先月、米食品医薬品局は8~12歳の子どもの注意欠陥多動性障害(ADHD)治療用アプリケーションを承認。医師が処方する世界初のADHD用デジタル療法だ。

 米アキリ・インタラクティブが開発した治療用アプリは、ホバーボートに乗ったキャラクターを操作して冒険の旅に出て、さまざまなハードルをクリアしていくゲーム仕様。ADHDのうち、不注意優勢型または混合型と呼ばれるタイプが適応症だ。

 一見、普通のゲームのようだが、ADHDの原因と考えられている前頭前野(抑制やワーキングメモリーなどを担当)の働きを刺激して神経系を活性化させる工夫が凝らされている。

 気をそらせる仕掛けを無視して「Go(進む)」か「noGo(進まない)」かを瞬時に判断し、並行してタブレットを動かしてキャラクターの位置を操作するなど、集中力と感覚運動機能の訓練ができるのだ。子どもの特性と進歩に合わせ、訓練レベルをリアルタイムに調整できる点も興味深い。

 承認に際して行われた臨床試験では、ADHDと厳密に診断された8~12歳の子どもたち348人を、治療用アプリ群と一般アプリ(単語つづりゲーム)群にランダムに割り振り、1日5回(合計25分)、週5日の頻度で4週間ゲームを楽しんでもらった。

 その前後で子どもの注意力を測定した結果、治療用アプリ群で注意力が有意に改善。また半数以上の親が「子どもの不注意が改善された」と評価している。副作用は、イライラ感や頭痛などであった。

 ADHD不注意優勢型の子どもは気が散りやすく、うっかりミスや先延ばし癖などから学校生活や学習に支障を来すことが多い。周囲の理解がない場合は、自己否定と疎外感に押しつぶされて不登校や適応障害を起こすこともある。

 友だちや周囲の目を気にせずに、遊びながら注意力を育てる手段が登場したことは、当事者の子どもにとっても福音だろう。

 日本では塩野義製薬が同アプリの第II相臨床試験を進めている。投薬と行動療法を補完する第三の治療法として期待したい。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)