若者を集めるVRアトラクション施設「SoReal」を体験
北京市内のショッピングモールの地下、約5000平方メートルの空間に居を構えるのが、VRを利用したアトラクションを提供するSoRealだ。今回、実際の施設内のアトラクションを体験させてもらった。
7つのゲームエリアに10種類ほどのアクションゲームがある、最も人気があるゲームは大空間を自由に移動できる多人数協力型のゲーム(PVP)と多人数でチームに別れ対戦するゲーム(PVE)である。
独自に開発したゲームで大会を開催しユーザーを獲得したり、シアター作品のために人気小説とタイアップしたりするなど、SoRealのコンテンツに対するこだわりは強い。
それもそのはずで、SoRealを運営するSky Limit Entertainment社の創業者陣には、中国映画界を代表する巨匠チャン・イーモウ(張芸謀)監督が名を連ねているのだ。何を隠そう、2022年に予定されている北京オリンピック(冬季)の開会式の演出も、チャン・イーモウ(張芸謀)監督が総監督を務めている。中国を代表するクリエイターが同社のコンテンツの面白さを主導しているといえる。
軍用から転用した独自技術でVRの可能性を拡げる
質の高いコンテンツを送り出し続けているSky Limit Entertainment社だが、その事業は単なるアトラクション施設の運営にとどまらない。国営プロジェクトへ参画し、AVIC TRUST、Lenovo Capital、Mango V Foundation、深圳韦玥创意投资集团、Intelといった名だたる企業を、グループの戦略投資株主として迎えている。彼らの本来の強みは、コンテンツの下地となる技術を独自開発していることにあるのだ。Ma Zihan:弊社の乗り物設備は軍用技術を民用化にしています。コア技術チームは中国航天集団から来た方で、昔は多数の軍事産業領域の重要プロジェクトに参加し、ロケットエンジン装置や、戦車シミュレーター等を経験してきました。モーションシミュレーションと多自由度運動システム領域で深い経験を持っています
自社技術に自信を持つ副社長の Ma Zihan氏は、SoRealは経営戦略の一部でしかないと話す。
Ma Zihan:技術は展示しないと誰の目にも触れられず、広まっていきません。SoRealはいわば私達の技術展示をする場所なんです。世界的に見ても、VRを扱う会社は2パターンに分類されます。ひとつはコンテンツのみを制作する会社。もうひとつはハードウェアや設備の研究開発のみを行っている会社。現在我々みたいに自ら独自コンテンツクリエイティブ及びウェアラブル端末研究開発ができる会社は非常に少ない。ハードウェアと言っても、ゴーグルの開発は行っておらず、VR体験を拡充させるための技術、例えば位置情報等を計測するためのバックパック型コンピューターに、シアター用の座席などを開発しています
ゴーグルの開発を競う企業が多くいる中で、周辺機器の開発に特化していることが多くの企業から提携を求められる理由だという。
外部センサーが不要というのは、VR市場を広げていく上で大きなメリットになる。というのもVRコンテンツを提供するための設備投資コストが格段に安くなるからだ。
Ma Zihan:5Gが普及してもSoRealで提供するようなアトラクションには大きな変化はないかもしれません。しかし、同じ体験を個人が自宅などで体験できるようになります。そのためにコンシューマー向けの製品も開発中です。市場はますます広がっていくでしょう
デジタルシフト時代の覇権争い。VRもキーワードのひとつ
この数年で技術開発も進み、機器自体もコンパクトになった。ハード面でもインフラ面でも手軽さを手に入れ、さらなる普及期に足を踏み入れようとしているVR市場へ大きな期待をかけるのが中国政府だ。Sky Limit Entertainment社は、政府とともに、訳266万平米もある土地で、VRをテーマとしたスマートシティの建設に取り掛かっているという。※開発エリアの写真(歴史のある鉄工所を利用する予定)
インターネットの時代はアメリカが世界のトップだったといえよう。しかし、これからはAIやブロックチェーンといった新たなテックトレンドが社会・経済を変革していく。これらのテクノロジー開発で先頭に立ち、世界経済の発展をけん引するのはアメリカではなく中国かもしれない。そんな重要なテックトレンドのひとつとして、VRが中国政府に注目されているのだ。市場の拡大予測とともに事業規模も大きくなるSky Limit Entertainment社だが、その根底にあるのは、中国の文化を広めたいという想いだとMa Zihan氏は語ってくれた。
Ma Zihan:日本は漫画やアニメ、ゲームといったコンテンツで、自国の文化を世界に広めています。韓国は韓流ドラマですね。一方中国はそうしたコンテンツによる文化の発信が弱いんです。VRを活かしたコンテンツで、中国の新しく面白い文化を世界へ広げていきたいですね