「旧正月の連休期間中に、平安南道(ピョンアンナムド)の市場で、りんごがよく売れた」(平安南道の情報筋)

韓国人がこんな話を聞けば、「祭祀(チェサ)に使うから需要が高まったのだろう」と思うことだろう。祭祀とは祖先を祀る儀式で、祭壇に様々なお供え物をした上で儀式を執り行う。

お供え物としてよく使われるのがりんごで、それは北朝鮮とて変わりない。

ところが、りんごが売れている理由がどうやら違うようなのだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の情報筋は、祭祀用としてりんごを買う人もいるとしつつも、こんな需要が多いことを明かした。

「ピンドゥやデンダなど薬物の解毒剤として使うために買う人が多い」

ピンドゥ(氷頭)とは覚せい剤、デンダとはヘロインのことを指すが、りんごを食べると薬物の毒素を解毒してくれる特効薬だというのだ。

もちろん医学的根拠のない噂に過ぎないが、りんごが売れているということはそんな噂を信じている人が多いのと同時に、違法薬物を使っている人が多いことも示す。

「大人でも子どもでも麻薬を使う現象が普遍的に定着した今では、単なる果物として売られていたりんごが、麻薬の解毒剤として使われる笑うに笑えない状況となっている」(情報筋)

ちなみに、現地の市場で売られているりんごのほとんどは中国から輸入されたもので、1キロ5000北朝鮮ウォン(約65円)だ。

一方で北朝鮮産のものはその1.8倍から2倍の値段で売られている。

平安北道(ピョンアンブクト)の別の情報筋も、現地でも「りんごが麻薬の解毒剤」という噂が広まっていると説明し、麻薬や覚せい剤を使い続けると最初は不眠症となり、ひどい場合には統合失調症のような症状が現れたり、皮膚に水ぶくれができるなど、様々な弊害が生じるとも説明した。

しかし、慢性病や強い痛みに苦しめられている人にとって、酒か麻薬に頼る以外の方法はない。それと同様に、麻薬の副作用に苦しめられている人も、藁をもつかむ心情で、りんごに効き目があると信じているのではないか、と述べた。

北朝鮮はかつて、外貨を稼ぐために、麻薬や覚せい剤を国家機関の主導で製造し、海外に輸出していた。やがて、各国政府が取り締まりを強化するようになり、密輸は徐々に下火になった。

皮肉なことに、それが北朝鮮国内で薬物が蔓延するきっかけとなる。薬物の「在庫」もあれば、製造技術も原材料もある。しかし売り先がなくなったため、自ずと国内で流通するようになった。つまり、自らが撒いた種なのだ。