白のドイツのユニフォームを着たサポーターたちは、トラムに乗り込むや壁や天井を叩き、足を踏み鳴らして応援歌を歌い始めます。私の前には年配の夫婦が座っていて、奥さんは車内の馬鹿騒ぎを完全無視でずっと窓の外を見ています。でも夫はどこかもじもじしていて、やがてスマホを取り出すとサポーターの写真を撮り、次は彼らといっしょに自撮りし、ドイツ国歌が始まるととうとうガマンできなくなって、サポーターたちといっしょに大声で歌いはじめました。どうやら彼もドイツ人で、奥さんの手前、最初はおとなしくしていたようなのです。
面白かったのは、同じトラムに乗っていた数少ないイタリアのサポーターが自分たちの応援歌を歌いはじめたときです。それを聞くとドイツ人は喜んで手を叩き、ちゃんと最後まで終わるのを待って、より大きな声で自分たちの応援歌を歌いだすのです。
そのやりとりを見ていて、EUROのサポーターの約束事がなんとなくわかりました。自分たちの「愛国心」を楽しむためには、ライバルの「愛国心」を尊重しなければなりません。そうやってどちらの愛国心=チーム愛がイケてるかを競いあうのが祝祭のルールなのです。――フーリガンは愛国心を楽しむことができないからバカにされるのです。
この約束事さえ守っていれば、国旗をまとって愛国心を誇示し、街なかで大騒ぎしても嫌がられるどころか、大歓迎されます。それを見ながら、同じことが日本でできるようになるのはいつになるか考え、ちょっとうらやましくなりました。