マグロ船に乗って一山稼ぐ……みたいな冗談をみんなよく飲み会の席でいうのですが、それではそんなマグロ船の暮らしってどんなもの? 

その素朴な疑問をマグロ船に乗ったことのある元サラリーマンにマグロ漁船の中の実体を聞いてみた。
伺ったのは『会社人生に必要なことはすべてマグロ船で教わった』(マイコミ新書刊)という本の著者・齊藤正明さん。


えーっといきなりで恐縮ですが、マグロ漁船の中ってどんな暮らしなんですか?

「朝6時にお仕事開始で、終わるのが翌朝4時。途中、昼寝の時間もあるにはありますが、少なく見積もっても1日17時間の肉体労働です」
と齊藤さん。聞いただけでも辛そう。やっぱりマグロの漁師さんって、ホントやっぱり過酷な毎日なのです。

ふつうマグロ船というと、遠洋漁業で何年も帰らないというイメージをもちますが、実はマグロ船でも短距離と遠距離があるそう。短距離だとだいたい40日~2カ月、遠距離だと4カ月~2年とそれぞれ期間が違います。


齊藤さんが、マグロ船の暮らしの中でも一番苦労したのは睡眠不足になることだそうで、過酷な肉体労働の中のベッドルームはエンジンの音やスクリューの振動でゆっくりできず、工事現場のすぐ隣で寝るようなものだとか。慣れない暮らしで精神的、肉体的にも極限状態に追い詰められたそうです。
そんな暮らしの中で、病気になったらどうするのかを聞いてみたところ、「私が乗ったマグロ船には、医務室もなければ、医療の資格を持った人もいませんでした。あるのはバファリンだけ。でも頼みの綱のバファリンも、残念ながら、使用期限が2年前に切れていました」……笑えないエピソードですが、それでも大丈夫なのかを突っ込んでみたところ、
「病院も薬もないという極限状態が、人間の免疫を最高にさせるのかもしれません」とのお答えが。
そ、そうですか。
確かに物凄く気を張っているときは風邪も引かなくなりますものね。

では、気になるマグロ船だったら、ものすごく美味しいマグロが食べられるのではと思うのですが、そのあたりは?

「『マグロの心臓の炒め物』、『マグロの胃袋の煮物』、『マグロの目玉』など、どの珍味もわりとおいしかった」そうですが、マグロ船に乗った齊藤さんは、43日船に乗って、吐かなかったのは3日だけだったので、一番おいしく感じたのは、オレンジジュースだったとか。
やっぱり想像以上に甘くないようです。船酔いも想像以上だそうで、台風の時期には、遊園地にある魔法のじゅうたんに乗っているようなグルグル回る感覚に。齊藤さんも本当にもう、「死んだ方がマシ」と思える状態だったそうです。

齊藤さんが乗っていた船の乗組員は、全員が、大分県の離れ島出身の人で、島のほとんどの男たちは、代々漁師。
風貌はやっぱり、かっちりしていて、屈強な上にみな不精ヒゲを生やしていてワイルド。海の男のイメージどおりだそうです。
そんな海の男たちのとっても気になる男同士の生活ですが、漁師たちはみんな狭い船で同じ人と24時間顔を合わせるので、みんな仲良しでした。仲良しというよりも、仲が悪くならないようにする工夫がたくさんあったそう。
そんな中での海の男たちの楽しみは、激しい波に揺れながらエッチビデオを見ることだというのだから、肝の据わり方を見ても、体力を見ても、どう考えても、漁師さんには一生勝てそうもないです……。いや勝つ気もないんですけど(笑)。

(カシハラ@姐御)