果たして、文在寅氏のリーダーシップはどこにあるのか。
韓国では8月末、文在寅政権や与党との決別を宣言した5人の知識人が出した対談集『一度も経験したことのない国』が4週連続でベストセラー1位となった。その中身は、文在寅政権とその支持グループがいかに腐敗しているかを告発したもで、もちろん、文在寅氏本人にも批判の矛先が向けられている。
そして、著者のひとりであるカン・ヤングTBS(交通放送)記者は、次のような興味深いエピソードを語っている。
〈すごく怖い話を聞きました。民主化運動家出身の、名前だけ言えば誰でもわかる与党系の政治元老の告白です。「実は、文在寅大統領と会った人がいない」。彼の言う脈絡はこうです。金大中、廬武鉉大統領の場合、皆さんが言及した事例からも確認できるように、「私が提案した」「私と話し合った」という話を聞くことが珍しくないんです。しかし文在寅大統領の場合、直接会って、議論して、建議したという話を聞いたことがないというのです。〉
韓国の大統領は、強大な権力を持っている。だから日本の読者には、文在寅政権の対北朝鮮政策や反日外交でも大統領が強いリーダーシップを発揮しているように見えているかもしれない。
しかし実際のところ、トランプ米大統領や日本の菅義偉首相とは異なり、文在寅氏はメディアの前に登場することが極めて少ないのだ。韓国にいる筆者の知人の中にも、こうした大統領の「不在」に、強い違和感を覚えている向きは少なくない。
23日に発表された韓国リアルメーターの世論調査によれば、文在寅大統領も与党も支持率を落としている。秋法相と尹総長のバトルが激化すれば、いっそうの下落もあり得るだろう。文在寅氏が事態の収拾に乗り出すのか、あるいは収集する能力を見せるかどうかに、彼がどのような存在であるかをうかがうヒントを見出せるかもしれない。