“アメリカの思春期”はなぜ魅力的? 学園映画、『glee』、YA小説から解く青春の「呪い」

“アメリカの思春期”はなぜ魅力的? 学園映画、『glee』、YA小説から解く青春の「呪い」

 “スクールカースト”という言葉が市民権を得て久しいが、いくつになっても思春期の頃に埋め込まれた自意識を引きずっている人は多い。人々が青春モノや学校といったコンテンツに惹かれるのは、そうした若さゆえのもがきや葛藤に誰しもが共感するからだろう。

 先日、アメリカのティーンムービーを追い続けているライター&コラムニストの長谷川町蔵氏と山崎まどか氏による9年ぶりの共著『ヤング・アダルトUSA』(DU BOOKS)が出版された。「アメリカの思春期」を海外ドラマ、ラブコメ、学園映画、小説の登場人物のキャラクターやモチーフ分析で紐解いており、スクールカーストとモテ・非モテ問題から、大人気テレビドラマ「glee」の振り返り、テレビ局ごとの学園ドラマの歴史、ヒット曲を生み出すアイドルやプロデューサーの解説、リアリティ・ショーやネット文化という現代アメリカにおけるティーンの消費動向、妄想アメリカ大学案内といった、アメリカの土地に負けんばかりの広大な領域を10章にもわたって2人がしゃべりまくっている本である。本書の刊行を記念して7月31日、SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERSにて刊行記念トークイベント長谷川町蔵×山崎まどか「いま、アメリカ・ユースカルチャーが気になるワケ。」が開催された。

 両氏は2006年に、同じく対談した共著『ハイスクールU.S.A. ─アメリカ学園映画のすべて』(国書刊行会)を刊行した。こちらは150本もの映画を材料に、アメリカのスクールカーストや、登竜門的に若手監督や脚本家が腕試しをしてきた歴史などを考察し、「アメリカ学園映画」の成立条件とパターン分析を行った。本書は、その続編的な位置づけになるものの、学園映画という枠組みも取り払うことで異なるテーマを扱い、対談形式ではあるが「余談」ではない濃密さを持っている。トークイベントでは、全作との違いや本書の各章ごとの解説がメインに進められた。

 イベント冒頭では、まず長谷川氏が本書について「前回は『こんなに良い映画があるよ』という話がメインだったが、今回は作品を見ていない人も楽しめる内容。このコンテンツがウケているのは、『アメリカ社会がこうだから』という見方をしているから」と話し、山崎氏も「作品そのものを語るのではなく作品から見えてくる1つの傾向について語った」と総括した。

◎学園映画で確立した「アメリカの青春」という呪い
 まずは第1章で語られたのは、「この人なくしては語れない」と2人が口をそろえ、山崎氏も「今、私たちが知っている“アメリカの若者の考え”や“青春の原型”は80年代に彼が作った」と言う映画監督/脚本家のジョン・ヒューズについて。『すてきな片想い』(1984年)や『フェリスはある朝突然に』(86年)などで、アメリカの思春期を概念から作った彼だが2009年にジョギング中に心不全で亡くなったため、本書ではその生涯を考察している。ジョンの訃報を聞き、2人は亡くなった場所であるマンハッタンのミッドタウンに出向いたのだという。そして死の直前に彼が撮影した写真がデジカメに残されているという情報をもとに、同じように写真を撮影、そして2人から天国のジョンに手向けるようにその写真は本書にも掲載されている。しかし一方でその大きすぎる功績は、「彼の作品以降、全ての学園映画が“ジョン・ヒューズ的か”“ジョン・ヒューズ的ではないか”と語られ」(山崎氏)、「作品の世界観が現実のティーンにまで及んでいる」(長谷川氏)といったある種の「呪い」を持ってしまっているのだという。今後新しいものを作っていくために、ジョン・ヒューズをどう捉え直していくかに向かうべきだと、これからの学園映画の方向性を示した。

 また2人がその長いキャリアの中で行ってきた良い意味での“暴れっぷり”も自ら紹介。長谷川氏は「セレブ・ブーム特集だったのにね」と前置きしつつも、「INVITATION 2005年3月号」(ぴあ、09年休刊)でなぜか山崎氏が白人アイドル・ポップを、自身が黒人ヒップホップ・ソウルについて熱弁を奮ったことや、「『PLAYBOY』(集英社、08年休刊)なのにエロ目線を無視しました」(山崎氏)という、「PLAYBOY日本版2007年4月号」でのアメリカン・アイドル大真面目語りといった今までの数々の暴挙が面白おかしく語られた。本書の各章には企画の範囲をはみ出しながらも、2人が熱く考察してきたこれらの軌跡もしっかりと引き継がれており、その情報量の多さには2人の成してきた仕事量や熱量が感じられ、感服さえするはずだ。

◎ヤングアダルト小説が映す現在のアメリカ社会
 第5章に語られた『ハンガー・ゲーム』『トワイライト』『きっと、星のせいじゃない。』などに代表されるYA(ヤングアダルト)小説についても話が及ぶ。山崎氏が「現在のYAの読者層のかなりの数が子どもを持っていない30~40代の独身者なんですよ」と、その現状を言及すると、長谷川氏も「日本で言うところのアイドルの支持層と一緒ですよね」と分析。このYA小説から卒業できない大人たちこそが、いまのアメリカ社会を反映しているのだという。

 また話題は、「この章ではこの話をしないではいられなかった」と山崎氏が太鼓判を押した、「ざっくりわかるモルモン教」というまさかのモルモン教解説ページについて。アメリカにはユダヤ教と同じ程度のわずかなパーセンテージしかいない、実はYA小説の原作者にモルモン教徒がかなり多いのだという。そこに着眼した2人は、「モルモン教の歴史にも踏み込まざるを得なかったんですよね」と口をそろえる。こうした細かなリサーチやツッコミが本全体に厚みを持たせるだけでなく、読者の満足度を底上げする要因として大きいこともわかっているのだろう。

 本書はジョン・ヒューズ作品『ブレックファスト・クラブ』に登場する「大人になったら心が死ぬのよ」というセリフそのままに、アメリカという1つの国で捉えてはいるものの、なぜ私たちは青春や思春期という題材にいつまでも魅了され続けるのかを普遍的なものとして見つめている。世の中に飽和する大人になりきれない大人たちにこそ読んでもらいたい1冊だ。

 長谷川氏がイベントの最後に「とにかくノイズがたくさん入っているので、読んでいくとまさかのところで引っかかる面白さがあるはず」と念を押したように、2人が言及するトピックは果てしなく幅広い。「エル・ファニングのことを読みたかっただけなのに、気付いたらモルモン教の面白さにハマっているかもしれない」(山崎氏)し、今からアメリカで大学生活を送りたくなるかもしれない。止まらないおしゃべりからあふれ出る2人の血肉化された知識と情報でおなかいっぱいになって欲しい。
(石狩ジュンコ)

※画像は『ヤング・アダルトUSA』(DU BOOKS)

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