中国の習近平国家主席による7年ぶりの訪朝は、北東アジアの安全保障環境にひとつの重い現実を突き付けた。

北朝鮮国営メディアが伝えた首脳会談の内容を見る限り、両首脳は政治、経済、安全保障分野での協力強化を確認した。

しかし、そこには「非核化」の文字が見当たらない。

もちろん、中国が北朝鮮を正式な核保有国として認めたわけではない。だが少なくとも、北京が金正恩政権に核放棄を迫る意思も手段も持たないことは改めて明白になった。

国際社会は今後も北朝鮮の核開発を非難し続けるだろう。しかし現実には、北朝鮮の核保有を止める有効な手段も、そのために積極的に動く主体は見当たらない。今回の首脳会談は、その厳しい現実を改めて示したと言える。

だが、ここで見落としてはならないことがある。北朝鮮の脅威は核兵器だけではないということだ。

むしろ、今この瞬間にも世界各国が被害を受け続けているのは、サイバー空間における脅威である。

北朝鮮と関連するハッカー集団は、暗号資産取引所やブロックチェーン企業への攻撃を繰り返し、巨額の資金を奪ってきたとされる。米国や韓国、日本の当局は、こうした活動が核・ミサイル開発資金の重要な供給源になっているとの見方を示してきた。

しかし、この問題に対する国際社会の対応は十分とは言い難い。

核開発に対しては国連制裁や輸出規制、金融制裁など多層的な包囲網が存在する。一方でサイバー攻撃は国境を越えて行われ、攻撃者の特定も難しい。盗まれた暗号資産は複雑な経路で資金洗浄され、回収も容易ではない。

しかも北朝鮮にとって、この分野は極めて効率の良い「戦場」である。

核兵器は莫大な費用と長い開発期間を必要とし、使用すれば全面戦争の危険を伴う。

だがサイバー攻撃は違う。比較的少ない投資で実行でき、直接的な軍事報復を受ける可能性も低い。さらに成功すれば外貨を獲得できる。

核兵器を使えば金正恩体制はオシマイだろうが、サイバー攻撃は毎日使える。

この違いは決定的だ。

金正恩政権にとってサイバー戦は、核兵器以上に「実用的な戦略資産」となっている可能性がある。そして今回の中朝首脳会談は、その現実を間接的に浮き彫りにした。

国際社会が北朝鮮の核保有という既成事実への対応に追われる一方で、サイバー脅威は日々拡大している。中国もロシアも、この問題で北朝鮮に強い圧力を加えるとは思えない。

日本にとっても決して他人事ではない。金融機関、暗号資産事業者、インフラ企業、さらには一般市民の資産までもが攻撃対象となり得る時代である。

今回の平壌会談を「非核化の後退」という視点だけで捉えるのは不十分だろう。

私たちが直視すべきなのは、核兵器だけではない。核の陰に隠れながら着実に拡大しているサイバー戦能力こそ、金正恩体制が世界に与えているもうひとつの脅威なのである。

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