慶應幼稚舎、青山学院初等部、東洋英和女学院小学部、成城学園初等学校、お茶の水女子大学附属小学校、筑波大学附属小学校など、受験をしなければ入れない私立/国立小学校――高校や大学受験と違って一般的ではないため、小学校受験の世界を知る者はそれほど多くはないのが実情ではないだろうか。

 1994年放送のヒットドラマ『スウィート・ホーム』(TBS系)は、お受験を扱った作品で、山口智子布施博演じる夫婦が、愛息子の合格を勝ち取るために奮闘する姿が描かれた。

野際陽子演じる厳しい幼児教室の先生がインパクト大だったためか、“お受験=独特な世界”というイメージを持つ人も少なくないだろう。

 そんなお受験の世界では、合格を勝ち取るための準備として、幼児教室での“対策”が重要視される。試験では、ペーパーテスト、行動観察(ほかの受験生と一緒にグループ遊びなどをすることで、子どもの特性を見る試験)、絵画や運動の技能などを見られるため、それらの対策を講じるわけだが、実際の尽力は、“受験用の写真”にまで及ぶらしい。わが子の小学校受験を控える親の間では「合否に関わる重要なもの」とまでいわれているというお受験写真。一体どんな写真がふさわしいのか? お受験親子、そして撮影者側の思いとは? 今回、お受験塾や経験者から評判の写真館「フォトタカノスタジオ+」に話を聞いた。

撮影開始は願書配布より早い

――まず、お受験写真とはどのような写真ですか?

フォトタカノスタジオ+(以下、タカノ) 願書に貼って提出する写真です。

受験なさるお子様の個人写真のほか、受験校によってはご家族全員が揃った家族写真が必要なこともあります。

――私立小学校の願書配布は9月頃、受付は10月頃から始まるのが一般的と聞きましたが、撮影のピークはいつ頃ですか?

タカノ 一番件数が増えるのは、やはり願書配布直後の9~10月にかけてです。ただ、6~8月あたりに済まされる方も割といらっしゃいます。ゴールデンウィークあたりに、練習として一度撮影し、秋口に本番撮影というケースもあります。

――撮影の練習まで! 普通、願書をもらってから撮影するものだとばかり思っていました。

タカノ 早い時期に撮影する方は、“日焼け”を気にしてらっしゃるんです。
6~7月であれば日焼けをする前のキレイな肌色で撮影できますので。子どもの日焼けというのは、「活発な子」というプラスのイメージもありますが、お受験写真においては、日焼けで肌にムラができるからと避けたがる方が結構いらっしゃいます。特に女の子はそうです。

――そもそも願書をもらう前だと、学校側が指定するサイズなどがわからないと思うのですが、そのあたりは大丈夫なのでしょうか?

タカノ 願書配布より前に撮影されるご家庭は、お教室などで聞いた前年度の情報を基に撮影されることがほとんどです。お受験をされるご家庭は、写真に限らず、全てにおいて、早くから“事前リサーチ”をして準備を始めています。そのようなご家庭では、撮影は9月でも、予約だけは先に済まされているというケースも多いです。



――お受験写真は、合格につながることが重要だと思うのですが、どのような特徴があるのでしょうか?

タカノ 受験校によって多少の違いはありますが……お客様からは、“子どもらしさ”と“利発さ”両方の雰囲気を希望されることが多いです。なので、きりっとした表情と微笑んだ表情、どちらも撮影しています。逆に、“歯を見せて大きく笑う”といった写真はありません。受験校によって、どういった雰囲気の写真が適しているかというのがあるようで、それは幼児教室の先生に確認を……とお伝えしています。

 髪形は、おでこを出すことが多く、その理由は、表情が明るく見え、かつ自信のある印象にもなるからです。男の子なら横は耳にかからない程度、ロングヘアの女の子なら後ろで2つくくりや三つ編みにするパターンが多いです。
服装は、快活な印象を与えたければ半袖、落ち着いた雰囲気にしたいときは長袖を着るというふうに、使い分けているケースをよく見ます。

――5~6歳の子どもが、細かな表情を作るのは難しそうですね。

タカノ 撮影に入る前に、スタッフはまず、お子様へ挨拶し、軽く会話をして、場所やスタッフに慣れていただくようにしています。そうすることで自然な表情を引き出しやすくなるんです。また、「笑って!」などと指示をすると、不自然な表情になってしまうので、褒めたり、思わず微笑んでしまうような冗談を言ったりして、いい表情になった瞬間を収めます。ただ、適度な緊張感があると綺麗な表情になるので、“子ども相手だから”などと、あやすようなことはせず、子どもに目線を合わせることが大事なんです。


 とは言いつつ、やはり難しい面もあります(笑)。例えば、きりっとした感じを出したいときの表情は難しく感じます。真面目な顔だと、無表情や不機嫌そうに見えるので、口角を少し上げてもらうのですが、お子様によってはその塩梅に苦労することがあります。言葉で伝えるのが難しいときは、お母様に表情を作ってもらい、見本となっていただくことも。また、緊張のあまり泣き出してしまうお子様や、照れなどから、ふざけてしまうお子様も時々。それから、これは小学校受験というより、幼稚園受験の写真撮影で多いのですが、まず“じっと立っていること”ができないお子様もいるんです。
そのような心配がある場合は、事前にスタジオ見学に来ていただいたり、ご自宅で真っ直ぐにじっと立つ練習を勧めたりしています。



――写真撮影と一口に言っても、お受験写真では、子どもに求めるものの難易度が高いんですね。自分が5~6歳の頃を思い返すと「無理なんじゃないか」と思ってしまいます。

タカノ 写真には親子関係が表れるんです。特にお母様の影響が大きいのかなと感じています。例えばお子様がふざけてしまったときなどに、お母様のイライラが伝わるような叱り方をしてしまうと、その後もグズグズしてしまうことはあります。また、お母様が細かく言いすぎるご家庭だと、本当はできるのに、わざとやらないといった反抗心を見せるお子様もいらっしゃいます。

――お母さんも必死ですし、それはしょうがない面もありますよね。

タカノ はい、もちろんそういった場合でも、我々はいいお写真を撮れるように努めています。逆に、ご両親が常にお子様の見本となるような振る舞いをされているご家庭だと、撮影がスムーズに進みやすいです。お子様も素直で落ち着いているし、撮影のときも状況やこちらの説明をすぐに理解していただけます。通常は撮影から写真選びまで20~30分を想定しているのですが、半分ほどの時間で終了することも。しかも、撮影は5分ほどで、どれもいい写真ばかりなので、選ぶのに時間がかかってしまうといったこともあります。

――まさに名門校を受ける“スーパーキッズ”ですね。

タカノ そのようなお子様は挨拶から違います。「こんにちは」と入ってきて、帰りは「素敵なお写真を撮ってくださってありがとうございました。失礼します」と。もう、こちらが恐縮するくらい丁寧にお礼を言ってくださり、ドアの外で振り返って再度お辞儀をされたりするので、驚いてしまいます。ご両親が写真を選んでいる間も、折り紙や読書などをして、1人で静かに待っていらっしゃいますし。ちなみに、そういうお子様は、早い時期に撮影に来られるご家庭に多く、お受験に向けてしっかりご準備されている様子が伝わってきます。

(後編はこちら)

「フォトタカノスタジオ+」公式サイト