2005年に、元・光GENJIの木山将吾氏が上梓した『Smapへ―そして、すべてのジャニーズタレントへ―』(鹿砦社)によって、ジャニーズ事務所社長・ジャニー喜多川氏による、スターを夢見る少年たちへのホモセクハラ・性的虐待の数々が明かされた。
性的地獄にも耐えた”僕”が逃げた理由
『Smapへ―そして、すべてのジャニーズタレントへ―』(鹿砦社)これまでに、初代グループ「ジャニーズ」の中谷良、「フォーリーブス」の北公次、豊川誕、平本淳也ら各氏の著書によって同様の暴露が行われてきたが、木山氏のそれは、その内容と描写が、どのケースよりも生々しくリアルで、私怨の深さが伝わってくるものだった。
ジャニー氏のお気に入りとなって特別扱いを受ける代わりに、常にそばに置かれてキスをせがまれ、夜に待っているのは、執拗なフェラチオとアナル性交。そんな日々にも木山氏が耐えてきたのは、スターとして輝く日々のためだった。
しかし、光GENJIとしてポスター撮りも済ませ、いよいよデビューというときに、木山氏はジャニーズから姿を消す。好きでもない老人との地獄の性的関係に堪え続け、やっと夢がかなうというそのときに、なぜ彼はジャニーズを離れることになったのか。
同著には、その理由も克明に描かれている。
そこには、ジャニーズ事務所の異常性を語るうえで、ホモセクハラとともに囁かれていた、都市伝説ともいうべき、あの秘密が大きく関係していたようだ。
近年では、その限りではなくなってきているかもしれないが、その昔、ジャニーズタレントといえば、肌がキレイで中性的な顔立ちをした小柄な美少年が多かった。だからこそ、男くささを感じさせない美少年を指す言葉として、“ジャニーズ系”という言葉は一般化しているわけだ。
しかし、男性ならば誰でも、第二次性徴期を迎えると声変わりをして声が低くなり、ヒゲやすね毛が太く濃くなっていく。当然、背が伸びて筋肉もつき、骨格はゴツゴツとした男らしさを帯びてくる。
しかし、多くのジャニーズタレントは、二十歳を過ぎても中性的な魅力を失わない。その理由として、いつしか「ジャニーズ事務所のタレントは女性ホルモンを注射されているから」というウワサが囁かれるようになっていた。
このトンデモなウワサの真相が、木山氏の著書で明かされていたのだ。
光GENJIとしてのデビューが迫る中、木山氏の耳に「怖い話」が入ってきたという。
「ジャニーさんが注射打ってくるんだよね」
聞くと、デビューするには、ある注射を打たなければならないという。すでにこのときには僕以外の全員がジャニーさんにそれをされていたのだ。
「あれって何の注射?」
「ホルモン剤とかって本当?」
「なんでホルモン剤なんか打つんだよ」
僕らは周囲の人間に聞かれないように、ひそひそと話をしたが、やはり誰もその実態を知らないまま、ジャニーさんに強制的に打たれていたようだ。
そんな不気味なウワサに恐怖を感じるようになった木山氏に、光GENJIでともにデビューする予定だった、諸星和己が、こんなことを言ってきたという。
「次は木山くんだから。注射打たれる番」
すでに諸星はその恐怖の儀式を済ませていたという。
だが、木山氏には大いに心当たりがあったようだ。
実は、ジュニアたちとジャニーさんの書斎の引き出しをこっそり盗み見したときに、そこに怪しげな薬品とともに、いくつかの注射器があったのを見た。きっと、あれがそうなんだろうと思った。
ホモセクハラ(※)には耐え続け、なんとかデビューをつかみかけた木山だったが、最後に、まだ大きなハードルを超えなければならないという現実は、とても受け入れがたかったのだろう。
デビューへ向け、様々に準備が進められていた中である。当然、ジャニー氏からは、レッスンに来るようにと連絡があったというが、これに応じることがないうちに、もうお呼びはかからなくなり、結局、なんの連絡もないまま、光GENJIは木山氏を除いた7人でデビューしたという。
デビュー寸前までいきながら、夢を諦めざるを得なかった口惜しさが、本著の描写をより過激にさせたことは、想像に難くないのである。
このホルモン注射については、実は、元ジャニーズJr.の平本淳也氏が1986年に上梓した『ジャニーズのすべて』(鹿砦社)の中でも克明に記されていた。
ジャニーさんは少年に女性ホルモンを与えることによって、生理的、肉体的変化を求めていた。例をあげれば郷ひろみの声。男の子が思春期となっても声変わりのしないことは当時結構騒がれた。マッチのわき毛も十代後半まで生えて来ず不思議がられていた。トシちゃんは若い頃は体毛が薄かったのだが、二十代半ばを過ぎると胸毛が濃くなり、脛毛も多く全身毛だらけになってしまった。
この「ホルモン注射」の噂は昔からあったのだが、大きく取りざたされたのが光ゲンジの赤坂晃の成長過程が不自然だということからだった。
性的虐待だけでなく、合宿所では、こんな人体実験まがいのことが行われていたのか。
よくよく証言を見てみると、当人たちが体験したものではないだけに、これが事実であるかどうかは判定が難しいところだが、至近距離でジャニー氏と接し多くの時間をともにした2人がジャニーズ内で耳にしていた話であろうと考えると、まったくない話ではないのだろう。
本当ならば、医師でも看護師でもない者が、他人に注射を打つことなどできないはずであるという以外にも、さまざまな法的な問題を含む大問題であることは言うまでもない。
すでに、ジャニーズの経営実権は、ジャニー氏の実姉・メリー喜多川の娘である、藤島ジュリー景子に引き継がれようとしており、東京五輪を最後にジャニー氏は事務所の運営から身を引くともいわれている。昭和・平成の芸能史の闇として、真相は明かされぬまま――。
(渡邊孝浩)
※今日では差別意識を助長する表現ですが、「逆セクハラ」同様、「セクハラ」が男性から女性への“行為”と限定されていた当時の社会的状況を伝えるため、時事用語と捉え、1999年の「週刊文春」(文藝春秋)報道から引用しています。
<バックナンバーはこちらから>
・54年前、毒牙にかけられた「初代ジャニーズ」(第1回)
・16歳の「おれ」にジャニー喜多川が繰り返した性行為(第2回)
・13歳を誘い犯した、ジャニー喜多川のパワハラと“行為”(第3回)
・16歳の“僕”が「スター抜てき」と引き換えたもの(第4回)
・「行為」をしなければJr.で終わる(第5回)
・ジャニー喜多川氏の「泡風呂の儀式」「頬にキス」(第6回)
・昼は食事を与えられ、夜は精を吸われる(第7回)