日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。3月22日の放送は「就職先はさる軍団 ~師匠と弟子と新入社員~」。

『ザ・ノンフィクション』日光さる軍団で働く新人1年生「就職先...の画像はこちら >>
『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)公式サイトより

あらすじ

 猿と家族同然に過ごし、師匠から弟子へ受け継がれてきた伝統のスタイルも今や昔。「日光さる軍団劇場」を運営する株式会社モンキーエンタープライズは、週休2日と働き方改革に対応している。2019年春に7人の新入社員が入るが、早々に2人脱落していた。

 新入社員は同社のボスでもあり、“反省ザル”次郎と共に一世を風靡した村崎太郎氏を怖がっている。週2回、会社で行われる宴会では、酔った太郎のご高説を、固まった表情で聞く。20歳すぎの彼ら彼女らはテレビ出演も多かった反省ザルの頃の太郎を知らない。

 一方で、そんな新入社員を指導する41歳のゆりあも苦労する。

ゆりあ自身は、しごかれ、泣けばそれをさらに厳しく叱責されるという厳しい環境下で芸を磨いてきた。しかし、伝統芸を受け継ぐというより、会社に入社する感覚の今の若手社員に、これまでのやり方が通じないことも理解している。模索しながらの指導が続くも、ゆりあの情熱は徐々に新入社員に伝わっていく。

 新入社員の一人、夢子は猿回しについて「稽古で10割(猿が)できても舞台では6割」と、動物芸ならではの難しさを話す。入社から約1年後、新入社員のお披露目の場となる新人公演が始まるが……。

頑張っても報われるとは限らない仕事

 今回は、働く大人が忘れかけそうな“初々しさ”を思い出させてくれる良回だった。

日光さる軍団に新入社員で入った、面倒を避けたがる覇気に欠ける若者たちが、1年をかけて仕事に情熱を注ぐ社会人のキリッとした顔つきに変わっていく。

 新入社員の一人、吉澤は人との交流が苦手で、観光牧場への就職を希望していたがかなわず、さる軍団の「飼育係」希望で入社した。週末に一人でゲームをするのが楽しみな今どきの青年だったが、ゆりあの指導で火がつき、休日も稽古に勤しむようになる。

 新人公演の日は、吉澤の両親も遠方から駆けつけた。しかし、ほかの新入社員が猿を連れて並ぶ中、吉澤のパートナーである猿のなごみちゃんだけは満員の客席にパニックになってしまう。当たり前だが猿にも性格があり、なごみちゃんは臆病なのだ。

あわてふためく様子を愛嬌だと笑っていた客も、それが数分続けばざわついてくる。

 吉澤のデビューは「何もできない」という非常にほろ苦いものとなった。公演を終え、肩を落とす吉澤を太郎は抱きしめ「悔しがれ、いっぱい悔しがれ、負けんなよ。お前自身に負けんなよ」 と太郎自身も涙する。頑張ったところで報われるとも限らないのが仕事だ。そもそも仕事に限らず人生のすべてが頑張ったから報われるとは限らない。

ツラく、しんどいことも多い。しかし、悔しいと思える機会すらない状態、諦めの日々をただ過ごすことのほうが「負け」なのではないかと、悔しがる吉澤の姿を見て感じた。

 なお、番組の最後では最近撮影された、吉澤となごみちゃんの猿回しの様子が流れた。なごみちゃんは見事に舞台でハードルの幅跳びをジャンプを決めて喝采を浴びていた。吉澤もなごみちゃんも負けなかったのだ。


 同じく新入社員の夢子はパートナーとして、新人には少々扱いづらい6歳の発情期のオス「はん君」を選ぶ。

夢子は早く舞台に出たがっていたが、高尾山さる園での初公演ではん君は何もしてくれず、夢子のデビューもほろ苦いものとなった。しかし、その後の新人公演ではん君は夢子の掛け声に合わせてバク転5連続を華麗に決めた。

 夢子が社会人になって初めての帰省では、母親に女の子からファンレターをもらったことなどを話していた。その後、夢子は旧友と再会し、大学生の友人の一人は夢子の仕事ぶりに涙していた。一足先に大人になった夢子がまぶしかったのだろう。新人の夢子にとっても、母親や友人に、自分のここ一年の軌跡を話せたことは、強い励みになったはずだ。

 日々の暮らしの中で、自分の仕事の話をする人が少ないように思う。特に年を重ねた人ほど少ない。それでも誰かに聞いてもらいたい気持ちがあるから、愚痴や自慢を聞いてくれるキャバクラやスナックは潰れないのだろう。「仕事でこんなことをした」「頑張ったね」と仕事の話を上手に聞いて、聞かれてという行為がもっと自然になれば、心の調子を崩す人は減るのではないかと、私は思っている。

 なお、モンキーエンタープライズのホームページを見ると、日光の劇場以外でも、上野公園など関東を中心に路上公演を行っている。夢子や吉澤の活躍も見られるかもしれない。

 次週のザ・ノンフィクションは今週同様若者の新生活をテーマにした『夢と涙の六本木 ~モモとチャムの上京物語~』。夜の六本木でダンサーとして働くため香川から上京したモモと、中学生の時、年齢を偽りキャバクラでアルバイトをしていた栃木から上京したチャムの話。