このことは、コンゴではなくたまたまアメリカで生まれたというだけで、その人の所得が93倍になることを示している(100%は2倍)。グローバルな不平等の3分の2は、そのひとの住んでいる国というひとつの変数だけで(統計学的には)説明できてしまう。
次にミラノヴィチは、それぞれの国のゆたかな10%と貧しい10%に注目して市民権プレミアムを計測した。
それによると、スウェーデンの下位10%の市民権プレミアムは1万400%(平均は7100%)だがブラジルは900%(平均は1300%)だ。一方、スウェーデンの所得分布の上位10%の市民権プレミアムが(貧困層の1万400%から)4600%に縮小するのに対して、ブラジルでは(900%から)1700%にまで拡大している。
なぜこのようなことになるかというと、それぞれの国で経済格差の実態が異なるからだ。
スウェーデンのような福祉国家は富裕層と貧困層の格差がそれほど大きくないが、コンゴのような最貧国は格差が大きい。その結果、スウェーデンの貧困層はコンゴの貧困層より100倍もゆたかだが、富裕層は47倍しかゆたかではない。一方、中進国で格差の大きいブラジルの富裕層はコンゴの富裕層の18倍もゆたかなのに、貧困層は10倍しかゆたかではない。
グローバルな経済格差の歪みは、平等な福祉国家にとってやっかいな問題を引き起こす。
スウェーデンとアメリカの平均所得が同じだとすれば、(所得分布が相手国の底辺部分に入る)貧しい移民希望者はアメリカよりもスウェーデンを目指すべきだ。なぜならスウェーデンの貧しいひとたちの方が、(平均的には)アメリカの貧困層よりずっと大きな市民権プレミアムをもっているのだから。