誰にでも、心が弱ってしまう時はあります。救いを求める先が、信頼できる家族や友人ではないこともあるでしょう。

「こうすれば幸せになる」と語りかける心理カウンセラー、スピリチュアリスト、霊能力者。彼らを見ていると、「私を救ってくれそう」「この人たちのようになれるかも」と、次第にそんな気持ちが膨らみ……ちょっと待って! それ、本当に信じて大丈夫? スピリチュアルウォッチャー・黒猫ドラネコが、無責任なことばかり言っている“教祖様”を、鋭い爪でひっかきます。

 3月23日、近畿大学の卒業式に招かれたお笑いコンビキングコング西野亮廣さんが、卒業生に向けてスピーチを行いました。その模様を収めた動画が、4月中旬にネット上で大きな話題になったことをご存じの方もいるかと思います。

 この動画を見てみると、西野さんは自身が登壇する際、会場が盛り上がらなかったことについて、近大の学生を言葉巧みに責めます。そして「パラパラの拍手でキングコング西野を迎えるのか? それとも、割れんばかりの大歓声でキングコング西野を迎えるのか? 決めるのはあなた方です」と言い、登壇をやり直し。二度目に登場した際には、大きな拍手と指笛が聞こえる中でステージに立ち、「やればできんじゃん!」と絶叫しました。Twitterでは「カルト団体が人を支配する時に“罪悪感”を抱かせる手法と似ている。これに感動した人は危険だ」なんて指摘する人がいて、ギョッとしてしまいました。

 西野さんは卒業生へのメッセージとして、こんな話もしています。

 「時計ってすごく面白くて、長針と短針があって、あいつらは1時間に1回重なるんですよ。(中略)毎時1回は重なるようにできてるんですけど、11時台だけは重ならないの。
(中略)次に2つの針が重なるのは12時。鐘が鳴る時ですね。伝えたいメッセージは何かというと、『鐘が鳴る前は報われない時間があるということ』。(中略)でも大丈夫、時計の針は必ず重なる。だから挑戦してください」

 登壇シーンも含めて、「伝説的」「引き込まれるような話術」と絶賛の声がある一方で、「時計の針と人生はまったく違う」といったツッコミもありました。時計の針が重なり、鐘が鳴った瞬間を「報われた」と言っているようですが、人生は時計のように、定期的に報われる瞬間が来るとは限りませんよね。非常に抽象的な例えで“それらしい”ことを言っていますが、冷静になって考えてみると、「あれ?」と引っかかるようなスピーチでした。

西野亮廣を取り巻く“スピリチュアル”な人々

 実は私、つい最近まで西野さんのことを“スピリチュアル系”の人だと思っていました。自分があまりテレビを見ないのと、子宮系界隈や、心理カウンセラー・心屋仁之助氏のファンが、SNSで西野さんのイベントや講演会の告知などをしていたもので……。私が注目する“教祖様”たちの支持層と、彼のファンは親和性がかなり高いのだな、などと勝手に思っていた次第です。実際に、西野さんご本人がこの界隈と関わることもありました。一昨年、スピリチュアル・ブロガーhappy(現在は「さちまる」「竹腰紗智」に改名)が都内で行ったイベント「第1回シンデレラ・プロジェクト」に、西野さんが出演していました。

スピ好き女子が2,000人も集まった大イベントで、西野さんはトークゲストとして登場。また、絵本作家・のぶみ氏と対談した『会議を見せるテレビ』(ニコニコ生放送)出演の際には、西野さんがゲストにhappyを呼ぶ親密ぶりでした。

 そんな西野さんのブレーンとして、表立って活躍しているのは、田村有樹子さんという女性です。18年、振り袖の販売・レンタル業者「はれのひ」の詐欺被害にあった新成人のため、西野さんは「あらためて新成人を祝う会」を行っていましたが、これも田村さんの後押しがあったよう。西野さんは同年1月20日に「田村P」と題したブログを更新しており、「成人式の一件に関しては田村Pから『なんとかしてあげたい』という連絡があって、僕は彼女に最大級の恩恵があって、彼女が抱えているストレスは全て解消したいので(それだけの関係を築いてあるので)、アクションを起こした」とつづっています。

 田村さんは、スピ界隈でちょっと有名な天宮玲桜(あまみやれいか)氏と懇意にしていることが、SNSの投稿からわかります。2人はよく一緒に食事をしており(いつも高そうな肉を食べている!)、「大好きなたむママ(編注:田村さん)のお店」に行ったことを、天宮氏がフェイスブックで報告していたことも。ちなみに天宮氏は、「卑弥呼の生まれ変わり」を自称して、パワーストーン販売や高額セミナーなどを行う、まあ、その……ごく一部の人から“崇拝”されている人物と言って差し支えないかと思います。



