寡黙な佇まいが「男の無神経な鈍感さ」を表した、『問題のあるレストラン』の東出昌大

寡黙な佇まいが「男の無神経な鈍感さ」を表した、『問題のあるレストラン』の東出昌大
       

 『問題のあるレストラン』(フジテレビ系)が最終回を迎えた。男社会の女性差別を描いた本作は、賛否の激しい文字通りの問題作だった。しかし、何よりも感心したのは、これだけ重いテーマを描きながらも“テレビドラマとして”面白かったことだ。

 大手飲食サービス会社「ライクダイニングサービス」に転職した田中たま子(真木よう子)は、レストラン「シンフォニック表参道」の立ち上げに参加していた。ある日、たま子は、同社で働いていた親友の藤村五月(菊池亜希子)と再会する。ビストロシェフだった五月の父のレシピを使わせてほしいと相談したたま子は、五月が会社の会議室で、社長の雨木太郎(杉本哲太)たち幹部社員の前で、全裸で謝罪させられたことを知る。怒ったたま子は、幹部社員たちにバケツに入った氷水を浴びせて回り、会社をクビになる。

 たま子は「シンフォニック表参道」の目の前にあるビルの屋上に、五月から託されたレシピの料理を出すレストラン「ビストロ フー」を開店。店には差別に苦しむ仲間たちが集まり、料理の力で「シンフォニック表参道」に戦いを挑むことになる。

 脚本は、『東京ラブストーリー』や『最高の離婚』(ともにフジテレビ系)の坂元裕二。坂元が得意とする軽妙な会話劇や、長台詞の見応えはもちろんのこと、役者の「文脈」をこれだけうまく利用したドラマは、ほかにはなかっただろう。それが最も表れているのが「ライクダイニングサービス」の人物配置だ。

 モラハラ、セクハラが当たり前の雨木社長を演じるのは杉本哲太。事業部部長の土田を演じるのは吹越満。2人は『あまちゃん』(NHK)で先輩後輩の関係を演じ、杉本哲太が演じたローカル線の駅長・大向大吉は、時代に取り残された昭和の男だった。また、「シンフォニック表参道」のシェフで、たま子の元恋人の門司誠人(東出昌大)、シェフ見習いの星野大智(菅田将暉)、女性社員の川奈藍里(高畑充希)は『ごちそうさん』(NHK)で家族として共演。つまり、近年の朝ドラに出演した俳優が勢ぞろいしているのだ。

 さらに第7話のラストには、『純と愛』(NHK)に出演した風間俊介まで登場する。風間は、後にセクハラ訴訟を戦う五月を支える優しい青年を演じた。しかし、坂元脚本のドラマ『それでも、生きてゆく』(フジテレビ系)で子どもの時に幼女を殺した殺人犯の役を演じていたこともあってか、何か裏があるのではないか、と心配になったものだ。これは、風間のイメージを利用したうまいミスリードだったのだが、こういった配役と本人の文脈のズレ自体が、ドラマのうまい引きとなっていた。

 女性たちの印象が強い本作だが、7話以降は、男性陣を掘り下げるようになっていく。中でも、裏主人公的存在と言えるのが、東出昌大が演じる門司誠人だ。

■東出が朝ドラから引き継いだ「文脈」

 『ごちそうさん』でヒロインの夫・西門悠太郎を演じた東出は、長身で剣道を習っていたこともあってか、高倉健のように、黙って立っているだけで絵になる俳優だ。それだけに、戦前を舞台に寡黙な職人的存在を演じるとよく似合う。しかし、その古き良き寡黙さは、本作では、男の中にある無神経な鈍感さに転換されている。

 門司は料理に賭けるプロ意識は強いが、会社で起きているセクハラ等の問題に対しては徹底して無関心だ。しかし、たま子と関わることで少しずつ変化していく。門司の心情は言葉ではあまり説明されないが、たま子と話している時や料理をしている時の微妙な表情の変化によって表現されていく。

 ある日、門司は、小学校の時にすぐに人を殴る“あっくん”という友達がいたことを思い出す。あっくんは親に虐待されていた。もしかしたら、雨木社長もあっくんと同じように誰かに虐待を受けてきたのではないか、とたま子に話す。その後、ケータリングの仕事で「ライクダイニングサービス」を訪れた門司は、たま子と雨木社長が対峙する場面に居合わせることになる。

 場所は会議室。五月が全裸で謝罪させられた場所だ。たま子は静かな怒りを込めて雨木社長を諭し、ついに謝罪の言葉を勝ち取る。2人のやりとりを見た門司は、初めて五月が体験した痛みを心から理解して涙を流す。門司の中に共感の心が生まれたのだ。

 しかしその後、門司は、雨木社長の謝罪が嘘だったことを知り愕然とする。そして、怒りのあまり雨木のことを殴ってしまう。ここで思い出すのは、『あまちゃん』で杉本哲太が演じた大吉の若い頃を演じたのが、東出だったということだ。門司は、あっくんと雨木社長を重ねていたが、キャスティングから言うと、門司にとって雨木社長は、もう1人の自分だと言える。

 だからこそ、門司だけが雨木社長の心情を理解できたかもしれなかった。しかし、その可能性は雨木社長本人によって踏みにじられてしまう。この場面が哀しいのは、門司が自分自身を殴っているように見えるからだろう。役者の文脈を用いて「断絶」を描いた名シーンである。
(成馬零一)

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