現在、医薬品開発は、試行錯誤の創薬研究や臨床試験に依存し、膨大な時間とコストがかかっている。
一方で、この基盤構築作業における医療機関での臨床情報の収集システムは、医療現場における作業負担を軽減するとともに、収集したデータを大学や研究機関が適切に活用できるように、インフォームド・コンセントによる患者同意が必要になる。そのためには、患者への説明や同意の取得、問診による臨床データの収集など、適切かつ最適な内容で情報を収集するシステムを構築することが重要だ。
これら課題に対し、日本IBMは本事業における役割として、医師や看護師が必要なデータを適切かつ手間をかけずに入手できるよう、生成AIを活用して患者への説明や同意を取得する「対話型疾患説明生成AI」および「患者説明・同意取得支援AI」、来院前に入力したWeb問診結果を生成AIが解析する「問診生成AI」、患者の治療やケアについて医療関係者間で情報共有する看護カンファレンスの内容の自動音声入力や看護師と患者との電話応対記録を自動作成する「看護音声入力生成AI」の開発と動作検証を進めている。
このたび、本事業における進捗として、本年8月から、乳がんの患者に対する「対話型疾患説明生成AI」の実運用を開始した。引き続き、医薬基盤・健康・栄養研究所、大阪国際がんセンターおよび日本IBMが協力し、臨床研究の推進と医療従事者の業務効率化を実現できるよう、関係者が一丸となって取り組んでいく。
■対話型乳がん疾患説明生成AIの導入について〉
8月から、乳腺・内分泌外科(乳腺)の外来初診患者向けに運用を開始した「対話型乳がん疾患説明生成AI」は、AIアバターと生成AIチャットボットを組み合わせた双方向型の会話システムである。患者は、受診前にQRコードからwebブラウザーにアクセスし、診療前の自由なタイミングで疾患の説明動画を視聴したり、疑問点をチャットボットへキーボードや音声で入力して生成AIと対話形式で質問することで、疾患と治療に対する理解を深めることができる。対話型疾患説明生成AIシステムは、IBMのAI およびデータのプラットフォームであるIBM watsonxでAI基盤を構築し、IBM watsonx.ai でサポートされている最新の大規模言語モデル(LLM)を活用している。via プレスリリース乳がんは、日本人女性のがん罹患数の中で最も多く*、大阪国際がんセンター 乳腺・内分泌外科の乳がん手術件数は2022年には600件を超えた。乳がんは、根治性に加え整容性にも配慮し、患者のライフスタイルや希望に合わせた治療法を選択するなど診療内容が複雑なため、疾患説明と同意取得におおよそ1時間を要していた。今回、「対話型乳がん疾患説明生成AI」の導入により、説明と同意取得に要する時間の30%軽減を目指す。「対話型乳がん疾患説明生成AI」を利用した患者からは、「インターネットに不確実な医療情報が溢れている中で確かな情報が得られることが有益である」、「生成AIが、分からないことに『分からない』と回答することに信頼感を持つことができる」、「待ち時間中に疾患の説明や同意取得を済ませることができ、家族も一緒に疑問を解消できることが有益である」、「診察中に医師へ質問することに申し訳なさを感じていたが、事前にAIに何回も質問することで不安を和らげることができた」との感想があった。また、医療従事者側からも「問い合わせ番号との紐付けにより、質問内容を事前に医師が把握できていることが有益である」とのコメントもあった。
■日本IBMによる今後の作業予定
今後、「対話型乳がん疾患説明生成AI」において、患者からの質問内容を詳細に分析し、さらなる精度向上を図っていく。また「対話型乳がん疾患説明生成AI」で確立した「対話型疾患説明生成AI」と「患者説明・同意取得支援AI」を、大阪国際がんセンターを受診する多くの患者の医療情報を網羅的な解析や、特定のがん種において医薬基盤・健康・栄養研究所の最新の技術で解析する「前向き研究」の説明と同意取得を、患者に向けて提供すべく準備を進めている。また、食道、胃、大腸などを取り扱う「消化管内科」でも対話型疾患説明生成AIの運用を2025年1月から開始する予定である。そして2025年2月には、3つの生成AIシステムの展開を予定している。• 来院前に入力したWeb問診結果を生成AIが解析し、医師が診察前に患者の状態を把握することで、患者に寄り添った診察を支援する「問診生成AI」
• 看護カンファレンス内容の自動音声入力し看護記録作成を支援し、看護師と患者との電話応対記録を自動作成して電話記録業務を効率化する「看護音声入力生成AI」
• 電子カルテの情報からさまざまな医療文書に必要な項目を選んで、文書の作成を支援する「書類作成・サマリー作成」
生成AIを実臨床の現場で活用するためには、医療現場の実情を正しく理解して真に役立つサービスを提供する一方で、AIを用いる場合のリスクを把握し、より安全な運用体制を構築する必要がある。三者は、今後、生成AIを医療現場に導入し、患者や医療従事者にとって役立つAIサービスを安全に利用できる仕組みを目指していく。
*: 厚生労働省「全国がん登録 罹患数・率 報告」
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