「キリスト教原理主義に支配され、宗教国家ギレアド共和国になった旧アメリカで、健康的な子どもを産むことができる女性が高級官僚に性的に仕えるよう強要される」世界を描いた、大ヒットドラマ『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』。ストリーミングサービス「Hulu」での新シーズン配信開始を6月5日に控えた同作が、今、別の意味で全米から注目を集めている。



 今年に入り、キリスト教保守派の多いアメリカ南部・中西部の州が次々と中絶禁止法案を可決しており、リベラル支援団体「Demand Justice」の女性たちが『ハンドメイズ・テイル』のコスプレをして抗議デモを展開。それを見た国民たちが「中絶禁止は女性の権利を奪う行為であり、このままだと『ハンドメイズ・テイル』のような世界になってしまう!」と危機感を抱き始めているからだ。

 アメリカではほとんどの州が1973年の連邦最高裁判決に沿い、中絶の権利を保障している。しかし、今年に入ってから、オハイオ、ミシシッピー、ケンタッキー、アイオワ、ノースダコタ、ジョージア州が次々と「胎児の心拍が確認できる妊娠6週目以降の中絶を禁止する」法案を可決。5月14日には、アラバマ州では、「レイプや近親相姦などによる女性が望まぬ形の妊娠であっても、中絶は禁じる」という厳しい法案が可決された。これに対して、ヒラリー・クリントンら政治家だけでなく、レディー・ガガ、リース・ウィザースプーン、ジョン・レジェンドらセレブたちも、SNSで続々と反対の意思を表明する事態になっている。


 女のビジー・フィリップスは自身のトーク番組で「私も15歳の時に中絶した」と告白し、「4人に1人が中絶の経験を持つ。あなたの中絶の経験をSNSでシェアしよう」と「#youknowme」運動を立ち上げ、アリッサ・ミラノは「女性が身体的主体性を取り戻すまで、みんなでセックスを拒否しよう!」という「セックス・ストライキ」を呼びかけている。

 そんな中、大ヒット映画シリーズ『バイオハザード』で知られる女優ミラ・ジョヴォヴィッチが、インスタグラムで自らの中絶経験を激白した。

 15日、ミラはインスタグラムに、寝転んだ状態で自撮りした無表情な写真を投稿。「私は政治的な話をするのはあまり好きじゃないから、本当に必要な時以外はしない。今が、まさにその時だと思うからするわ」と前置きした上で、「経験豊かな医師のもと安全に中絶手術を受ける、それは我々女性の権利。
でも、その権利が剥奪されようとしている。火曜日、ジョージア州知事ブライアン・ケンプが、――ほとんどの女性がまだ妊娠していると気づかない時期であろう――妊娠6週以降の人工妊娠中絶を禁止するという厳しい法案に署名しました。レイプや近親相姦による妊娠でも中絶は認めないというものよ」と憤りを示した。

 そして、「中絶は女性にとって精神的にとてもつらいこと。安全上や衛生上の問題がない所で受けるにしても、つらいものだわ」「2年前、私は緊急中絶手術を受けました。妊娠4カ月半で、東ヨーロッパで撮影をしている時に早期陣痛が始まってしまって。
中絶措置を受けなければならなくなったの」と告白。「生きてきた中で最も恐ろしい経験だった。今も悪夢に出てくる」「今回の中絶禁止法案のせいで、私よりももっとひどい状況下で中絶しなければならない女性たちがいると思うと、吐き気がする」、つまり中絶が禁止されたことにより、安全面などの問題のあるような所で“違法に”中絶を受ける女性が出てくるのではないかと懸念。

 「(中絶後)私はこれまでにない絶望に見舞われた。このうつから抜け出すのには、とても苦労した。しばらく仕事を休み、何カ月も人との交流を断ち、でも2人の子どもたちの前では気丈に振る舞って」「ガーデニングを始め、健康的な食生活をし、毎日ジムに通うようになった。
手っ取り早いからと抗うつ剤に手を出す前に、代替療法をすべて試してみようと思ったから。幸いにも私は薬を飲むことなく、地獄から抜け出すことができた」と述べ、「でも、あの時の記憶や失ったものは、死ぬまで私と共にあるわ」と苦しい胸の内を吐露した。

 ミラは最後に、「中絶は地獄。やりたいと思う女性なんかいない。でも、もし必要になった時、安全に中絶を受けることができるという権利を維持するため、私たちは闘わなくてはならない。自分の中絶経験は絶対に語りたくないと思っていた。
だけど、こんなにまでも危うい状況になっているというのに、黙っていられなかったの」とつづり、中絶反対派に対抗する「#ProChoice(選択派)」のハッシュタグを付けた。

 勇気を振り絞って「語りたくない」過去を告白し、中絶禁止法に断固反対したミラの投稿には、18万を超える「いいね!」が集まり、コメント欄には「シェアしてくれてありがとう」「共感する」などの称賛が書き込まれている。

 しかし、このニュースを報じた「Foxニュース」のコメント欄には「ミラが受けたのは、法案で禁止される中絶じゃないよね?」「ジョージア州は“医療的な問題があれば中絶は可能”と言ってるのに。感情的になって、その部分は読んでないんだろうね」「医療的な手術と、本人が希望して中絶するというのは違う話では?」と疑問視する意見が上がり、「リベラルは、人命を奪う銃の規制を叫ぶくせに、胎児の命を奪う中絶は支持するよね」「ハリウッドのみなさん、この手の話に本当に敏感に反応するよね。ジョージア州に住むつもりなんて、これっぽっちもないくせに」と冷ややかな意見も飛び交い、炎上へと発展している。

 リベラルなセレブたちが「このままだとアメリカが危険!」と声を上げる中絶禁止法案だが、保守派が大多数を占める南部ならではの問題だと静観するメディアも多い。
とはいえ、人々が楽観視している間にキリスト教原理主義に国が乗っ取られてしまった『ハンドメイズ・テイル』のリアリティはすさまじく、同作を引き合いに出しながら国の行く末に危機感を募らせる人が日に日に増えているようである。