――そういえば『ミミア姫』はなぜ人間の世界ではない場所が舞台なのですか? 人間の姿(羽のない姿)のほうが「神さまの子」と設定されたのはなぜですか?
田中 作家には事前に隅から隅まで固めてから書くタイプもあれば、書き進めながら考えるタイプもあります。
僕は後者の描きながらタイプなので、先にイメージや言葉や出来事が来て、その意味を後から必死で考えます。そのイメージや言葉や出来事が本物かどうかを感じ分けるのに集中します。正しいものが見えるまで何度でも描き直します。巨岩の奥にきっとあるはずの作品の正体を少しずつ掘り出していく感じです。
光の羽根の意味も、何故ミミアだけにそれが無いのかも、この作品に取り組んだ7年間ずっと考え続けました。
――独特なマンガへの向かい方ですね。『愛人』『ミミア姫』のみならず、田中ユタカ作品は絵と言葉のバランスが非常に特徴的だと思います。なぜこのような手法を取られたのでしょうか。
田中 マンガにはマンガでしか達成できない表現があります。重要なのは、その違いを感じ取れる読者がちゃんと大勢いらっしゃるということです。
マンガは映像や演劇に比べるとより個的なコミュニケーションだと感じています。それがたとえ大部数刷られた作品だったとしても、本を開いた時は1対1の個人と個人の魂の深い部分でのコミュニケーションです。