今や日常生活において、かかせないツールとなっているコミュニケーションアプリ「LINE」。かつては子どもの送迎時に、ママたちが立ち話をしているような光景が見かけられたが、時間に追われ忙しく過ごす共働き世帯が増えた今、ママたちのコミュニケーションの場は、LINEのグループチャットになっているという。

そんな、ママたちの「グループチャット」から浮き彫りになった、彼女たちの悩みや、苦悩、気になる話題を覗いてみる。

 感冒性胃腸炎やインフルエンザなど、感染力の強い病気が流行する今の季節、小さな子どもを持つママたちは、わが子にうがい手洗いを徹底させるなど、日ごろから念入りな予防対策を取っているという。今年は、新型コロナウイルスという「新型肺炎」も流行の兆しを見せ始め、ママたちの心中は穏やかではないようだ。

看護師ならわかるはず……新型肺炎について聞いてくるママたち
 関東近県の認可保育園に4歳になる男児を通わせている美樹子さん(仮名)は、地元の総合病院で看護師として働いている。園の中には、この病院に通院したことがある保護者もいるため、美樹子さんが看護師であるということを知っている人も多い。

「普段は、整形外科に所属し、緊急搬送された患者などを診ています。

一般的な内科や小児科の仕事をしているわけではないのですが、それでも同じ園のママに、『予防接種を打たせたほうがいいか』という悩みから『寝つきが悪い』という相談まで、いろいろなことを聞かれるんです」

 ここ最近、新型肺炎のニュースが報道されるようになると、ママたちから普段に増して質問されるようになり、困っているという。

「この前、送りの時だけで、3人のママから『マスクはしたほうがいいのか』と聞かれました。『人ごみでは、したほうがいいです』と答えたのですが、私も専門家ではないので、一般的な回答しかできないのです……」

 美樹子さんは、「送り迎えの時の立ち話なら、『用事があるから』と話を切り上げることができるんですが、問題なのはLINEです」と、困惑した表情で語りだした。

「ここ数日、関東でも感染者が増えてきたことから、ママたちのグループチャットのやりとりが活発なんです。ちょっとしたパニック状態というか……通知が鳴りやまないので切っています。『近場の〇〇で患者が見つかったんだって』という情報とか、『どうすればいいのだろう』という心配の声とか。

最終的に、グループチャットで私宛に『〇〇君のママ、どうすればいいですか?』と聞いてくるんです。グループチャットだし、無視するわけにいかず、『うがい手洗いを徹底して、よく寝るようにしてください』と、当たり障りのない内容を返信しています。みんな内心では『もっとちゃんとした医療知識が聞きたい』と思っているのではないか、不安です」

 新型肺炎にまつわるニュースで、不安を煽られている人は多い。身近に医療関係者がいたら、つい聞いてしまいたくなるのも仕方ないかもしれない。しかし、美樹子さんには負担になってしまっているようだ。

「ママ友という間柄だと、断りにくいんですよ。

『同じ育児中のママなんだから、助け合うのが当たり前』という風潮を感じます。グループチャットだと、特にスルーすることができませんね」

 晴香さん(仮名)は、都下にある幼稚園に6歳になる女児を通わせている。1クラスだけの小規模保育の幼稚園のため、ママ同士の付き合いも避けられないという。

「うちはプレ幼稚園の2歳児クラスから通っていたので、延べ4年間登園します。同じように、プレ時代からの仲であるママ友3人とは特に仲良くなり、グループチャットも作っているんですよ。もうすぐ卒園のため、そのグループチャットのメンバーだけで、子ども向け体験施設に遊びに行く約束をしていました」

 最近の子どもたちは、土日に習い事をしたり、祖父母がいる実家に遊びに行ったりと、予定が入っていることも多い。

「なかなか予定が合わず、やっと3月に遊びに行くのが決まったのですが、『新型肺炎がはやっているから、中止にします』というメッセージが、ママ友のUさんから来たんです」

 晴香さんは、予定の日まで時間があるため「様子見でいいのでは」と返信したそう。

「でもUさんが、『中止にします』と決定事項のようなメッセージを送ってきたんです。思わず、別のママさんに、直接『どうする? 子どものためには行きたいよね』とメッセージを送りましたよ。そのママは、同じように『せっかくだし、行きたい』と返信をくれたのでうれしかったですが……」

 晴香さんいわく、Uさんが「うちは行かない」と辞退するのではなく、「中止にします」と暗に「危ないからみんなで行くのをやめる」と言ってきたことに困ってしまったとのこと。

「Uさんは、いつも除菌ジェルを持ち歩くなど、やや神経質なタイプ。以前、みんなでランチに行ったキッズカフェでも、店員さんの前なのに除菌シートでテーブルを拭きだしたんです。

その時は、仲の良いママから、個別で『やりすぎだよね』とメッセージがきて、同じ感覚だとほっとしました」

 Uさん親子抜きで行くと、「Uさんの娘さんが、遊びに行った話で盛り上がる子どもたちの輪に入れず、かわいそう」という理由から、「今回のお出かけは見送ることになりそう」と、残念がる美樹子さん。

「新型肺炎のニュースを見て、『怖い』『危ない』『うちもかかるかも』と不安に駆られたママが、LINEのグループチャットに『みんなも気をつけて』と記事のURLを何度も何度も送ってきたり……そういうのも嫌だなって思います。それよりも、冷静に『子どもがいる家では、どのように気をつけたらよいのか』を、みんなで話したいです」

 子育て中のママたちにとって、自分や子どもが病気に罹患すると、全てのスケジュールにストップがかかる。その恐怖もあって、今回のように新型肺炎やインフルエンザが流行すると、グループチャットで過剰に注意喚起を行うなど、周りまでも巻き込む行動に走ってしまうのかもしれない。ママたちが、仕事や育児を休むことができ、ゆとりをもって過ごせるような環境作りも、早急に必要であるように思う。