毎週の平均視聴率が23.0%(関東地区)を超えて、近年の朝ドラでは一番のヒット作となりつつある『あさが来た』(NHK)。本作は明治時代に活躍した女性実業家・広岡浅子の生涯をモデルとしたヒロイン・白岡あさ(波瑠)を主人公にした女の一代記だ。



 時代考証をしっかりと行いつつも、夫が妾をとるかどうかといった問題を史実とズラすことで、現代の視聴者が安心して見られるように作りこまれた、実に巧みな作品だ。中でも見どころとなっているのは、いい男たちが次々と登場するイケメンドラマとしての側面である。

 あさの夫の白岡新次郎(玉木宏)と、あさの姉・はつ(宮崎あおい)の夫・眉山惣兵衛(柄本佑)はもちろんのこと、何より大きく注目されたのは、五代友厚(ディーン・フジオカ)だろう。

 五代は、幼少期のあさと偶然出会って以降、あさに好意を持つようになり、彼女を応援するようになる。イギリスから帰国して大阪府権判事となった五代は、結婚して大人になったあさと再会。炭鉱業という新事業に挑戦するあさを、危険な海に最初に飛び込んでいく“ファーストペンギン”にたとえて五代は称賛する。その後も、あさの成長を見守りながら、大阪の発展に力を尽くしていく。しかし、志半ばで病に冒され、療養生活を送ることとなり、やがて命を落としてしまう。

 五代の死後、少しでも世の中をよくしようと、い人や知人にお金を貸し、五代が借金だらけだったことが明らかになる。そしてあさは、大阪の発展に尽くした五代が、自分の道を照らし導いてくれた人だったと気づく。

 夫がいるあさと五代の関係は、恋人とも夫婦とも違う不思議な関係だ。例えば、五代の親友である大久保利通(柏原収史)が暗殺された日に、あさは予定を取りやめ、傷心の五代を心配して一晩寄り添う。
もしも恋愛ドラマなら、ここで何かあるのかもしれないが、2人の間には何も起こらない。

 これを朝ドラらしい優等生的な描写と片付けることもできるが、それ以上に描きたかったのは、男女の関係を超えてお互いを尊敬する姿だったのだろう。あさにとって五代は、いつも自分の先にいる師匠のような人で、逆に、五代にとってのあさは(五代が作ろうとした)新しい時代の象徴ともいえる存在だった。長きにわたって「同じ理想に向かって生きてきた、恋人とは違う男」という、働く女性にとっての人間関係の理想系を体現していたのが、五代だったのだろう。

 献身的にあさを助ける五代の姿は、男の立場から見ると、若干都合がよすぎやしないかと思わないでもないが、はじめから浮世離れした変人として五代が描かれていたため、それほど気にはならなかった。優しい口調の薩摩弁も人のよさを際立たせており、現代ではなく明治時代が舞台であることも、五代のファンタジー性を支えていた。

◎『ダメな私に恋してください』ドSキャラににじみ出る父性
 五代を演じたディーン・フジオカは、高校卒業後、アメリカに留学し、卒業後はアジア各国を旅して香港でモデルデビュー。その後、役者としてアジアの映画やドラマで活躍するようになる。

 日本では2012年に、外国人女性を殺害した後、整形をして2年7カ月間逃げ回っていた市橋達也の姿を描いた『I am Ichihashi ~逮捕されるまで~』で、初監督と初主演を務めた。その後、『探偵の探偵』(フジテレビ系)で、日本のテレビドラマ初出演を果たし、『あさが来た』で大ブレイク。

 現在は火曜夜10時から放送されている『ダメな私に恋してください』(TBS系)に出演中で、主人公の柴田ミチコ(深田恭子)を支える元上司の黒沢歩を演じている。会社を辞めて喫茶店を始めた黒沢は、彼氏に騙されて借金まみれとなっていた元部下のミチコを見るに見かねてバイトとして雇う。
元ヤンキーのためか口調が荒く、厳しいことばかり言うので、ミチコからはドSと恐れられている。

 黒沢のようなドSのイケメンキャラは、『花より男子』(TBS系)のオラオラ系御曹司・道明寺司(松本潤)以降、定番化したものだろう。ドSの彼氏に振り回される女の子の物語は、大抵、ヒロインが母として振る舞うようになるが、それはDV夫の暴力を許容する妻との共依存の関係を連想させて、あまり好きになれない。

 だが、黒沢の厳しさには、30歳になっても子どもっぽさが抜けないミチコを自立させたいという思いが根底にあり、2人の関係は「父と娘」のようで、共依存とは真逆のものだ。黒沢がどれだけキツイことを言っていても、ミチコを思いやる優しさがあることが伝わってくる。

 実際のディーンは双子の父親で、家族はインドネシアで暮らしているという。演じる役柄と本人は必ずしもイコールではないが、黒沢から感じる父性は実生活で培われたものかもしれない。
(成馬零一)

※画像は『ダメな私に恋してください』(TBS系)公式サイトより

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