北朝鮮の通貨であるウォンは、国内ですら信用度が非常に低く、少額決済を除いては米ドルや中国人民元など、外貨の使用が一般化している。

当局は、過去に繰り返し国内での外貨使用を禁じる布告を出すも、しばらくすればウヤムヤになることを繰り返してきた。

ところが、最近になって北朝鮮ウォンの使用が増えつつあるという。とは言っても、信用度が回復したからではない。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、市場での買い物で北朝鮮ウォンを使うようになったと伝え、その理由を「人民元やドルがいくら便利でも、その量が市場で正常に取引ほどの量がないから」と述べた。

また、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の商人も外貨の流通量が減ったと証言する。

「経済封鎖(対北朝鮮制裁)が続き、外貨の流通が少なくなったことは確かだ。当局は外貨商店や外貨食堂などで外貨を使うように誘導する措置を取ったり、カネを稼いでいる人に忠誠の資金(の供出)を強いたりしているが、それでも数年前と比べて外貨流通量が減っている」

その理由について情報筋は、制裁により北朝鮮国内の外貨の量が減ったことに加え、国民が資産防衛のために外貨を貯め込むため、さらに外貨の流通量が減るという悪循環に陥っていることを挙げた。

また、「(1990年代の大飢饉)『苦難の行軍』が再びやってくる」という不安心理が広がり、消費を手控える雰囲気が広がっていることも理由に挙げた。

しかし、大きな額の取り引きは引き続き外貨で行われている。

「非常に小さい取り引き、コメや肉数キロを売り買いする場合は基本的に北朝鮮ウォンを使うが、1万ドル(約106万円)以上の大きな取引は、可能ならばドルや元で決済する」(情報筋)

1万ドルは、最高紙幣5000北朝鮮ウォンで1万6000枚に達する。単純計算でその重さは16キロ。信用度以前に使い勝手が非常に悪いのだ。

外貨より北朝鮮ウォンを多く使うようになったからと、国民が外貨を好む傾向が変わったわけでは決してないというのが情報筋の見方だ。

「(デビット)カードを使うようになり、北朝鮮ウォンを使うことが増えたが、依然として北朝鮮ウォンの信用は低調だ。農民も外貨を受け取れば喜ぶ」

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の商人も「人々が市場で少額のやり取りをする際には北朝鮮ウォンを主に使うが、10ドル(約1060円)以上は外貨で受け取ろうとする」と述べた。北朝鮮ウォンではなく外貨で支払いすると、割引してくれるほどだという。

一方、北朝鮮ウォンの為替レートは比較的安定している。一般的に外貨流通量が減少すれば外貨の価値が上昇して、為替レートが上がるはずだが、概ね1ドル(約106円)は8000北朝鮮ウォン台、1元(約15円)は1200北朝鮮ウォン台で安定している。

ただ、北朝鮮国内の外貨流通量が減少が続き、北朝鮮ウォンを使用する割合が高まると、レートに変動が起きうるとの見方もある。

韓国国家安保戦略研究院のイム・スホ責任研究委員は「これまでは、北朝鮮ウォンとドルの両替そのものが頻繁に行われず、(為替レートに)反映されなかったが、ドルが希少となり価値が高まる今のような状況が続けば、いつかは(為替相場が)影響を受けるだろう」と述べた。

なぜ、ここまで北朝鮮ウォンが嫌われるのか。咸鏡北道の商人がその理由を詳しく説明した。

「2009年の貨幣改革のとき、当局は強盗のようなやり方で人々は大損害を被ったが、翌年には『個人が外貨を使ってはならない』との布告を出し、素直な人々は手中の外貨を所定の銀行に持っていって両替したが、その後にレートが急上昇した。それ以降は、外貨をヤミで取引するようになった」

「それ以降は、労働党がいかなる指示を出しても、誰も信用しなくなり当局に反感を持つようになった」

今でも北朝鮮国民は、国営の銀行に現金を預けようとせず、タンス預金するのが一般的だ。今後も北朝鮮ウォンが信用度を回復することはないだろうとこの商人は見ている。