写真ACからの写真

 今年2月、消費者問題・暮らしの問題に取り組む独立行政法人「国民生活センター」から、近年、神経損傷や火傷の相談が増えているとして、「セルフハイフ」への注意喚起が行われた。このハイフとは、美容クリニックで行われている、高密度焦点式超音波を用いた「たるみ・小顔治療」だが、近年ではエステサロン界にも広まっており、そんな中で、自ら施術を行うセルフハイフが登場した流れだ。

 セルフハイフの特徴は、何と言っても値段の安さ。クリニックでは一般的に、1回10~20万円、機器の種類によっては30~40万円することも珍しくないが、セルフだと1回3,000円程度というケースも。しかし安いからと言って、危険度の高い施術を受けるのは避けたいという心理が働くが、美容クリニックの医師たちは、これをどう見ているのだろうか? 前回は、セルフハイフでの神経損傷や火傷がいかにして起こるのかについて着目したが、今回、東京美容医療クリニック院長・高尚威先生に見解をお聞きしたところ、「私は『セルフハイフは絶対ダメ』という派ではないです」という意見が飛び出した。

セルフよりエステティシャンによる施術のほうが「危険」!?

 ハイフ自体には、確かに神経損傷や火傷のリスクはあるというものの、高先生は、大手セルフハイフサロンは「それなりにちゃんとした機器を使っているのではないか」と見解を述べる。

「エステ用のハイフは、基本的に、医療用のものより出力が低くなければいけません。というのも、ハイフは皮下組織に直接熱エネルギーを加え、“組織を変性”させることによって、たるみを改善するものなのですが、これは医療行為であり、エステで行うと医師法に触れてしまう。つまり、組織を変性させない程度……まぁ、脂肪層をちょっと温めて、一瞬キュッとさせるくらいでなくてはいけないのです。しかし実際には、海外の展示会などで、型落ちになった安価な医療用ハイフを購入し、エステティシャンが勝手に高出力で施術を行っているエステサロンがいっぱいあるんですよ。一方で、全国にフランチャイズ展開しているようなセルフハイフサロンは、事故が起こった際に責任を負うリスクを避けるため、こうした違法性が生じかねない機器は使用していないと思います」

 高先生は、セルフハイフサロンより、エステティシャンが医療用ハイフを使用するエステサロンのほうが「危険度は高いのではないか」という。

「大手セルフハイフサロンで使用されているのは、シャワー型ハイフというものです。もともと低出力に設定されているのに加え、もし火傷しそうになった場合、強い痛みを感じるので、その瞬間にハイフの先端を皮膚から離せば、大きな火傷にはならないと思います。また神経損傷に関しては、どれくらいのレベルかにもよりますが、事前に、皮下の浅いところに神経が通っている部位は『打たないように』と、説明を行えば、避けられるのではないでしょうか。

何よりもスタッフ教育、マニュアル周知の徹底が重要だと感じますね」

 とは言っても、実際に、セルフハイフによる事故例が報告されているわけだが、高先生いわく、セルフに限らずハイフ全般において、「ハンドピースに個体差があること」が、その主たる要因になっているのではないかとのこと。

「ハンドピースは、中国で大量生産されているのですが、品質検査を行う際に、板で行うんです。実際の皮膚に使うには、さらに高い品質が求められますが、板という『固体』と『皮膚』の差によって、問題が起きていることは考えられますね。ハンドピースの先を新しいものに変えたら、急に出力が高くなってしまうといったことが起こるんですよ。そうすると、マニュアル通りにセルフハイフの施術を行っていても、事故が起こる可能性はある。まぁでもこれは、クリニックでも起こりうること。それは部品を供給する側の問題と言え、検品の精度を上げるなどの対応が必要となります」

 高先生によれば、セルフハイフは「イリュージョン」だという。低出力ゆえに、熱エネルギーによって組織を変性させるどころか、皮下脂肪を少し温めて、一瞬、熱収縮を起こす程度に過ぎないといい、「なので小顔になったように思えても、すぐに元に戻ってしまう。3,000円という値段も妥当だと思いますよ」とのこと。

「皮膚は、浅いところから真皮、皮下脂肪、筋層で構成されていて、ハイフは『筋層』にまで熱エネルギー加えると言われ、だからこそすごい、逆に怖いと思われている人もいるでしょうが、本当に『筋層』にまで届いているかなんて、確かめようがないですよね。ガリガリな人と太っている人とでは、皮下脂肪の厚みに差があるので、皮膚から筋層までの距離にも違いが生じるはずなのに、ハイフを受ける際に、皮下脂肪の厚みを考えてハンドピースを変え、照射深度を調整するなんてことはしません。もともと、リフトアップ手術を行う際、この『筋層』を引っ張り上げることから、メーカー側がブランディングとして『熱エネルギーが筋層まで届く』と言っているに過ぎない。

単に、メーカー側の売り文句なんですよ」

 ハイフの知られざるカラクリを明かしてくれた高先生。その上で「セルフハイフ、全然いいと思う」と述べる理由について次のように語ってくれた。

「クリニックでハイフを受けようと思うと、安くても1回10万円、中には30~40万円かかるところもあって、とにかく高額すぎる。でも若い人は特に、そんなにお金は持っていないでしょうし、『受けたいけど受けられない』という状況が生まれていると思うんです。でも、施術を受けたい人誰もが受けられるようになるほうが、みんなが幸せになる。だから僕は、値段の安いセルフハイフが広まることはいいことだと思うんです。もしセルフだと、神経損傷のリスクが……というなら、例えば、神経を傷つけかねない部位にハイフを当てそうになったら、アラームが鳴って停止するようなシステムを搭載するとか、機械を進化させたほうがいいのではないでしょうか」

 ハイフはクリニックでしか受けるべきではないといった“規制”の風潮が生まれると、ハイフ自体の進化を阻止してしまうのではないかとも高先生は言う。「国民生活センター」からのセルフハイフへの注意喚起は、誰もが気軽に、かつ安全に受けることができる施術が広まるにはどうしたらいいか、という問題を考えさせる契機と言えそうだ。

高尚威(こう・しょうい)
東京美容医療クリニック院長。奈良県立医科大学卒業。タカナシクリニックを始め、都内大手美容クリニックに勤務し、17年に東京美容医療クリニックを開院。「高品質な美容医療と続けやすい安心の価格でご提供する、 美のかかりつけ医」をモットーに診療にあたる。


東京美容医療クリニック

編集部おすすめ