腕時計大手でセイコーホールディングス名誉会長の服部禮次郎氏が1月22日、死去した。享年92歳。
「世界のセイコー」の総帥として20年以上グループを治めてきたが、今後は養子縁組をした甥の服部真二・同社会長兼グループCEO(60歳)が名実ともにその役目を担うこととなる。

 セイコーは、業績不振の理由などから2010年に真二氏が社長に就任して、改革を進めてきており、一部で成果が上がっている。

 例えば、銀座四丁目の時計台で有名な百貨店「和光」は、売上高が全体の1割に満たないものの、セイコーの中でも赤字を垂れ流す、業績不振の象徴的な存在だった。

 何をしたかといえば、セイコーの艦隊店として、腕時計販売店を玄関そばに置いた。休日を減らし営業時間の延長なども実施。さらに関連店舗の集約をし、在庫管理の効率化も実施するなど、ようやく今年度に営業黒字に転換できる見通しになったのだ。

 主力の腕時計事業にも新たな芽が出ている。これは12年9月に発売された新機種「アストロン」で、GPS機能を使うことで世界のどこにいても時間が補正できるもの。新機能がファンの心をつかみ、販売も目標を達成できる勢いだ。

 しかしながら、経営の数値を見れば改革の効果は微々たるもので、セイコーの前途は多難である。10年に掲げた中期経営計画の目標値と現実がかけ離れているのだ。

 わかりやすいのが売上高。

今年度の目標4100億円に対して2900億円になる見込み、営業利益も210億円に対して95億円にとどまる見通しだ。

 最も大きな要因は、稼ぎ頭である電子部品製造セイコーインスツルの不振。09年に完全子会社化して、電子部品事業で伸ばす予定だったが、この3年間で需要の落ち込みを始め、東日本大震災や円高、タイ洪水被害などが重なった。「雇用調整を行い、今年度のボーナスは全額カットで耐えている」(インスツル関係者)という厳しい状況で、営業利益は目標値より80億円のマイナスであり、足を引っ張っているのだ。結果、借入金を2000億円以下に減らす目標も達成できそうにない。

 にもかかわらず、「経営陣に危機感が足りなさすぎる」(内部事情に詳しい関係者)。

本来は、電子部品に変わる成長の糧をグループ全体で創出しなければならないが、今何をしているかといえば、扱う商品が高級品ばかりで「百貨店の中の百貨店」と言われる和光で、招待客限定の格安販売セールを初めて実施し、「経営幹部が社員とハイタッチをして喜んでいる」(関係者)と言うのだ。

 真二氏は12年9月に持ち株社長から会長兼グループCEOへと立場を変えた。「グループ全体を掌握して長期的な視点で経営をする」(秘書・広報部)と言うのが理由だが、真二氏の描く長期戦略は見えてこない。このままではすでに行っている事業譲渡や資産の切り売りを加速せざるをなくなり、セイコーがどんどんと縮小していくばかりである。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 小島健志)