ジャニーズ事務所のジャニー喜多川社長が初製作・総指揮を執り、ジャニーズJr.のメンバー53名が出演する映画『少年たち』。一言でいって、「ジャニーエキス」濃縮還元100%の作品だった。



 以下はネタバレとなるため、未見の方はご注意を。

 舞台は、さまざまな事情を抱える少年たちが収監された少年刑務所。少年たちは喧嘩をしたり、絆を育んだり、暴力的な看守長の支配下からの脱走を企てたりする(超ざっくりのあらすじ)。

 それにしても、ジャニーさんは昔から公私共に、不良や貧乏、母子家庭が大好き。少年だけの世界にこだわり続けるのも、根底には「母親」や「母性」に対する強烈な不信感があるからではないかと、この作品を見てあらためて思わされた。

 また、不治の“『ウエスト・サイド・ストーリー』大好き病”を患っているため、少年たちが唐突に喧嘩したり、シリアスな場面で唐突に踊り、歌いだしたりするのは、いつものご愛嬌。
「ミュージカル」と呼ぶにはいささかチープな作りは、テレビ朝日で2017年夏に放送されていた、プールやかき氷屋で脈絡なく少年たちが歌い踊る『KINGステーション』にも似ている。

 「総勢53名のJr.が出演」と謳うが、基本的にはSixTONES、Snow Manを中心として、そのほかはTravis Japanの宮近海斗や、なにわ男子の西畑大吾と大西流星、Lilかんさいの島崎斗亜、少年忍者の川崎皇輝など、お気に入りのJr.が目立つパートに登場するのみ。メイン格のJr.は舞台経験者が多いことがアダとなって、映像作品にはしっくりこない芝居の大きさが、なかなかに不思議な雰囲気を醸し出していた。

 とはいえ、出演者たちに罪はない。彼らは一生懸命指示されたことに従うだけで、物語を果てしなく脈絡なくおかしくしているのは、ほかの誰でもない、ジャニーさんだ。



 少年をあっさり殺すのは、ジャニーさんならではの悪趣味ぶり健在といった感じなものの、回想シーンのみの出演で、登場→即死亡を遂げるのが7MEN侍・中村嶺亜というところに、凄まじいジャニー臭を感じる。


 かつて、シンメの相手が退所してしまい、Mr.KINGの3人と一緒に4人で『ジャニーズ銀座』に出演したかと思えば、一人そこから外されたり、ユニットに入れず「フリーランス」になったりした嶺亜。そして、自ら『炎の体育会TV』(TBS系)出演者などを中心に運動神経の良いJr.たちに声をかけてスケボーを教え、ともに練習し、それが認められて新ユニット「7MEN侍」が結成された。

 自らの努力と戦略による出世物語は、ここでは語りつくせないほどだが、にもかかわらず、オイシイ役とはいえ、やっぱり「即死亡」する。ジャニーさんにとって、「中村嶺亜」はいつでもちょっと気になり、ちょっとイケズしたくなる存在なのだろうか。

 また、最大限におかしかったのは、室龍太の存在。病で死んだはずなのに、爽やかな夏空の下で、関西Jr.たちがキラキラに「Happy」などと歌い踊っていると、ラスト方で室がピンピンして登場する。


 不思議さを醸し出す存在として、看守長を演じる関ジャニ∞・横山裕のことも忘れてはいけない。横山の演技や役作りは、『左目探偵EYE』(日本テレビ系)で演じていた役とほぼ同じだが、いつの間にか良い人になったり、5年で急速に老けたり、突然死んだような様子を見せたりする。しかも、刑務所を110年間見守ってきた“創設者”みたいな扱いを受けていた。

 この件を推測するに、プロによる脚本上では当初まともな人物説明だったのに、ジャニーさんが強引に手を加えたことで、誤解が生まれたのではないだろうか。

 また、肝心の脱獄計画も、わざわざ頭の回る田中樹を「情報屋」として配置しながら、全く機能させていない。「情報屋」と役割が完全に被ってしまった、松村北斗演じる頭脳担当の「ダイケン」(大学検定の意)も、わざわざ碁石を持ち出して、大層な作戦を練ったように見せかけておきながら、ただ“バラバラに散るだけ”という計画の単純さが、またジャニー流。


 これも、おそらくもともとの脚本ではもう少し意味のある作戦があったのだろうが、ジャニーさんにとっては興味のない面倒くさい話として、端折られたのではないか。ともあれ、そんなチンプンカンプンな「雑」具合が、「ジャニーここにあり」を強く印象付ける。ジャニー的世界は、意味なんか真面目に考えちゃいけない。「感じること」が大切なのだ。

 もう一つ、ジャニー流をすさまじく感じたのは、京本大我の死の描き方。屋上から落ちるシーンでフラッシュバックするのは、ドラマ『人間・失格~たとえばぼくが死んだら~』(TBS系)でKinKi Kids・堂本剛が死ぬ、悲しすぎるシーンである。
もしかしてジャニーさんもこのシーンを思い出して、涙とヨダレを垂らしながら見ていたのではないかなどと、妄想が膨らんでしまう。



 極めつけは、5年後に刑務所跡地に作られたホテルでのショー。現在お気に入りのHiHi Jetsや美 少年、少年忍者たちは、ここで初めて登場する。このシーンだけが急に浮き立つほどクリアで美しい高画質になるのもおかしいし、なぜか何度も大写しになるのがHiHi Jets・猪狩蒼弥というのも味わい深い。

 ちなみに、SixTONESとSnow Manの面々は「出所」して、ショーを見に来ているという設定だ。実際のジャニーズ事務所でも、タッキー管轄になったSixTONESやSnow Man、Travis JapanなどのJr.はジャニー管轄から卒業=「出所」した形になっている。
つまり、この映画が実質、彼らのジャニー管轄からの卒業式であり、刑務所からの出所が描くものは「ジャニー=刑務所」からの出所ということなのか。

 さらに怖いのは、一時的に日本へ遊びに来ていた間、唐突にプッシュされまくったキャメロンが、映画のクライマックスでソロを歌い上げたことと、最終カットの集合写真ではメインキャストたちを差し置いて、キャメロン+ヴァサイエガ渉+ブランデンが“どセンター”を占めていたこと。おそらく、彼らこそジャニーさんが未来を託す子どもたちで、「2020年構想」の中心なのだろう。

 それにしても感心せずにいられなかったのは、こんな随所に狂気と笑いが散りばめられている映画を、ファンは笑いもせず、ざわつきもしないこと。応援上映ではツッコミの声があちこちから飛んだようだが、一般上映では、慎み深く静かに鑑賞する。そんな狂気慣れしたジャニオタの感性というか耐性は、すでに高いステージに到達していることを確信した映画だった。
(南山ヒロミ)