お金儲けの神様「邱永漢」人生最後の弟子で、2005年より中国四川省成都に在住。日本生まれの韓国人で、現在はグループ会社3社の社長兼取締役を勤める金さん。

邱先生との日々はまさに「邱永漢学校」とも呼べるもの。その中で、今も金さんのこころに残る、邱先生の言葉を紹介してもらいましょう。

「これ、僕の新しい本だから読んでご覧なさい。お金持ちになりたいでしょ」と微笑みながら、邱永漢は私に本を手渡しました。

 本のタイトルは『お金持ちになれる人』。

 これまで過去の事業、とりわけ事業の立ち上げ期の話を書いてきました。

まあ、失敗ばっかりなわけですが、それ以降も失敗を通じてたくさんを学び、そしてまた師匠である邱永漢に学んできました。

 我が師、邱永漢は「お金儲けの神様」として世に知られておりました。生前、たくさんの事業を生み出し、たくさんの事業家を育て、そしてなによりお金持ちになるために必要な思想をこの世に残してきました。それだけでなく、仕事、知恵、行動、人が生きていくための思想、そしてお金と幸せの関係を解き明かしてきました。

 そんな師匠の横で、生の邱永漢から聞いた話が、私の血となり肉となり、私の人生と思想に深く影響を与えてきたわけです。邱永漢の弟子は私一人ではありませんので弟子一人ひとりの理解は違うと思いますが、これから数回は、私がこの「邱永漢学校」で何を学んだのかをお話したいと思います。

相続財産は100億円以上

 私が邱永漢から受けた相続は100億円以上です。――というと驚くかもしれませんが、もちろん現金で受け取ったわけではありません。

 私はこの約10年間で、邱永漢のやり方に学び、それを実行し、数億、数十億、そして100億を超える資産をつくった人を見てきました。だからこそ、邱永漢から譲り受けた「思想」には100億円以上の価値があると思うのです。

「思想」というのは、もっとも効率のよい相続資産ではないかと思います。

 第一に、相続税がかからない。

また相続額が無制限。
 第二に、相続人(相続を受ける人)を特定しない。

 私が受け取った資産はかように価値があるもので、生きる指針としてたいへん意味があるものだと思います。

 邱永漢は、自分の本ができると弟子の私たちに一冊ずつプレゼントしてくれました。かならず、裏表紙に万年筆で手書きの一言を添えて。例えば株に興味がある人なら「株の儲けはガマン料」という具合です。


 邱永漢の本に、『お金持ちになれる人』があります。私がプレゼントされた本の裏表紙にはこう書いてあります。

「一円玉でもしっかり拾って下さい」

 どんな言葉がしたためられているか毎回楽しみにしていた私は、お金持ちになれる秘密を期待しながら手に取った本に「一円玉でも……」とあるのを見て、苦笑せざるを得ませんでした。というか、思わずその一文に見入ってしまいました。

 数学でその昔、線は点の集合であると習いましたが、同様に大きなお金は1円の集合体でしかないわけです。だからその1円を大切にできる人だけが、お金持ちになれるというわけです。


 たしかにまわりを見渡すと、お金持ちになれない人はお金にだらしない人が多く、お金を大切にしていません。

 先日、従業員の宿舎に掃除に行きました。そしたら出るわ出るわ、枕の下、トイレの便器の横、洗い場の下、ベッドの下とあらゆるところで小銭が見つかるのです。それを見て私は、「あのね、お金持ちになる準備ができていないから、君たちのお金はまだ多くないんですよ」と話したくなるわけです。

 車の中を見ても、このことはよくわかります。お金の貯まらない人は、サイドポケット、灰皿入れなど、車のあちこちに小銭が散らばっています。
これがお金持ちになれない人の共通の特徴です。

お金持ちになれる人、なれない人

 お金持ちへのスタートは、まず種銭を貯めることです。

 当然のことながら、事業を始めるにも、投資を始めるにも元手が必要です。すっからかんで何かをスタートできるわけはありません。そもそもお金がない人と は、収入がない人ではなくて、収入があってもすぐに使ってしまう人のことをいいます。では、種銭を貯めるにはどうしたらいいか?

お金持ちになれない人:収入⇒支出⇒貯蓄(使った残りを貯蓄する)
お金持ちになる人 :収入⇒貯蓄⇒支出(まず貯蓄を先取りしてから使う)

 邱永漢は、こう言っています。

「種銭をためること。ケチケチ3年、ケチ7年」

 ケチケチして我慢に我慢を重ねて3年たったところで、ある程度貯まったなと思ったときに気を抜くのでなく、さらにケチを続けてみる。それぐらいの気持ちが必要ということです。

 最後に。お金持ちとはどんな人のことか?

「お金持ちとは、お金に認められた人のこと」

 つまり、そのお金を持つ器ができているかどうかが肝心なのです。

 皆さんも聞いたことのある話だとは思いますが、アメリカで1億円以上の宝くじの高額当選者を追跡調査したところ、ゆたかになるどころか当選前より貧しくなっていた人がほとんどだったといいます。お金を持つ器ができていないのにお金が舞い込んでも、すぐに離れていってしまうのです。

 邱永漢は、お金に認められるポイントとして次のように書いています。

「お金を容れる器」は生まれながらにして備わっている物ではありません。人に作ってもらえるものでもありません。「節約、勤勉、奇策」と司馬遷も史記の中 で述べていますが、私につけくわえるものがあるとすれば、時代の移り変わりを見てそれに対応できるだけの能力とでも言ったらいいでしょうか。(『お金持ち になる人』より)

 お金持ちになるためには、お金を大切にし、種銭を貯めることに一生懸命励み、そしてお金に認められるような器を持つ人間になること。

 今日から、1円玉でもしっかりと拾ってください。

(文/写真・金伸行)