2009年8月、バーケンフェルドは脱税幇助の罪で40カ月(3年4カ月)の収監と、釈放後の3年間の執行猶予(監視)の刑が科せられた。しかしそのとき、彼は途方もない幸運を手にしていた。2006年半ばに、IRSがホイッスルブロアーに対する報償制度を創設したのだ。
新たに施行された法律によれば、内部告発者にはその情報によって米国民が得た利益の15~30%の報償が与えられる。バーケンフェルドの場合は、算出の基準となるのはUBSが支払った7億8000万ドルの罰金のうち、SEC(証券取引委員会)の取り分である2億ドルを除いた約5億8000万ドルだ。
2012年8月、品行方正により刑期を31カ月(2年半)に短縮されたバーケンフェルドは刑務所を出てニューハンプシャーに向かった。3年間の執行猶予を過ごすのに北東部のこの州を選んだのは、「われに自由を、さもなくば死を」をモットーとするこの地に(州)所得税がないからだった。
9月初旬、バーケンフェルドに1億4000万ドル(約150億円)という莫大な報償が支払われた――実際に受領したのは、連邦所得税を控除したあとの約7600万ドル(約83億円)。こうして、アメリカの納税者の「正義」のためにたたかい、国家に裏切られて投獄され、最後は億万長者として報われた「ヒーロー」の物語は完結するのだ。
橘 玲(たちばな あきら)
作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』『橘玲の中国私論』(ダイヤモンド社)『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)など。ダイヤモンド社から発売即大幅重版となっている新刊『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』が好評発売中。
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アメリカ人ってろくでもない奴ばかりだな
何がヒーローだ。倫理観も人間性も最悪で強欲な害虫のようなずる賢い男と取引する、がん細胞のような同胞たち。このがん細胞が得た金は脱税やマネーロンダリング、また真っ当な国民の税金負担によるものなのだろう。