 西野さんとスピリチュアル系とのつながりの数々は、決して表立っては取り上げられません。そんな中で槍玉に挙げられているのが、10歳の不登校YouTuber「ゆたぼん」との関わりです。心理カウンセラーを自称するゆたぼんの父親は西野さんの大ファンであり、18年4月7日には自身のTwitterで「わが家の長男と長女が5月4日に福岡で開催される西野亮廣さんの講演会に招待して頂きました」と報告。ゆたぼんも、長女・あっちゃんも、西野さんの講演会に「スタッフとして参加した」旨のツイートをしています。


 しかし西野さんはこの件について、5月12日にYouTubeの『毎週キングコング』で公開された動画内で「ゆたぼんなんか知らーん!」「俺のライブに来た“お客さん”が炎上して、なんで俺がコメントすんねん?」と、爆笑しながら彼らとの関係を否定。一方で、あっちゃんのことは覚えているようで、西野ネットワークで全国に展開するファンの集会場のようなスナックを「沖縄でもやっていいですか?」と聞いてきたと説明しています。とはいえ、西野さんに「ただのお客さん」とハシゴを外されたゆたぼんファミリーは、さぞガッカリしたでしょうね。

 スピな人々や少年YouTuberだけでなく、西野さんの動向を手放しで称賛するファンは多数います。その局地的な人気を固めているものが、オンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」。月額1,000円で入会でき、西野さんがありがたいお言葉を投稿してくれる「西野亮廣のメモ帳」の閲覧や、コメントの書き込みができるのは会員のみ(あ、これ宣伝になっちゃう……?)。サロンを通じて西野さんファン同士が交流できる場もありますから、そこに自分の居場所を見いだす人も大勢いるでしょう。そんな仲間が「行く」と言うならば西野さん主催のイベントに参加し、「買う」と言うならば著書や商品は我先にと購入したくなるはず。国内最大規模の2万5,000人が集まるサロンとのことですから、西野さんの“ベストセラー”を支えている層が見てきますね。

西野亮廣の評価が二極化している「危うさ」

 西野さんのオンラインサロンは“秘密厳守”だと、入会手続きをするページにはっきり書いてあります。ここで得た情報や会話などを外部に漏らすことは、「クライアントが絡む公開前のプロジェクトをたくさん抱えております」という名目で絶対禁止。これにより、“閉鎖空間”が生まれることになりますが、ちょっと妙な雰囲気が漂ってきませんか。

この特別感や高揚に酔う人々が、西野さんの言葉をありがたく聞き、少しずつお金を献上する。そして時にはゆたぼんファミリーのように、団結して労働力にさえなるのです。

 芸能界で培った巧みな話術と豊富な人脈によって信用を集め、会員制コミュニティ内で先鋭化したファンの力を借りながら、定期的にイベントを開催する。斬新で楽しいことをやって話題作りをして、またそこに惹かれた人を囲い込んでサロンが拡大していけば、まるで世間的にすごく支持されているかのように見せることも可能でしょう。

 近大卒業式の西野さんの言動に対して、ネットの反応が「伝説的」「危険だ」とはっきり二極化していたことからも、彼の危うさを感じ取れます。加熱した一部の“信者”が、大きな声を上げて猛烈に誰かを支持する。これはスピリチュアル系自己啓発セミナーの「信者ビジネス」とよく似ていると、私は思うのです。西野さんがやってることって、「革命」なんて気高く輝いて見える言葉で丸め込んでもいいのでしょうか。

 このような活動を続けている限り、本人に悪気はなくても言わば“教祖”たる西野さんは、これからも「胡散臭い」と言われてしまうのでしょう。そうやって自分を売り出したのだから、仕方ありませんし、おそらく本人は本人で「胡散臭い上等」なんでしょうが。

■黒猫ドラネコ
 1983年5月生まれ。性別、職業は非公表。
大分県出身、学生時代から大阪で過ごし結婚を機に上京。穏やかで細かい性格。自分勝手な人が嫌い。趣味はスポーツ観戦、カフェ巡り、漫画・アニメ鑑賞など。甘党でお酒よりジュースを好む。ショートスリーパーにつき夜行性。

Twitter/ブログ「黒猫ドラネコのブログ(仮)

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