人が生きていくうえで切り離して考えられない「性」。喜びと危険が隣り合わせのデリケートなテーマだけに、総じて教育による理性的なコントロールを身に着けることが望ましいと言われている。

しかし、日本の性教育はグローバルスタンダードから大幅に遅れているとの指摘が絶えない。

 そこで、性教育に自論を持つ「とにかく明るい性教育 パンツの教室協会」代表・のじま なみさんと、NPO法人「ぱぱとままになるまえに」代表・西出 博美さんの対談を実施。前編に続き、後編では家庭での性教育や未成年の妊娠について、それぞれの考察をお届けしたい。

(前編はこちら)

――やはり家族で性の話をするのは難しいのでしょうか、

のじまなみさん(以下、のじま) おそらく、子育ての一番の悩みは性に関する教育だと思います。食や運動、勉強にまつわる話は、家庭でも会話しやすく、ママ友にも悩み相談しやすいですし、ネットにも信頼できる情報がある程度充実しています。でも、人生を左右する性教育は、誰からも教え方を学ぶことができませんし、悩み相談もしづらいものです。


西出博美さん(以下、西出) 何をどこまでどう教えるかって本当に難しい問題ですよね。学校で「責任が取れるまでコンドームを着けてセックスしましょう」と教えられましたが、私は「いつコンドーム外せばいいの?」って思いました。教える側の強い意志・主張を学校教育で植え付けられた私たちが、今度社会へ出たときに「考えを変えるきっかけ」がなくて、大人になり、交際して結婚して、「あれ、どうしたらいい?」みたいなことになりかねないなと。それもあって、もっと普通に妊婦さんと出会って友達になり、話をする中で、ご夫婦や女性、妊婦さんの変化、赤ちゃんの成長を知っていくのがいいのではないかという思いがあり、そういったNPO活動をしているんです。子ども自身が考えて選択する自由が、性教育にあってもいいんじゃないかなと思っています。

――確かに子どもだからといって、一方的に教えるたり否定するだけではなく、意思を尊重することも大事ですよね。


のじま ただ、性被害に遭うリスクを回避するための知識は、たとえ一方的でもきちんと教えるべきだと思っています。私は年間4000人のお母さんに向けて講演していますが、ご自身が性被害に遭われている方が本当に多いんです。実の両親から、兄弟、近所のお兄ちゃん、こんなにも多いのかと驚きます。でも、誰一人、親に言えていないんです。親を傷つけてしまうのでは、親から嫌われてしまうのではと思い、一人で堪えて傷を抱えてきた女性がいて、子どもたちにこんな経験をさせたくないという思いが強いんです。



――幼少期だと、性被害なのかどうかもわからないですよね。


のじま そうですね。皆さん、自分が大人になってから、あれは性被害だったんだと気づいたパターンがほとんどのようです。いま、小学生がSNSで巻き込まれる性被害の数が、過去最高となっており、発覚している被害者の中で、低年齢だと8歳のお子さんもいます。また、男の子のお母さんは、誰かを悲しませる加害者になったらどうしようと悩んでいます。

西出 性教育と防犯を合わせて教えることも大事ですよね。例えば、防犯や防災と組み合わせて教えていくとか、真正面の性教育だと難しくても、もうちょっと違う入り口を探してみるのもいいかもしれませんね。
性教育は近い未来と遠い未来、それぞれに影響がある話をする必要があると思っていて、教える側は、段階を踏むことと、「自分はどこを教えているのか」を理解することが必要なんじゃないかなと。

のじま 世界では5歳からの性教育がスタンダードだという認知が広まっている中、日本では「コンドーム」という言葉が性教育で出てくるのが高校です。今のままでいいのだろうかと、親も教員も疑問に思っているけれど、どこまで踏み込んで良いかわからない。ジレンマがありますよね。

西出 私自身の好みかもしれませんが、あまり主張を織り込まず、色をつけない性教育がいいなと思いますね。

――10代の妊娠はリスクと教えられるのが常ですが、法律で明確に出産年齢が決められていない以上、「じゃあいつならいいの?」という疑問はつきまといますよね。
もちろん身体的な面からリスクだと伝えることはできると思いますが。

西出 性教育では、当たり前に「高校生は妊娠してはダメ、リスク」と教えられるけど、「高校生の妊娠はリスクなのか??」っていう問いがあり、リスクかどうかは本人が判断したら良いと思っています。逆に、例えば高校生に「いま妊娠したら、妊娠させたらどうなるんだろうね?」という問いを立てて、そこから性の話に降りて考えるのも良いのではないかなと。「結婚はできる? できない? できるならする? しない? 学校はどうする?」と考えさせるように、教えていくんです。そして、実際にそうなったとき、「考えた結果、子どもを持ちたい」ということなら、その判断をするのは本人と家族がすればいいと思います。

のじま 私は「10代では産まなくて良い」と思っている側の人間です。
10代でしかできない経験があるのと、10代の離婚率は9割と高くて体の負担も大きい。人生をショートカットせずに、子どもを持つ前に自分自身と向き合うことが大事だと思います。若年層の妊娠出産の支援がもっと充実してもいいと思いますが、社会を変えるのは時間が掛かると思います。

西出 そうですね。ただ私としては、いまは高校生で妊娠すると、退学になる学校が多いですが、それはおかしいと感じます。復学しやすい環境をすぐに整えるべきではないでしょうか。本人の意思で勉強し直すことができる、寛容な社会になったらいいなと思います。



――どんな選択をするにしても、それが苦しみや悲しみを伴う選択にならないために、まずは家庭で臆せずに性の話ができる環境づくりから始めるべきかもしれないですね。

のじま そうですね。シビアなテーマも自然と語り合えることが望ましいと思います。性教育に段階をつけるとしたら、セックスの話は8合目です。その後に、妊娠、感染症、エイズ、レイプについて語る必要があります。これらは、普段から家庭で性の話をしているからこそ、ハードルは低くなるのです。今の日本では、漫画とかネット媒体、アダルトビデオから性を知って育ちますが、その中に「巨根神話」「イクイク神話」というのがあって、問題だと思っています。男性は「おちんちんが大きくないとダメ」、女性も「イケないのは不感症?」「演技をしなきゃ」と思い込んだり……これは、セックス離れが進む原因にもなっていると感じますね。

西出 最近、ボランティアで「命育」という新しいサイトがローンチされましたが、かわいくて見やすく、性教育にまつわる具体的な質問に対して、監修に入っている助産師さんが答えるというコンテンツが充実しています。私はこうしたサイトのように、学校の性教育だけでなく、いろいろな組織や団体がちょっとずつ性教育のあり方を変えていけたらいいのかなと思います。

のじま そうですね。そのときに大事にしてもらいたいのは、プラスの性教育とマイナスの性教育、両方を教えるということ。防犯やHIVや中絶はマイナスなので、愛や恋愛などプラスの性教育も必要です。そうじゃないと子どもは、性を恐怖だけで受け取ってしまい、バランスに欠いてしまいます。そうやって地道な積み重ねで、20年後に日本の性教育が世界から一目置かれるようなものに発展していくことが理想ですね。
(末吉陽子)