秋篠宮家の長女・眞子さまと小室圭さんの“結婚騒動”が、いまだ国民の注目を集めている。一昨年9月、二人は婚約内定会見を行ったものの、その後、昨年2月に宮内庁から「2020年まで結婚延期」が発表されることに。

その背景には、小室さんの母親が、元婚約者との間に借金トラブルを抱えているとの週刊誌報道が関係しているとされ、現在、報道を見る限り、借金トラブルの解決の見通しは立っていない状況だ。

 しかし、眞子さまと小室さんの結婚は、借金トラブル報道の前から国民の間で先行きを不安視されている面があった。というのも、小室さんは婚約内定の一報が流れた当初、一部で「弁護士事務所にパラリーガルとして週3日ほどの勤務し、大学院に通っている」と報じられ、「アルバイトという立場で、眞子さまと結婚しようとしているのか」と物議を醸したのだ。会見で小室さんは、「正規職員として働いているかたわら、社会人入学した大学院に夜間で通っている」と説明したものの、「将来のことにつきましては、みなさまとご相談しながら考えてまいりたいと思います」と述べ、将来設計が不透明なことに、国民から「結婚後の経済面は大丈夫なのか」と疑問の声が噴出。加えて、結婚延期発表後の昨年8月、国際弁護士資格取得のため米フォーダム大学に留学したことが伝えられると、ますます「将来についてどう考えているのだろうか」「結婚自体を取りやめにした方がいいのでは」といった声が飛び交う事態となった。

 戦後、「日本の家族のモデル」となった皇室。
今回の結婚騒動にも、「現代の結婚」が孕む問題点が隠されているということはないか。『結婚不要社会』(朝日新聞出版)などの著者である中央大学教授の山田昌弘氏に、「家族社会学」(家族という形態や機能、またその問題を研究する社会学)の視点から、眞子さまと小室さんの結婚騒動を語ってもらった。

眞子さまとの小室圭さんは「現代の結婚が抱える矛盾」の象徴

――眞子さまと小室圭さんの一連の結婚騒動をどのようにご覧になっていましたか。

山田昌弘氏(以下、山田) 社会学者として興味深く見ていました。結婚には「好きな人と一緒になる」「新しい経済生活を始める」という2つの側面があり、1990年くらいまでは、どちらもうまくかなう形になっていたのですが、近年はいわゆる「好きな相手が経済的にふさわしいとは限らない」「経済的にふさわしい相手を好きになるとは限らない」といった矛盾が現れてきました。眞子さまと小室さんの結婚騒動は、まさにその矛盾の象徴なのではないでしょうか。



 結婚に関する研究を行う中で、現在でも「女性は結婚に『経済の安定』を最も望む」ことがわかっており、例えば「好きな人と結婚できれば生活が苦しくても構わないか」というアンケートでも、男性は「構わない」との回答が多い一方、女性は少ないといった調査結果もありました。そのため世間から、眞子さまの結婚に対して「大丈夫なのか?」といった声が出ることも頷けます。

――結婚における“矛盾”が現れてきた理由は何でしょうか。

山田 男性の収入に格差が生じたことです。昔は中卒でも企業に就職すれば収入は安定し、年功序列で収入も増えていきました。昔は、いつまでも収入が安定しないというのはごく一部の男性だけでしたが、現在は結構な割合にのぼっています。
一生涯にわたる生活の安定を保障できる男性が少なくなったのです。



――そんな中、妹の佳子さまが「私は、結婚においては当人の気持ちが重要であると考えています」「姉の一個人としての希望がかなう形になってほしい」というお気持ちを表明され、話題を集めました。

山田 若い人たちの間では、眞子さまと小室さんの結婚を応援するという人も多いようです。以前、ゼミの学生たちにもアンケートを取ったのですが、4分の3がお二人の結婚を応援すると回答していました。恐らく、まだ結婚生活をリアルに想像できないからでしょう。

――小室さんは、国際基督教大学卒で、前職は三菱東京UFJ銀行、さらに一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務専攻)にも通っていました。
現在も、米フォーダム大学に留学し、国際弁護士資格の取得を目指しており、こうした経歴等を見ると、今後の経済生活は安定しそうだとも考えられますが……。

