羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます

<今回の有名人>
「恋愛は積極的になれない」浜口京子
行列のできる法律相談所』(日本テレビ系、11月11日)

 芸能人はイメージ商売であることは言うまでもないが、時と場合によっては、“キャラ変”ができるという自由を持つ。

しかし、そうはいかないのがオリンピックのメダリストではないだろうか。

 1992年、バルセロナオリンピックの平泳ぎで、金メダルを獲得した岩崎恭子の不倫疑惑を「フラッシュ」(光文社)が報じた。岩崎は不倫を認めブログで謝罪したが、さっそく仕事に影響が出ているようだ。「会の趣旨にそぐわない」ということで、講演会のキャンセルが決定したという。講演会は、拘束時間が短い割にギャラがよく、ネタの使い回しもできるので、著名人にとっていい収入源だろうから、この痛手は大きいはずだ。講演会のタイトルは「幸せはいつでも自分でつかむ」だったそう。
努力家で克己心が強く、メンタルも強いと思われているメダリストが、不倫という肉欲に走ることは、ふさわしくないと判断されたのだろう。

 メダリストは不倫さえしなければいいのか、というと、そうでもないように感じる。女優・深田恭子が“親友”であるリオデジャネイロオリンピック銀メダリスト・吉田沙保里の誕生日を祝ったことをインスタグラムで報告した。親友と言う割に、深田は昨年、吉田の誕生日を祝うのを忘れたそうだが(吉田は深田の誕生日を祝っている)、この投稿をきっかけに、吉田に対する「東京オリンピックに出るつもりがあるなら、練習しろ」という意見をネットで見かけるようになった。メダリストとは寸暇を惜しんで練習すべきであり、華やかな芸能人との交友はふさわしくないものだという認識があるのかもしれない。

 もしそうなら、世間が求めるメダリスト像とは、結果を出しつつ、浮ついた行動をしない人ということになるだろう。
となると、パーフェクトな存在がいる。レスリングの浜口京子である。父親は元プロレスラーのアニマル浜口。父の特訓を受けた娘がメダリストになるというのは、日本人の好む美談であるし、アニマルの「気合だ!」というパフォーマンスも、テレビ受けする。

 浜口はかつて『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)で、「彼氏がいたことがない」と告白していた。恋愛未経験の女性にアレコレ言うことは、バラエティーであってもセクハラだとして、視聴者に不快感を与える可能性がある。
しかし、浜口の場合、超人的な練習を重ねた結果メダルをつかんだことが知られているので、彼氏を作ることが物理的にほぼ不可能だからと解釈される。ゆえに共演者もいろいろ言いやすいし、視聴者も安心して見ていられるだろう。

 浜口自身も恋愛未経験でいじられることに、抵抗感がないのではないだろうか。

 「恋しているの?」という質問の答えは、「している」もしくは「していない」の2択であり、3秒もあれば答えられる質問だと私は思うが、浜口ははにかみながら、くねくねして答えを引っ張る。それを女優やタレントに「かわいい」と褒められる姿は、もはや定番である。

 11月11日放送の『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)に出演した浜口は、ここでも“恋愛にウブ”キャラで臨む。
おネエ軍団への相談として、「マットの上では積極的になれるけれど、恋愛では積極的になれない」と打ち明けるのだ。「出会い系サイトに登録しろ」とか「お酒を飲んで、スキを見せろ」という、どこかで聞いたことのある解答でオチがついたが、確かに浜口の恋愛は難しかろうと思うのだ。



 なぜかというと、親がブレーキをかけているように私には見えるから。

 『爆笑!いいね動画シアター』(フジテレビ系)で、浜口が父のアニマルにドッキリをしかけたことがある。浜口がアニマルに、俳優をしている男性を紹介し、結婚していいか承諾を求めるというドッキリだったのだが、アニマルは反対する。その理由が「浜口京子は、自分だけの娘ではない。
日本の浜口京子、世界の浜口京子なんだよ」「そんな簡単に京子を持っていかれちゃ困る」というものだ。

 メダリストである娘に、有名でもない俳優はふさわしくないと思ったのかもしれないが、どうも男女交際そのものに抵抗感があるように見えた。

 また『とんねるずのみなさんのおかげでした』(同)に“石橋温泉”というコーナーがあった。とんねるず・石橋貴明が女性芸能人と温泉に行き、悩み相談に乗るというものだが、ここに浜口が出演したことがある。

 例によってくねくねしながら、恋愛がうまくいかない話をしており、そこに「結婚に関してお父さんはこう言っている」といった具合に、親の意見をちょいちょい混ぜる。石橋は「年齢も年齢なんだから、自分の幸せ考えたら?」と正論で返すが、全然響いていない様子。
ここでアニマルと母親が登場し、娘に結婚してほしいと口では言うものの、発想が割りとぶっ飛んでいる。

 浜口が男性とデートをしていると、両親は「どこかで監禁されているのではないか」と心配になり、家のドアの前でまんじりともせず待っているそうだ。浜口は、両親の愛情エピソードだと理解しているようだが、常識的に考えて、そんな男性はほとんどいないだろう。結局、両親は浜口をいつも自分の目の届く場所に置いておきたのではないだろうか。浜口が恋愛結婚を希望している場合、デートぐらいで文句をつけられているようでは、なかなか先に進めないのではないか。

 日本のバラエティーでは、“結婚していない女性”は需要があるので、本心は別として、浜口が“恋愛未経験キャラ”で続けるのであれば、仕事が増える可能性はある。でも、もし浜口が本気で結婚したいなら、とりあえず自宅から100メートルの距離でいいから、鍵を渡さないかたちで一人暮らしをしてみることを勧める。ものすごい解放感に気づくかもしれない。

仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)『確実にモテる 世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。
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