このように板門店は、韓国と北朝鮮の軍事的緊張の最前線なのだが、(すくなくとも私が訪ねた2005年の時点では)そこに観光客向けの演出めいたものを感じずにはいられなかった。板門店ツアーの最大の目玉は、微動だにしない兵士の隣で記念写真を撮ることなのだ。
ガイドの説明では、板門店ツアーの収入は北朝鮮側にも分配されているという。その話を聞くと、軍事分界線の向こう側の北朝鮮兵士の行動も、緊張感を演出する一種の観光サービスのように思えてくる。
中国・延辺朝鮮自治州は北朝鮮の出張所!?私が北朝鮮領を目にしたのは、板門店以外では、中朝国境の延辺朝鮮自治州の州都・延吉から1日ツアーで長白山(朝鮮名・白頭山)に行ったときだ。
延辺朝鮮自治州は、その名のとおり、中国に暮らす朝鮮族の土地で、延吉の街は看板からバスの時刻表まで中国語とハングル(朝鮮語)が併記され、繁華街には狗肉や冷麺のレストランが並んでいる。中国国内の少数民族の自治州はどこも漢族が経済の実権を握っていて、それが民族紛争の温床になっているが、延辺朝鮮自治州では朝鮮族は経済的にも漢族と伍しているようだ。
朝鮮族の伝説上の王・檀君が白頭山に最初の国を興したという神話があるように、韓国では延辺は朝鮮族の土地だとされている。領土をめぐるやっかいな問題には立ち入らないが、延辺の朝鮮族は北朝鮮のひとびとと同じ言葉を話す同族で、彼らが中朝貿易を実質的に担っている。