山田 確かに本人の経歴を見れば一般的には文句は言えないとは思いますが、ご実家が借金トラブルを抱えているとのこと。日本では、結婚において「いざとなった時のバックアップがあるか」、つまりフローよりストックの方が重要視される面があります。眞子さまは結婚によって民間人になると、ご実家から金銭的支援を受けることができなくなります。国民の税金を使うことになってしまうからです。そのため、男性側の実家の経済力に注目が集まり、「いざとなった時、皇室の女性としての体裁を保てるだけの支えはあるのか」と、結婚が不安視されるのではないでしょうか。
なお、中国でも、結婚において夫側の実家の経済力を見られる傾向があります。「新居の頭金は夫の実家が払うもの」という空気があるのです。

――確かに一般的な結婚でも、「相手の実家」を見るということはあると思います。

山田 雅子さまが天皇陛下とご結婚されたとき、キャリアウーマンである点が話題になりましたが、世間的に「驚かれる」「拒否される」といった空気はありませんでした。なぜなら、ご実家の小和田家が名家だったからではないでしょうか。

 ただ、眞子さまは“生活水準が落ちても好きな人と結婚したい”といったスタンスのようにも見受けられますし、若い人たちはその点を支持して、「応援したい」と感じているようにも思います。



――皇族の方々は、たいへん質素な生活をされていると言いますが、一般世間の金銭感覚とは異なるであろうことは想像に難くありません。

山田 最近では、老後の金銭計画まで考えて結婚するという人もいますが、眞子さまがそこまで考えられていたかと言われると、どうなのでしょうか。先ほど、「女性は結婚に『経済の安定』を最も望む」という話をしましたが、中には「男性の経済面は関係ない」「愛情だけで結婚したい」という若い女性も2割くらいはいるのです。ただし、その場合、女性は「結婚後も自分が働き続けること」、つまり、「共働きで生活費を稼ぐこと」を考えています。私が最も注目しているのは、ここです。皇室に生まれ育った眞子さまが、今後小室さんと結婚して民間人になり、経済的に厳しい状況に陥った場合、果たして「働く」のだろうか、と。

――世間では「果たして二人は結婚すべきか否か」という議論が活発です。

山田 私は社会学者なので、「結婚すべきか否か」について判断することはありませんが、「いくら好きでも、経済的に苦労するような相手との結婚はやめた方がいい」と考える人は多いだろうなというのはわかります。特に親の立場だと、そう思うでしょう。しかし今の日本には、そうやって考えているうちに「結婚したいけど、一生独身」となる人が大勢いるのです。皇族の女性を迎えるとなると人の目にもさらされますので、眞子さまと付き合いたいという男性が将来現れるかどうか……また、眞子さまご自身も「たとえ経済的に安定していたとしても、彼以上に好きになる相手が現れるか」と考えている可能性はあると思います。

――「結婚したいけど、経済的に安定しないから、独身を選択する」というケースが増えている中、小室さんは、それと逆行するように「収入は不安定だけれど、皇族の女性にプロポーズ」したのですね。

山田 確かにそれは日本のスタンダードではなく、「カップルの愛情」に絶対的な価値を置く欧米のスタンダードと言えます。だからこそ世間の「何かウラがあるのではないか、もしくはよっぽどの自信過剰か」といった疑念を巻き起こしたのではないでしょうか。しかし、それでも眞子さまが小室さんとご結婚され、その後、お金を稼ぐ労働を行うとなれば、それは日本の結婚の「新しいモデル」の一つになると思います。

山田昌弘(やまだ・まさひろ)
1957年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。社会学者。専門は、家族社会学。東京学芸大学教育学部教授を経て、現在、中央大学文学部教授。「パラサイト・シングル」「格差社会」「婚活」といった言葉の生みの親として知られている。『パラサイト・シングルの時代』(筑摩書房)『少子社会日本―もうひとつの格差のゆくえ』(岩波書店)『結婚不要社会』(朝日新聞出版)など著書多数。