ダイヤモンド・オンラインの特集「JAL vs ANA新ハワイ対戦」では、全日本空輸(ANA)が超大型機エアバスA380を引っ提げ、日本航空(JAL)の牙城であるハワイ市場に挑む様子を取り上げている。ハワイ戦線ではグループの旅行会社、ANAセールスの営業力強化も成功の鍵を握る。

宮川純一郎・ANA上席執行役員営業センター長兼ANAセールス社長に話を聞いた。(ダイヤモンド編集部 柳澤里佳)

パッケージツアー、インターネット予約、修学旅行
あらゆるチャネルでハワイ旅行を売りまくる

――ANAは5月、成田~ホノルル線に超大型機エアバスA380を導入しました。7月からは2機目も入り、週10便運航しています。ファーストクラスからエコノミークラスまで520席もあり、旅行商品との連携販売も欠かせません。どのように集客しますか。

 従来型のパッケージツアーに加えて、インターネット予約の航空券とホテルを組み合わせるダイナミックパッケージ、それから団体旅行など、あらゆるチャネルで販売を強化しています。

旅行商品だけでなく航空券の販売もしているので、例えばJTBさんにうちの飛行機を使った旅行商品を作ってもらうことなどを働き掛けています。

 ANAはこの10~15年くらいビジネス出張路線を中心に展開してきました。いわゆる旅行ツアー用の座席は数が限られているので、ANAセールスは限られた座席をハイクオリティーな旅行商品にしようとシフトしてきたんです。ヨーロッパの添乗員付きの高級商品は代理店販売をやめて、直販に特化し、より品質を重視しました。

 ただ、ハワイだけは別。A380によりキャパシティーが大きくなるので、ANAグループ全体で戦略を転換しています。

旅行商品としても積極的に売っていかないと席が埋まらない。全部のチャネルから全部のお客さんを取っていきます。

 旅行に関する購買行動は変化しています。国内旅行は店舗に行ってパンフレットを見ながら旅行商品を選ぶというよりも、ネットで予約する方が主流になって久しいです。海外はまだパッケージツアーが多いですが、伸びしろとしては断然ネットです。ダイナミックパッケージの販売は対前年で2倍以上に伸びています。

――ハワイ旅行で圧倒的なプレーヤーとしては最大手のJTBと2番手のエイチ・アイ・エスがいる。その次にJALパックがいて、ANAセールスはかなり離れて4番手です。

 A380の3号機を導入した後、「2021年JALパックに追い付け追い越せ」をスローガンに掲げています。

 導入が決まった3年前から準備は進めてきました。団体旅行の受け付けは他社が1年前からなのを、うちは2年前からにしています。修学旅行でハワイに行く学校は全国に150校以上ありますが、A380なら1回で全員乗っていけるのが強みで、大きく伸ばしています。

企業の報奨旅行でも一度に数百人から千人単位の大規模なものがあり、これも積極的に受けられるようになりました。

 それからハワイ限定の旅行積み立てで、A380にちなんで「3.8%」のプランを出しています。この超低金利時代に3.8%の旅行積み立てはすごくお得ですよ!

――難しい点や、見えてきた課題は。

 富裕層の開拓が課題ですね。3機目が入ってきて以降、ファーストクラスとビジネスクラスにどれだけ乗っていただくか。ハワイにファーストクラスで行く層が一定数いることは分かっているのですが、うちが今まで全くリーチしていなかった層なので。

――どうやって開拓するのですか。

 デパートの外商やクレジットカードのブラックカードを利用する層にどうやってリーチするか。自力だけではできないので、例えば証券会社や不動産関係とコラボレーションしたりしています。

 あるいはANAマイレージ会員でハイエンドのお客さまをつかまえたい。マイレージ会員へのインセンティブを有効に使うことで、マイレージ会員と旅行ユーザーが重なる部分が多くなれば顧客のデータベースも作れるし、効果的なマーケティングができるはずです。

「オッサンのエアライン」から
ミレニアム世代も乗るANAにしたい

 それから新しい需要、若い客層を増やしていきたい。

ハワイはリピーターが多い市場ですが、そのリピーターも高齢化しています。ハワイ州の観光局でも(日本人の)次世代の客を開拓してつないでいくことを課題に感じています。

 そういう意味でもうちのA380はウミガメの塗装をした「フライング・ホヌ」で、3世代旅行を含め、若者や若いファミリーの関心を引く飛行機になっている。

 JTB総研の調査では、ミレニアム世代がハワイに行きたいと答えた割合が、意外と多かった。ところがANAの顧客年齢は高く、「オッサンのエアライン」なわけですよ。ここを変えるためにも、若い世代にハワイでアピールしたい。

――ハワイ市場はANAの供給だけでなく、2020年の羽田空港発着枠拡大により、他社による供給も増えそうですが、競争激化の懸念はないですか。

 心配はあります。だからANAグループ全体で営業戦略を考えています。

 大昔に国際線を旅行需要で売っていた時代から、ビジネス出張に集中していたので、テレビCMもやっていなかったですし、ANAが旅行を前面に打ち出すこと自体がすごく久しぶりなんです。せっかく女優の綾瀬はるかさんをイメージキャラクターに起用しているのに、旅行パンフレットに出すことすら最初はしていなかった。もったいないから掲載しようと私が言って、このパンフの表紙もワイキキビーチの写真からフライング・ホヌの写真に代えて、「地方から成田・羽田への国内線乗り継ぎは無料ですよ」と前面に打ち出した。

 どの旅行会社もワイキキビーチがパンフの表紙でしょ? それじゃ面白くない。グループ内で会社の垣根を越えて連携して、かつ競合と差別化を図らないと、「ANA経済圏」が広がらない。

 地方のお客さまのポテンシャルは大きくて、まず「パスポートを取りましょう」キャンペーンをやりたいですね。

 少子高齢化、人口減少時代で旅行する人は減ると思われていますけど、そうじゃない。ANAグループのLCC(格安航空会社)、ピーチ・アビエーションでは「1年間に何回も飛行機に乗るようになりました」というファンをつくった。だから国内線の乗客はそれほど落ち込んでいない。今まで飛行機に乗っていなかった人が乗るようになれば、需要はつくれる。特にハワイはそういうポテンシャルがありますよね。A380ならなおさらです。

――東南アジアや中国の人が成田乗り継ぎでハワイに行く需要は想定していますか。

 まだ明確ではないが、ひょっとすると入ってくるかもしれません。

 日本の旅行会社ってインバウンドで苦戦していて、どこももうかっていないと思う。ANA便で来日してANAの国内線を使う訪日客が片道ベースで年間180万人いらっしゃる。それだけの数がいらっしゃるのだから、もったいない。アジア~成田~ホノルルの3国間流動で売っていくことも将来的には大事でしょう。