お笑い芸人がアウトローだった時代はとっくに終わったのか、現在の若手芸人には有名大学出身者が本当に多い。お笑いサークルで活動していた学生が、プロの芸人を目指すようになってきたからだ。
■若手エリート芸人軍団の筆頭は霜降り明星・粗品
「今の20代芸人で台頭してくる子たちは、早稲田や慶應を出てて、一流企業にも就職できたようなタイプで驚きますよ」(40代の中堅芸人)
この流れにあたる、若手エリート芸人軍団の筆頭が、同志社大学在学中に学生芸人として活動を開始した霜降り明星の粗品だろう。また、『キングオブコント2018』優勝のハナコ・岡部大は早稲田大学のお笑いサークル出身だ。ほかにも、吉本若手の中で頭角を現す令和ロマンというコンビは慶應義塾大学の「お笑い道場O-keis」の先輩後輩コンビ。ナイチンゲールダンスというコンビの中野なかるてぃんは一橋大学のお笑いサークル出身と、一般的には無名な中にも有名大学出身者がいる。
なぜ大卒エリートの彼らは、就職せずに芸人になるのか? テレビ番組制作会社社員は次のように話す。
「今、マスコミに勤めようと思っても、テレビ局や広告代理店は斜陽。就職しても安定しないとわかっているからです。
■一番ハネた若手芸人は、高校中退芸人EXIT兼近
霜降り明星はテレビで深夜の冠番組をもったり、ゴールデンにレギュラー出演したりと、売れっ子に見える。
「M-1優勝者ですからね。しかし、昨年から今年にかけて、賞レースとは関係なく、ある意味実力でブレークした若手芸人はEXIT、特に兼近大樹です。『ゴッドタン』(テレビ東京系)で、あれほどハネた若手芸人は久々です。チャラいキャラで売り出したいのに、MC陣から「実は真面目なんだろ?」とイジられて、見た目と中身のギャップが際立ちました。その後『アメトーーク!』(テレビ朝日系)の高校中退芸人特集に出演し、高校を中退して妹の学費のために働いたというエピソードで涙を誘いました。視聴者が求める芸人像というのは、兼近くんのような、エリートの真逆にいるキャラなんじゃないでしょうか」(前出・制作会社社員)
確かに現在売れっ子のサンドウィッチマンや千鳥も、エリートというよりも苦労人なイメージがある。
「芸人は、出演者をいじって面白くするのが仕事。時には相手をディスるような言葉も浴びせます。
テレビ以外ではどうなのだろうか? 芸人はライブでの集客力も重要だ。お笑いライブ企画スタッフはいう。
「少し前のことです。劇場で和牛が出演できなくなり、代打で霜降り明星が出ると発表されたら、客から大ブーイングが起き、結局和牛が出ることになった騒動がありました。出演者の変更はよくあることなのに、客が許さなかったんです。劇場としては、和牛と霜降りを同格と考えたんでしょうが、ライブシーンでの評価は全く全然違いますよ」
吉本の劇場のチケットサイト『チケットよしもと』の検索急上昇ワード一覧(5月22日現在)を見ると、和牛、アインシュタイン、アキナ、ミキ、金属バット、ダイアン、トット、EXIT、コマンダンテといった芸人の名が連なるしかし、霜降り明星、ハナコといったエリート芸人たちの名はない。
「『今、集客力があるコンビは?』と訊かれたら、金属バットの名が挙がります。彼らは昨年のM-1敗者復活戦で注目され、一気にブレークしました。その魅力は、今どき珍しいほどの破天荒なキャラクターです。吉本の社員は金属バットの名前を聞くと困ったような顔をしますから、相当手を焼いているのでしょう(笑)。この春も“無理やり入れられた仕事をブッチする”という旨をボケ担当の小林圭輔がツイートして話題になりました。マネジャーにメールで伝えれば済む話をネットに公開してわざわざ炎上させるのは、相当困ったちゃんな行動で、僕らはドン引きしますが、ファンやネット民は彼らを称賛していました。
どんな業界でも、頭脳明晰な若者は重用される。しかし、多様性があってこそのエンターテイメントだということを考えると、いろんなタイプの芸人が存在した方が面白いようだ。
(木原友見)