむ
明治大学法学部非常勤講師。専門は、フランス現代思想、文化論(主にセクシュアリティ、精神分析理論、ポピュラーカルチャースタディ)。1994年より同大学で非常勤講師を務め、現代思想を通して「美男(=イケメン)」カルチャーの意義を考える「美男論」などの授業を担当。著書に『美男論序説』(夏目書房)などがある。